名の残り方に、五つの段階——トマス・セア・カミングス
髪の描き方
この一点の女性は、両頬に巻いた髪を垂らしている。
一本ずつ細い線で描かれ、光の当たるところだけ明るい。
1840年前後に流行した髪型である。
顔の輪郭に沿って垂らすと、頬が細く見える。
二点の撮られ方
対の二点だが、画像の作られ方は違う。
一点は色のある画像で、桃色の地の上に置かれる。
もう一点は白黒で、白い地の上に置かれる。
撮影の時期が違うのだろう。
対であっても、記録の作られ方はそろわない。

姓名が、そろう
いま見た一点の題には、姓と名の両方がある。
名は二つ並び、その後に姓が来る。
九点のうち、この形はこの一点だけである。
名の残り方としては、三段階目にあたる。
ここまで残っていれば、他の記録と照らし合わせられる。
額の内側で測る
この一点の寸法には、他と違う語が付いている。
額の内側で見える範囲、という意味の語である。
つまり、象牙そのものの寸法ではない。
枠から外さずに測ったのだろう。
九点のうち、この書き方はこの一点だけである。
名が二つ並ぶ
この一点の名は、二つ並んでいる。
十九世紀のアメリカでは、名を二つ持つことが多かった。
そのうち一つは、家族や縁のある人物の名から取られる。
姓と合わせて三つの語が並ぶと、同姓の人と区別しやすい。
眼鏡と、嵐の空
この一点の人物は、細い眼鏡をかけている。
背景は暗く、雲が渦を巻いている。
右下には、建物らしいものが小さく見える。
小さな画面に、人物と天候と風景が入っている。
九点の中で、最も背景の作り込まれた一点である。

室内の背景
この一点の背景には、窓らしい明るい面と、椅子の背が見える。
九点の中で、室内が描かれているのはこの一点だけである。
暈した背景より、その人の暮らしが見えてくる。
画面が大きいので、そうした要素を入れる余地がある。
括弧の中に、本人の名
いま見た一点の題は、九点で最も長い。
まず、夫の姓名に既婚女性の敬称を付けた形が来る。
その後に、括弧が開き、本人の名が入る。
つまり、二通りの呼び方が並んでいる。
名の残り方としては、四段階目にあたる。
なぜ、二通り書くのか
当時の呼び方は、夫の姓名を使うものだった。
いまの読み方では、本人の名が要る。
その両方を残すために、括弧が使われている。
古い呼び方を消さず、本人の名も落とさない。
記録としては、丁寧な扱いである。
括弧の中の姓
括弧の中の名を読むと、姓が夫のものと違う。
結婚前の姓だろう。
つまり、この一点の題には二つの家の名が入っている。
生まれた家と、嫁いだ家である。
短い題の中に、その人の来歴が畳み込まれている。
最も大きい一点
この一点は、九点で最も大きい。
縦10.5センチ、横8.5センチ。
最も小さい一点の、四倍近い面積である。
そのぶん、描かれている情報も多い。
椅子に腰掛け、背後には窓らしい明るい面がある。
記録の丁寧さ
この一点の題は、九点で最も情報が多い。
夫の姓名、本人の名、結婚前の姓。
これだけ残っていれば、他の資料と照らし合わせられる。
名が残るかどうかは、その絵が誰の手を経てきたかによる。
家に残り続けた絵ほど、名も残る。
大きさと、名の残り方
ここで、一つ気づくことがある。
名の残っている四点は、いずれも寸法が中くらいから大きい。
名のない五点には、最も小さい一点が含まれる。
もっとも、名のない五点の中にも大きめのものがある。
だから、大きさと名の残り方に、はっきりした関係があるとは言えない。
分数の細かさ
九点の寸法は、いずれもきりの悪い数字である。
もとの単位では、十六分の一まで書かれるものが四点ある。
象牙を枠に合わせて削るので、規格の寸法にならない。
削り出す下地の特徴が、そのまま数字に出ている。
大きさの順に並べる
九点の縦の寸法を、小さい順に並べておく。
5.6、6.5、6.7、7、7.3、8.2、8.9、9.8、10.5センチ。
きれいに散らばっている。
規格の寸法があるわけではない。
枠に合わせて削るので、一点ごとに違う。
五つの段階を、並べる
最後に、名の残り方をもう一度並べておく。
名がまったくない五点。
敬称と姓だけの二点。
姓名のそろう一点。
夫の姓名と、本人の名を併記する一点。
同じ画家の、同じ二十年の仕事である。
その中で、名の残り方がこれだけ分かれる。
五点が、名を失った
九点のうち五点。半分以上が、名を失っている。
この割合は、細密画では珍しくない。
小さく、持ち運ばれ、売買される。
その性格が、名の残りにくさにつながっている。
記録は、残ったものを書く
館は、名を作り出すことはしない。
分からなければ、種類の名で呼ぶ。
分かる範囲だけを書き、それ以上は書かない。
だから、題の形を読めば、何がどこまで伝わったかが分かる。
題は、その絵が辿った道の跡でもある。
同じ画家の細密画については、九つの顔を、鎖でつなぐ——トマス・セア・カミングスでも扱った。
夫の名で記録される扱いについては、夫の名で、記録される——ジェームズ・ピールを参照されたい。









