画家を知る

九点とも、寸法が一ミリも違わない——ジョージ・カトリン

訳された名

名の意味を訳すのは、簡単ではない。

音を写しただけでは、意味が伝わらない。訳せば、音が消える。

だからこの題は、両方を並べている。音写と、訳を、続けて書く。

ただし、訳が正確かどうかは確かめようがない。

聞き取り、書き取り、訳す。三つの段階で、それぞれずれが生じうる。

音を、文字にする難しさ

音を別の言語の文字で写すのは、いつも近似になる。

英語にない音は、近い文字に置き換えるしかない。

符号を付けて長さや強さを示すこともある。九点の題にもその符号が見える。

日本語に訳すときは、その近似をもう一度移し替えることになる。

二重の近似になるので、もとの音からは遠ざかる。

綴りについて

九点の名の綴りは、十九世紀の記録のままである。

いまの表記とは違う。母音の上に符号が付く形も見える。

これは、聞いた音を英語の綴りで写そうとした跡である。

館は綴りを直していない。直せば読みやすくなるが、いつの記録かが分からなくなる。

ここでも、館の題をそのまま訳し、注意書きを添えることにした。

スタン・オー・パット、血に染まった手、部族の首長
ジョージ・カトリン《スタン・オー・パット、血に染まった手、部族の首長》1832年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《スタン・オー・パット、血に染まった手、部族の首長》スミソニアン協会蔵

胸から上を描いた画面である。

顔の全面が赤く塗られている。目の周りだけが地の肌色である。

頭には黒と白の羽根が数本立つ。左右に広がる。

耳には輪の飾りが下がる。

衣は白に近い革で、胸に円い模様が並ぶ。赤と黄の細かい飾りである。

肩から袖にかけて、黒い房が長く垂れる。

右手に、黒い筒状のものを持つ。

背景は淡い緑と灰で、平らに広がる。

顔の赤は、九点のなかで最も強い色である。

持ち物の種類

九点の人物が手に持つものを数えてみる。

槍が三点、矢が一点、斧のような道具が一点、旗が一点、杖が一点。

何も持たない人物は、九点のうち二人だけである。

持ち物は、その人の立場や役割を示すと考えられる。

ただし、館の記録には持ち物の説明がない。ここでは形だけを書いた。

顔に塗る色

九点のうち二点で、顔に赤い色が塗られている。

装いの一部である。式や戦いの場で用いられたと伝えられる。

絵の側から見れば、これは強い視覚の要素になる。

背景が淡いので、赤い顔がいっそう際立つ。

ただし、その意味を絵は説明しない。館の記録も書いていない。

オ・ロン・ガス・シー、熊捕り、名高い戦士
ジョージ・カトリン《オ・ロン・ガス・シー、熊捕り、名高い戦士》1832年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《オ・ロン・ガス・シー、熊捕り、名高い戦士》スミソニアン協会蔵

胸から上を描いた画面である。

頭髪は短く刈られ、中央だけが赤く逆立つ。

顔の右半分に、赤い色が塗られる。左半分は肌の色である。

耳には細長い白い飾りが下がる。二本ずつある。

首には青と赤の珠の飾りが幾重にも巻かれる。

胸に、白く丸い貝の飾りが下がる。

肩から白い毛皮の布が掛かる。両手でその布を押さえる。

背景は黄土色で、上部が明るい。

顔の左右で色が違うのは、塗り分けているからである。

耳と首の飾り

九点の人物は、いずれも装身具を着けている。

耳飾りが六点、首飾りが七点、胸に下げる丸い飾りが四点ある。

素材は、貝、骨、金属、珠のように見える。画像からは断定できない。

こうした細部は、絵でしか残らないことが多い。

文字の記録では、色も配置も伝わらない。

名の意味と、姿

題の訳を読んでから画面を見ると、結びつけたくなる。

熊捕り、という名の人が、熊の毛皮らしい布をまとっている。

しかし、それが名の由来である証拠はない。

絵と題を結びつけて読むのは、見る側の癖である。

館の記録は、その結びつきを保証していない。

イー・アー・サ・パ、黒い岩、二つの釜の一族の首長
ジョージ・カトリン《イー・アー・サ・パ、黒い岩、二つの釜の一族の首長》1832年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《イー・アー・サ・パ、黒い岩、二つの釜の一族の首長》スミソニアン協会蔵

九点で最初の全身像である。

人物が立ち、頭から足まで画面に入る。

頭には羽根の飾りが載り、背中を通って足元まで垂れる。羽根の数は数十本ある。

衣は淡い黄褐色の革で、胸に飾りが並ぶ。

肩からは暗い色の布が下がる。

右手に長い槍を持つ。先が上へ伸びる。

背景の右に、円錐形の住居が小さく描かれる。数は三つほどである。

地面は緑がかった色で、平らである。

全身が入るぶん、顔は小さい。目鼻は簡略になる。

全身にすると、何が変わるか

全身を描けば、装いの全体が見える。

羽根の飾りが足元まで届くことも、履物の形も分かる。

かわりに、顔は小さくなる。表情は読み取りにくい。

九点の四点が全身なのは、装いを見せる必要があったからだと考えられる。

同じ布の上で、何を優先するかが分かれている。

チョン・タス・サブ・ビー、黒い犬、第二の首長
ジョージ・カトリン《チョン・タス・サブ・ビー、黒い犬、第二の首長》1834年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《チョン・タス・サブ・ビー、黒い犬、第二の首長》スミソニアン協会蔵

全身を描いた画面である。

人物は白い布を体に巻く。肩から足元まで覆う。

布には、暗い色の帯が縦に入る。

頭は剃られ、中央に赤い房が立つ。

耳から白い飾りが下がる。胸にも丸い飾りがある。

右手に、柄の長い道具を持つ。頭部が斧のような形である。

そこから羽根が二本、下に垂れる。

背景は薄い紫と灰で、雲のような広がりがある。

足元の地面は淡く、影がほとんどない。

白い衣が、五点

九点の衣を見ると、白か淡い黄褐色のものが五点ある。

革をなめしたものだと考えられる。表面に飾りが縫い付けられる。

暗い色の衣は二点、鮮やかな青の上衣が一点である。

淡い衣は、淡い背景の中では埋もれやすい。

そこで、輪郭に細い線を入れて切り出している。九点に共通する処理である。