画家を知る

九点とも、寸法が一ミリも違わない——ジョージ・カトリン

縦73.7センチ、横60.9センチ。九点の寸法の欄には、誤差なく同じ数字が並ぶ。既製の布を同じ寸法で切り、同じ木枠に張ったからである。題は三つの部分に分かれ、訳された名の綴りが揺れる。規格の側から九点を読みたい。

ナ・ポウ・サ、夜歩く熊、首長
ジョージ・カトリン《ナ・ポウ・サ、夜歩く熊、首長》スミソニアン協会蔵

九点とも、同じ大きさ

九点の寸法の欄には、まったく同じ数字が並ぶ。

縦73.7センチ、横60.9センチ。インチに直せば、二十九掛ける二十四である。

誤差もない。九点とも、一ミリの違いなく同じである。

制作年は1830年から1845年まで、十五年に及ぶ。

その十五年のあいだ、同じ寸法の布を使い続けている。

これは偶然ではない。決めて使っている。

同じ寸法でそろえれば、並べたときに一つの群れに見える。

九点は、その群れの一部である。

規格の布

当時の画材屋では、あらかじめ木枠に張った布が売られていた。

寸法には規格があり、番号や呼び名が付いていた。

二十九掛ける二十四は、胸像に使われる標準の大きさである。

買ってきてすぐ描ける。旅先へ持ち出すにも、まとめて運べる。

九点の寸法がそろっているのは、その規格を使い続けた結果である。

旅先で布を裁ち、木枠を組むのは手間がかかる。

張った布を束ねて運べば、着いた日から描ける。

短い滞在で数を描くには、その用意が要る。

木枠の跡

九点の画像を見ると、布の縁が見えるものがある。

木枠に沿って、絵具の厚みが変わる。張った跡である。

角の近くでは、布の目が浮くこともある。

こうした痕跡は、実物を見なくても画像から読み取れる。

規格の布を使ったことの、もう一つの証拠になる。

一人に、一枚

九点はいずれも、一人だけを描いている。

複数の人物を一枚に収めた画面は、この九点にはない。

一人に一枚と決めれば、あとで並べ替えられる。

順番も、組み合わせも、あとから変えられる。

一覧を作るには、この作りが都合よい。

群像にすれば、一枚で何人も描ける。時間は節約できる。

しかし、あとで一人ずつ見せることができない。

一人に一枚という選択は、記録としての使い方を先に決めている。

題は、三つの部分でできている

九点の題を読むと、いずれも三つの部分に分かれる。

まず、その人の名が、音を写した形で書かれる。

次に、その名の意味が英語に訳される。夜歩く熊、血に染まった手、雷の鳥。

最後に、地位が添えられる。首長、第二の首長、名高い戦士。

名と、意味と、地位。三つが並んで一つの題になる。

この形式は、九点のうち七点で守られている。

残る二点には地位が入らない。名と訳だけである。

館の題は、聞き取られた情報をそのまま並べた形になっている。

ナ・ポウ・サ、夜歩く熊、首長
ジョージ・カトリン《ナ・ポウ・サ、夜歩く熊、首長》1830年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《ナ・ポウ・サ、夜歩く熊、首長》スミソニアン協会蔵

胸から上を描いた肖像である。

人物は体をやや右へ向け、顔はこちらを見る。

髪は黒く、頭の上に羽根の飾りが立つ。数本が上へ跳ねる。

衣は黄土色で、襟元が開く。首に暗い色の布が巻かれる。

胸から腰へ、房の付いた帯が斜めに掛かる。

肩から、褐色の布が垂れる。

背景は淡い青と灰色で、雲のような筆の跡が広がる。

下部は塗り残しに近く、地の色が見える。

顔には陰影が入り、頬骨と鼻筋が描き分けられる。

筆は速い。衣の房は数本の線でまとめられる。

顔だけが丁寧である。目の縁、口の端、頬の張りまで追われる。

九点を通して、この配分は変わらない。顔に手数が集まる。

背景を、描き込まない

九点の背景は、いずれも簡素である。

雲のような色の広がりか、うっすらとした地面だけである。

建物や道具は、ほとんど置かれない。

人物の周りを描き込むと、時間がかかる。旅の途中では難しい。

背景を省くことで、一日に何点も描けるようになる。

もう一つ、理由が考えられる。背景があると、場所が特定される。

無地に近い背景なら、どこで描いたかが分からない。

一覧として並べるときには、そのほうが揃って見える。

ケ・チム・クア、大熊
ジョージ・カトリン《ケ・チム・クア、大熊》1830年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《ケ・チム・クア、大熊》スミソニアン協会蔵

膝から上を描いた画面である。

右手に、赤い旗のようなものを持つ。細い棒の先に布が垂れる。

頭には羽根の飾りが左右に広がる。中央に赤い羽根が立つ。

首から胸にかけて、細い紐が何十本も重なる。長い首飾りである。

肩には黄土色の布が掛かる。内側は暗い緑である。

顔は正面を向き、口元が引き締まる。

背景は黄と灰で、右上が明るい。

下部は筆が粗く、絵具が薄い。

同じ寸法でも、こちらは腰まで入る。前の一点より人物が小さい。

首飾りの紐は、一本ずつ描かれている。数十本ある。

その細かさは、顔の描写と同じ密度である。

装いの細部が、この絵の主な情報になっている。

半身と、全身

九点を並べると、画面に入る範囲がまちまちである。

胸から上が三点、腰から上が二点、全身が四点である。

同じ大きさの布に、違う範囲を収めている。

全身を入れれば、人物は小さくなる。顔の描写は粗くなる。

胸像にすれば、顔は大きく描ける。かわりに、衣の全体は見えない。

ニ・コ・マン、答え、第二の首長
ジョージ・カトリン《ニ・コ・マン、答え、第二の首長》1830年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.7センチ、横60.9センチとされる。スミソニアン協会蔵。ジョージ・カトリン《ニ・コ・マン、答え、第二の首長》スミソニアン協会蔵

腰から上を描いた画面である。

頭に、赤と青の縞の布を巻く。上に羽根が二本立つ。

上衣は濃い青で、襟と裾に赤い縁取りが入る。

胸元に白い布が見える。首元で結ばれる。

右手に、細い棒を数本まとめて持つ。矢のように見える。

左手は腰のあたりにあり、平たいものを持つ。

背景は褐色と灰で、下部に薄い地面がある。

上衣の青は、九点のなかで最も鮮やかである。

題には、答え、という意味の語が添えられる。名の訳である。

同じ構えで、立たせる

九点の人物の姿勢を比べると、型がある。

体をわずかに斜めに向け、顔はこちらへ回す。

手には何かを持たせる。槍、矢、道具、旗。

足の位置は、全身像では左右に開く。

型を決めておけば、迷わずに描ける。数をこなすための工夫でもある。