海の飾りは、絵の中にある——サンズ・フランケン・辰斎ほか九点
珊瑚は枝を磨いて珠にし、鼈甲は薄く削って熱で曲げる。九点を数えると、実物が館にあるのは二点だけで、あとは絵に描かれるか、釉の色の名や壁画の題になっていた。石ほど硬くなく木ほど柔らかくもない、海から来た材料の記録である。

黒い衣の胸で、赤い珠が光っている
小さな板絵である。
額なしで30.3×21.3センチしかない。
背景は、明るい格子の文様である。
格子には、青と金と赤が使われる。
その前に、女性がいる。
胸から上が描かれる。
顔はやや右を向く。
年齢は、若くはない。
目の下と口の脇に、皺がある。
口は結ばれ、口角が下がる。
頭には、白い薄布の被り物がある。
布は透け、下の髪が見える。
首元には、白い襟が立つ。
衣は黒く、袖口に毛皮が付く。
胸の前で、両手が組まれる。
手のあいだに、数珠がある。
数珠の珠は、赤い。
珠は小さく、丸い。
そのあいだに、金の小さな板が挟まる。
金の板には、円い形が彫られている。
数珠は、下へ長く垂れる。

館の記録では、この肖像は中年を過ぎた女性を表している。
その人は、珊瑚と金のメダルでできた数珠を持つ。
誰かは分からないという。
しかし、毛皮の袖口の付いた黒い毛織の衣と、白い薄い麻の被り物の豊かさと気品が、暮らし向きの良さを示している。
数珠が目立つのは、その人の信心を示すためかもしれないという。
館の記録は、そう説明している。
つまり赤い珠は、珊瑚である。
珠の数は、二十を超える。
大きさは、どれもほぼ同じである。
金の板は、そのあいだに三つ挟まる。
赤と金が、交互に並ぶ。
海の飾りは、九つの場所に現れる
この一枚を出発点に、珊瑚と鼈甲にまつわる九点を数えていく。
珊瑚は、海の中で育つ生き物の骨格である。
枝の形に伸び、赤や桃色になる。
鼈甲は、海亀の甲羅である。
薄く削ると、褐色と黄の斑が透ける。
どちらも、海から来る。
そして硬くもなく、柔らかくもない。
削れて、磨ける。
先に言ってしまうと、九点のうち、珊瑚が関わるのは四点である。
鼈甲が関わるのは、四点である。
残る一点では、珊瑚は釉の色の名である。
つまり材料が二つに分かれ、ほぼ同じ数になる。
二つに共通するのは、海から来ることである。
そして、遠くまで運ばれることである。
山で採れる石とは、道筋が違う。
掘るのではなく、潜って採る。
採る人は、船を出す。
運ぶのも、船である。
海の産物は、はじめから交易の品である。
珊瑚の首飾りを、チョークで描く
二点目は、素描である。

縦長の紙である。
紙は55.9×39.2センチある。
中央に、女性の頭部がある。
顔は左を向く。
目は大きく、まっすぐ前を見る。
鼻筋は通り、唇は厚い。
髪は編まれ、頭の上でまとめられる。
編み目が、一つずつ描かれている。
首は長く、傾く。
首には、赤い珠の輪が三重に掛かる。
珠は小さく、大きさがそろう。
輪は下へ行くほど大きい。
肩には、白い衣がある。
衣の縁には、細かい襞がある。
背景には、細い葉が広がる。
葉は月桂樹らしい。
頭のまわりを、輪のように囲む。
葉は薄い緑で、輪郭が淡い。
館の記録では、この画家はある画家の友人で、当時の芸術と文学と演劇の集まりで活発に動いた。
これは、この画家のもっとも好んだ模特児の肖像である。
そして館は、描き方について書いている。
きわめて優れた素描家で、ここでは線ではなく調子で描いている。
粗い目の紙にチョークを繊細に置き、紙の低い部分を触れずに残す。
そうして、点描のような霞んだ効果を作り出したという。
館の記録は、そう説明している。
つまり赤い珠は、赤いチョークである。
紙の凹凸が、そのまま珠の艶になっている。
低い部分にはチョークが入らない。
だから白い点が残る。
その点が、光の反射に見える。
九点のうち、紙の目が使われているのは、この一点である。
珊瑚が、壁画の題になる
三点目では、珊瑚は題である。

縦長の大きな紙である。
138.4×80.6センチある。
中央に、人物が立つ。
体は正面を向く。
両腕を頭の上へ上げる。
手は、髪に触れる。
顔はやや右へ傾く。
体のまわりに、薄い布が渦を巻く。
布は左右へ広がる。
布の縁は、風になびく形である。
背景には、太い弧が描かれる。
弧は上へ向かって開く。
紙の地は、褐色である。
明るい部分には、白いパステルが置かれる。
暗い部分は、木炭である。
線は太く、速い。
輪郭は、何度も引き直されている。
消した跡も、そのまま残る。
下絵なので、直しを消していない。
館の札には、題と用途が記される。
つまりこれは、壁画の下絵である。
題にある珊瑚は、この人物の名である。
海の産物を、人の姿で表している。
しかし画面に、珊瑚の枝はない。
人物の髪飾りらしい形が、頭の上にある。
それが枝かどうかは、分からない。
館の記録も、書いていない。
壁画の下絵については、壁画の下絵で扱った。
珊瑚が、釉の色になる
四点目では、珊瑚は色である。