海の飾りは、絵の中にある——サンズ・フランケン・辰斎ほか九点

浅い引き出しである。
全体は12.7×28.1×42.5センチある。
正面の面が、装飾されている。
地は、暗い褐色である。
その上に、白い線が走る。
線は渦を巻き、左右対称に広がる。
渦の先は、細く尖る。
中央に、金色の飾りがある。
飾りは、獣の顔らしい。
その下に、鍵穴がある。
四隅には、金色の当て金がある。
面の縁には、細い枠が回る。
引き出しの内側は、無地である。
木の地が、そのまま見える。
見えない面には、手をかけていない。
側面にも、装飾がない。
館の記録では、この作り手は王の家具師に任じられ、家具作りの名手になった。
金属の文様を鼈甲に象嵌し、それを家具の表面に貼る技法で知られる。
その水準に達した者は少なかったという。
そして館は、こう続けている。
この作り手の意匠は、対立する考えや材料を並べる知的な流行の一例であるという。
館の記録は、そう説明している。
つまり暗い甲羅の上に、明るい金属を嵌める。
色の対比が、そのまま文様になる。
甲羅は、下に色を敷くと透ける。
赤を敷けば赤く、黒を敷けば黒くなる。
この面は、暗く見える。
下に暗い色があるらしい。
鼈甲の竪琴が、壺に描かれる
最後の一点で、鼈甲は楽器である。

大きな混酒器である。
直径40.4センチ、高さは41センチある。
口は広く、外へ開く。
肩に、太い把手が二つ付く。
把手は円柱の形をしている。
地は黒く、艶がある。
胴の正面に、二人の人物がいる。
左の人物は髭があり、杖を持つ。
体は前へ傾く。
右の人物は、若く、裸である。
手に、丸い胴の楽器を持つ。
楽器の胴は、亀の甲羅の形である。
そこから、二本の腕が上へ伸びる。
腕のあいだに、弦が張られる。
もう一方の手には、器を提げる。
口の下には、文様の帯が回る。
帯は短い縦線の並びである。
その上に、舌状の文様がある。
館の記録では、この器は酒宴で葡萄酒と水を混ぜるために使われた。
そして館は、描かれた場面を説明している。
一方の面では、髭のある男が杖と杯を持ち、前へかがむ。
その前に、裸の少年がいる。
少年は亀の甲羅の竪琴と、籠か手桶を持つという。
もう一方の面では、若者が深い杯を持ち、片方だけ靴を履いて踊る。
その上の首の部分には、大きな文字が掻き込まれている。
おそらく、かつての持ち主の名であるという。
館の記録は、そう説明している。
つまり竪琴の胴は、亀の甲羅である。
鼈甲は、削って飾りにもなり、そのまま器にもなる。
そして、楽器の胴にもなる。
甲羅は中が空で、丸い。
音がよく響く形である。
九点のうち、鼈甲が音を出すのは、この一点である。
ただし、これは陶に描かれた竪琴である。
実物の竪琴は、館にない。
描かれた形から、材料が分かるだけである。
亀そのものを描いた絵については、鶴と亀で扱った。
数えてみると
九点を並べ直す。
珊瑚が関わるのは、四点である。
数珠の珠、チョークで描かれた首飾り、壁画の題、そして海の富。
そのうち、実物の珊瑚が館にあるものは一つもない。
すべて、絵に描かれたか、名前になっている。
珊瑚は枝の形をしている。
折れやすく、細い。
磨いて珠にすれば残るが、枝のままでは壊れる。
館に残りにくいのは、そのためかもしれない。
鼈甲が関わるのは、四点である。
描かれた髪飾り、火薬入れ、象嵌の面、そして描かれた竪琴。
実物の鼈甲が館にあるのは、二点である。
残る一点は、珊瑚色の釉である。
もう一つ数える。
九点のうち、館の記録の材料の欄に珊瑚か鼈甲があるのは三点である。
火薬入れ、象嵌の面、そして髪飾りの題。
髪飾りは題にあり、材料の欄にはない。
数え直すと、材料の欄にあるのは二点である。
残る七点では、二つは絵か名前の中にある。
描かれたものは、材料の欄に入らない。
入るのは、その絵の材料だけである。
だから珊瑚は、記録の上では姿を消す。
姿を残すのは、説明文と題である。
館の記録の中で、書かれる場所が違う。
言えることと、言えないこと
言えるのは、二つが「削って形にできる海の材料だ」ということである。
珊瑚は枝を切り、丸く磨いて珠にする。
鼈甲は薄く削り、熱して曲げる。
どちらも、石ほど硬くない。
そして木ほど柔らかくもない。
九点のうち三点で、その中間の硬さが使われていた。
数珠の珠、火薬入れ、そして象嵌の面。
三点とも、手に触れるものである。
触れても割れない硬さが、選ばれている。
石なら、重くて冷たい。
木なら、軽くて傷つく。
その中間が、身につける品に向いている。
体温になじむのも、その中間の性質である。
握れば、すぐ温かくなる。
言えないのは、珊瑚が赤いという話である。
釉の色の名としては、鮮やかな赤である。
しかし数珠の珠は、暗い赤褐色に見える。
首飾りの珠も、桃色に近い。
同じ名で呼ばれる色に、幅がある。
珊瑚そのものにも、色の幅がある。
深いところのものほど、赤が濃い。
浅いところのものは、桃色に寄る。
名は、その幅をまとめて呼んでいる。
最後に、はじめの一枚へ戻る。
黒い衣の上で、赤い珠が縦に並んでいる。
その珠は、海から来た。
そして手の中で、信心の道具になっている。
数える道具でもある。
珠を一つずつ送りながら、祈る。
九点を数えることと、形が似ている。
一つずつ確かめて、順に進む。
終わりまで来れば、はじめへ戻る。
館の記録は、それを信心のしるしかもしれないと書いていた。
九点を数え終えて残るのは、海の産物が手の中に移るまでの距離のほうである。
採る人と、磨く人と、持つ人がいる。
館の記録に残るのは、最後の一人だけである。
数珠を持つ女性の名も、分かっていない。
それでも、珠は残っている。
描かれた珠であって、実物ではない。
実物は、どこかで失われた。
絵のほうが、長く残った。
海から来た材料より、板と絵の具が残る。
順序が、逆になっている。
硬いものが残り、柔らかいものが消えるとはかぎらない。
残るかどうかは、扱われ方で決まる。









