名の残り方に、五つの段階——トマス・セア・カミングス
枠の形
枠の形は、二通りある。
楕円が四点、四角が四点。
残る一点は、枠が写っていない。
楕円は首から下げる形に、四角は机に置く形に向く。
同じ画家の作でも、注文によって形が変わる。

背景の三通り
九点の背景を分けると、三通りになる。
暈しただけのものが五点。
空や雲を描いたものが三点。
室内らしい面が見えるものが一点。
暈した背景は、手数が少なく、顔に目が集まる。
景色を入れると、画面に奥行きが出る。
そのぶん、描く時間は増える。
白黒の画像
いま見た一点の画像は、白黒である。
九点のうち、白黒は四点ある。
象牙の細密画は、色が身上である。
肌の色、衣の色、背景の色。
それが分からないのは、惜しい。
技法の欄には、水彩とだけ書かれる。
何色かは書かれていない。
撮り直すということ
白黒の画像を色のある画像に替えるには、撮り直すしかない。
一点ずつ倉庫から出し、光を当て、撮る。
所蔵品が数万点あれば、その手間は膨大になる。
だから、古い写真が残る。
九点の中で、四点がその状態にある。
灰色の台紙
この一点は、灰色の台紙の上に置かれて撮られている。
楕円の輪郭が、はっきり出る。
枠は写っていない。
枠から外して撮ったのか、もともと枠がないのか。
記録からは分からない。

最も小さい一点
いま見た一点は、九点で最も小さい。
縦5.6センチ、横4.2センチ。
親指と人差し指で作る輪ほどの大きさである。
その中に、顔と肩と、背景が収まっている。
枠には、上に細かい飾りが付く。
細い筆で描く
これほど小さな画面に顔を描くには、細い筆が要る。
毛が数本しかない筆を使い、点を重ねて肌を作る。
一度に大きな面を塗ると、むらが出る。
小さな点を無数に置けば、滑らかな面ができる。
九点の画像を拡大すれば、その点が見えるだろう。
象牙の白を、残す
明るいところは、絵具を置かずに象牙の地を残して作る。
白い絵具を使うより、澄んだ明るさになる。
襟や袖口の白が、その方法で作られている。
紙に描く水彩と、考え方は同じである。
小ささの意味
これほど小さい肖像は、身に着けるためのものだろう。
服の下に隠す。旅の鞄に入れる。
誰かを近くに置いておくための道具である。
そして、そうした使い方をされたものほど、名が消えやすい。
持ち主が亡くなれば、その人が誰を大事に思っていたかは分からなくなる。

名のない、一人の女性
いま見た一点は、名のない五点のうち唯一の女性である。
薔薇色の衣を着て、袖が大きく膨らむ。
肩から毛皮が垂れている。
髪は額の上で細かく巻かれ、後ろで結われる。
1830年代の装いである。
黒い板に貼る
この一点は、黒い板に取り付けられている。
金の枠に収められ、その外側に黒い縁が広がる。
上には吊るすための金具が付く。
壁に掛けるための仕立てだろう。
首から下げる形とは、想定されている使い方が違う。
毛皮と、袖
この一点の袖は、肩から大きく膨らみ、肘の下で絞られる。
1830年代の中ごろに流行した形である。
肩に垂れる毛皮は、襟巻きだろう。
衣装の細部が、年を推定する手掛かりになる。
館が、ころ、を付けて1835年としているのは、そうした判断だろう。
二段階の枠
つまり、この一点には枠が二重にある。
内側の金の枠と、外側の黒い板。
内側は象牙を保護し、外側は掛けるためにある。
記録の寸法は、そのどちらも含まない。
象牙そのものの寸法だけである。

黄色い胴着
この一点の人物は、黒い上着の下に黄色い胴着を着ている。
暗い上着の中で、その黄色が目を引く。
小さな画面では、こうした一つの色が効く。
枠には、細かい葉の飾りが刻まれている。
敬称と、姓だけ
いま見た一点の題は、敬称と姓だけである。
名は書かれていない。
つまり、家は分かっているが、個人は絞られていない。
同じ姓の男性が複数いれば、どれか分からない。
名の残り方としては、二段階目にあたる。
対になる二点
この一点には、対がある。
同じ姓の女性を描いた一点である。
年も同じ、技法も同じ、寸法も近い。
夫婦を描いた二点だと考えるのが自然である。
十九世紀には、夫婦の肖像を対で注文することが多かった。

二点の寸法
対の二点の寸法を比べる。
一点は、縦6.7センチ、横5.6センチ。
もう一点は、縦7センチ、横5.8センチ。
差は、3ミリと2ミリ。
象牙を削り出すので、完全にはそろわない。
対として作られていても、寸法は一致しない。
対で注文する
夫婦の肖像を対で作るのは、当時の習慣である。
同じ画家に、同じ時期に、同じ大きさで頼む。
二つ並べて飾れば、家族の記録になる。
九点の中で、対がはっきりしているのはこの二点だけである。
女性の名は、夫の姓で
この二点の題は、どちらも同じ姓である。
一方には男性の敬称、他方には既婚女性の敬称が付く。
つまり、女性は夫の姓で呼ばれている。
本人の名は、記録に残っていない。
十九世紀の記録では、これが普通だった。