海の飾りは、絵の中にある——サンズ・フランケン・辰斎ほか九点

浅く広い皿である。
高さ3.5センチ、直径16センチしかない。
底は平らで、高台が外へ開く。
外側は、鮮やかな赤である。
赤は一様で、むらがない。
縁のところで、色が切れる。
内側は、白い。
白い面には、彫りの文様がある。
中央に、魚がいる。
魚は体をひねり、上へ向かう。
鱗は、細かい線で刻まれる。
そのまわりに、波がある。
波は渦を巻き、先が割れる。
魚の頭の上で、水が渦になり始める。
縁の内側には、茶色の帯が回る。
帯の幅は、指一本ぶんほどである。
白と赤の境を、隠している。
館の記録では、この低く広い皿の外側は、赤い珊瑚の釉で覆われている。
内側は白く、彫り文様がある。
縁は褐色の酸化鉄で飾られるという。
そして館は、文様について書いている。
主となる図は、皿の平らな底を占め、一本の帯に囲まれる。
荒れた波に逆らって力強く泳ぐ鯉である。
よく見ると、魚の顔は龍に似ているという。
滝を登って龍になる鯉の話かもしれないという。
館の記録は、そう説明している。
つまり赤は、珊瑚の色の名で呼ばれている。
材料は、酸化銅か酸化鉄である。
珊瑚そのものは、使われていない。
色の名としての珊瑚は、鮮やかな赤である。
実物の珊瑚は、もっと沈んだ赤である。
名と実物のあいだに、差がある。
九点のうち、珊瑚が色の名なのは、この一点である。
珊瑚が、海の富として描かれる
五点目では、珊瑚は財である。

横長の小さな画面である。
額なしで23.5×30.9センチしかない。
画面の中央に、車がある。
車は貝の形をしている。
車を引くのは、馬である。
馬の前脚は蹄で、後ろは魚の尾である。
車の上に、二人が立つ。
一人は青い布を掲げる。
もう一人は、三叉の矛を持つ。
そのまわりに、人物が群がる。
人物は水の中に半身を沈める。
手には、貝や器を持つ。
奥には、岩の洞窟がある。
洞窟の口に、人影が見える。
空には、鳥と魚が飛ぶ。
空は灰色で、雲が厚い。
遠くには、低い岸が見える。
水面は、灰緑である。
館の記録では、水の神と妻が、海馬の引く車に乗る。
水鳥と飛ぶ魚が、その上を滑る。
遠くでは、洞窟から精たちが手招きするという。
そして館は、こう続けている。
三叉の矛は、水と嵐への力を表す。
従者たちの運ぶ魚と貝と珊瑚と真珠が、その富を示すという。
館の記録は、そう説明している。
つまり珊瑚は、群衆の手の中にある。
画面では、数ミリの大きさしかない。
枝の形も、色も、はっきりしない。
館の記録が挙げていなければ、気づけない。
九点のうち、記録がなければ見えないのは、この一点である。
鼈甲の髪飾りが、贈り物になる
六点目からは、鼈甲である。

横長の小さな版画である。
14.9×19.2センチしかない。
画面の右に、反物がある。
反物は巻かれ、端が広がる。
広がった面には、文様がある。
地は青灰色である。
その上に、鳥と花が並ぶ。
鳥は翼を広げ、白い。
花は丸く、赤と白である。
反物の縁には、細い帯がある。
反物の下には、赤い布が敷かれる。
その手前に、平たい箱がある。
箱は開いている。
箱の中に、細長いものが二本ある。
二本は褐色で、艶がある。
鼈甲の髪飾りである。
箱の脇から、細い紐が垂れる。
画面の左には、文字が並ぶ。
文字は縦書きで、六行ある。
和歌らしい。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
題には、贈り物という語が添えられる。
摺物は、私的に配られる版画である。
つまり贈り物の絵が、贈り物として配られる。
描かれた反物も髪飾りも、贈るための品である。
二重になっている。
館の記録も、題にその語を添えている。
九点のうち、鼈甲が描かれているのは、この一点である。
鼈甲を、火薬入れにする
七点目では、鼈甲は器である。

細長い容れ物である。
長さは24.1センチある。
形は、先の細い三角である。
太いほうが下、細いほうが上である。
面は黒く、艶がある。
光の当たるところだけ、褐色が透ける。
面は平らではなく、緩く反る。
上の端に、金属の口金がある。
口金は細く、注ぎ口の形である。
口金の脇に、小さな金具が付く。
面の中央に、金の飾りがある。
飾りは左右対称で、渦を巻く。
飾りの中心には、円い形がある。
上下の端にも、小さな金具がある。
金具には、環が付く。
環は小さく、鋼である。
紐を通して、腰に下げる。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
材料は、鼈甲と鋼と金である。
つまり本体は、亀の甲羅である。
甲羅は熱すると柔らかくなる。
型に入れて押せば、形が付く。
冷えれば、その形で固まる。
九点のうち、鼈甲が器の本体なのは、この一点である。
甲羅は、もともと反っている。
その反りが、腰に当てたときに沿う。
形を変えずに、使える部分がある。
鼈甲に、金属を象嵌する
八点目では、鼈甲は面である。