美術史・技法

海の飾りは、絵の中にある——サンズ・フランケン・辰斎ほか九点

珊瑚は枝を磨いて珠にし、鼈甲は薄く削って熱で曲げる。九点を数えると、実物が館にあるのは二点だけで、あとは絵に描かれるか、釉の色の名や壁画の題になっていた。石ほど硬くなく木ほど柔らかくもない、海から来た材料の記録である。

女性の肖像
女性の肖像》クリーヴランド美術館蔵

黒い衣の胸で、赤い珠が光っている

小さな板絵である。

額なしで30.3×21.3センチしかない。

背景は、明るい格子の文様である。

格子には、青と金と赤が使われる。

その前に、女性がいる。

胸から上が描かれる。

顔はやや右を向く。

年齢は、若くはない。

目の下と口の脇に、皺がある。

口は結ばれ、口角が下がる。

頭には、白い薄布の被り物がある。

布は透け、下の髪が見える。

首元には、白い襟が立つ。

衣は黒く、袖口に毛皮が付く。

胸の前で、両手が組まれる。

手のあいだに、数珠がある。

数珠の珠は、赤い。

珠は小さく、丸い。

そのあいだに、金の小さな板が挟まる。

金の板には、円い形が彫られている。

数珠は、下へ長く垂れる。

女性の肖像
聖家族の画家《女性の肖像》1490年から95年ごろ。館の記録では、板に油彩。額なしで30.3×21.3センチ。番号は1962.259。クリーヴランド美術館蔵。女性の肖像》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、この肖像は中年を過ぎた女性を表している。

その人は、珊瑚と金のメダルでできた数珠を持つ。

誰かは分からないという。

しかし、毛皮の袖口の付いた黒い毛織の衣と、白い薄い麻の被り物の豊かさと気品が、暮らし向きの良さを示している。

数珠が目立つのは、その人の信心を示すためかもしれないという。

館の記録は、そう説明している。

つまり赤い珠は、珊瑚である。

珠の数は、二十を超える。

大きさは、どれもほぼ同じである。

金の板は、そのあいだに三つ挟まる。

赤と金が、交互に並ぶ。

海の飾りは、九つの場所に現れる

この一枚を出発点に、珊瑚と鼈甲にまつわる九点を数えていく。

珊瑚は、海の中で育つ生き物の骨格である。

枝の形に伸び、赤や桃色になる。

鼈甲は、海亀の甲羅である。

薄く削ると、褐色と黄の斑が透ける。

どちらも、海から来る。

そして硬くもなく、柔らかくもない。

削れて、磨ける。

先に言ってしまうと、九点のうち、珊瑚が関わるのは四点である。

鼈甲が関わるのは、四点である。

残る一点では、珊瑚は釉の色の名である。

つまり材料が二つに分かれ、ほぼ同じ数になる。

二つに共通するのは、海から来ることである。

そして、遠くまで運ばれることである。

山で採れる石とは、道筋が違う。

掘るのではなく、潜って採る。

採る人は、船を出す。

運ぶのも、船である。

海の産物は、はじめから交易の品である。

珊瑚の首飾りを、チョークで描く

二点目は、素描である。

珊瑚の首飾り
フレデリック・サンズ《珊瑚の首飾り》1871年。館の記録では、黒・茶・赤のチョーク。紙は55.9×39.2センチ。番号は1997.7。クリーヴランド美術館蔵。フレデリック・サンズ《珊瑚の首飾り》クリーヴランド美術館蔵

縦長の紙である。

紙は55.9×39.2センチある。

中央に、女性の頭部がある。

顔は左を向く。

目は大きく、まっすぐ前を見る。

鼻筋は通り、唇は厚い。

髪は編まれ、頭の上でまとめられる。

編み目が、一つずつ描かれている。

首は長く、傾く。

首には、赤い珠の輪が三重に掛かる。

珠は小さく、大きさがそろう。

輪は下へ行くほど大きい。

肩には、白い衣がある。

衣の縁には、細かい襞がある。

背景には、細い葉が広がる。

葉は月桂樹らしい。

頭のまわりを、輪のように囲む。

葉は薄い緑で、輪郭が淡い。

館の記録では、この画家はある画家の友人で、当時の芸術と文学と演劇の集まりで活発に動いた。

これは、この画家のもっとも好んだ模特児の肖像である。

そして館は、描き方について書いている。

きわめて優れた素描家で、ここでは線ではなく調子で描いている。

粗い目の紙にチョークを繊細に置き、紙の低い部分を触れずに残す。

そうして、点描のような霞んだ効果を作り出したという。

館の記録は、そう説明している。

つまり赤い珠は、赤いチョークである。

紙の凹凸が、そのまま珠の艶になっている。

低い部分にはチョークが入らない。

だから白い点が残る。

その点が、光の反射に見える。

九点のうち、紙の目が使われているのは、この一点である。

珊瑚が、壁画の題になる

三点目では、珊瑚は題である。

珊瑚(シカゴ万国博覧会の壁画のための習作)
ウォルター・シャーロー《珊瑚(シカゴ万国博覧会の壁画のための習作)》1892年ごろ。館の記録では、褐色の織紙に木炭とパステル。138.4×80.6センチ。番号は1995.374。メトロポリタン美術館蔵。ウォルター・シャーロー《珊瑚(シカゴ万国博覧会の壁画のための習作)》メトロポリタン美術館蔵

縦長の大きな紙である。

138.4×80.6センチある。

中央に、人物が立つ。

体は正面を向く。

両腕を頭の上へ上げる。

手は、髪に触れる。

顔はやや右へ傾く。

体のまわりに、薄い布が渦を巻く。

布は左右へ広がる。

布の縁は、風になびく形である。

背景には、太い弧が描かれる。

弧は上へ向かって開く。

紙の地は、褐色である。

明るい部分には、白いパステルが置かれる。

暗い部分は、木炭である。

線は太く、速い。

輪郭は、何度も引き直されている。

消した跡も、そのまま残る。

下絵なので、直しを消していない。

館の札には、題と用途が記される。

つまりこれは、壁画の下絵である。

題にある珊瑚は、この人物の名である。

海の産物を、人の姿で表している。

しかし画面に、珊瑚の枝はない。

人物の髪飾りらしい形が、頭の上にある。

それが枝かどうかは、分からない。

館の記録も、書いていない。

壁画の下絵については、壁画の下絵で扱った。

珊瑚が、釉の色になる

四点目では、珊瑚は色である。