暮らしと名画

飲む絵は、注ぐところで止まる——バサヴァナ・豊信・サージェントほか九点

飲むことを扱った九点を数えると、器が口に触れていたのは二点だけだった。多くはただ注ぎ、受け取り、掲げている。中身の見える器は一つもなく、飲むという行いは、器の形と手の動きだけで示されていた。宴も、警告も同じである。

異母兄ジャハーンギール・ミールザーがガズニーで催したバーブルのための宴(バーブル・ナーマより)
バサヴァナ《異母兄ジャハーンギール・ミールザーがガズニーで催したバーブルのための宴(バーブル・ナーマより)》クリーヴランド美術館蔵

天幕の下で、宴が開かれる

写本の一頁である。

異母兄ジャハーンギール・ミールザーがガズニーで催したバーブルのための宴(バーブル・ナーマより)
バサヴァナ《異母兄ジャハーンギール・ミールザーがガズニーで催したバーブルのための宴》1589年ごろ。外側の余白は二十世紀半ばの追加。館の記録では、紙にガム・テンペラと金。頁は28×18.1センチ。番号は2013.300。クリーヴランド美術館蔵。バサヴァナ《異母兄ジャハーンギール・ミールザーがガズニーで催したバーブルのための宴(バーブル・ナーマより)》クリーヴランド美術館蔵

縦長の頁である。

頁は28×18.1センチある。

周りに、装飾の枠がある。

画面の上に、赤い天幕がある。

天幕は、斜めに張られる。

その下に、白い衣の人が座る。

座る場所には、敷物がある。

奥に、建物の壁がある。

壁には、青と白の模様がある。

画面の中ほどに、赤い布が広がる。

布は縦縞で、大きい。

その上に、人が並ぶ。

服は黄、緑、青、白である。

頭には、巻いた布がある。

手に、椀や瓶を持つ人がいる。

一人は、瓶を傾ける。

一人は、器を受け取る。

下のほうにも、人がいる。

馬が二頭、画面の下端にいる。

全部で、三十人以上いる。

館の記録では、これは宴の場面である。

北から来た人を迎えるための宴だという。

館は、こうも書いている。

酒宴と饗宴は、天幕の中で開かれた。

そこで贈り物が交わされ、同盟が結ばれた。

戦いと同じくらい、国づくりに重要だったという。

館の記録は、そこまで説明している。

細部にも、記録が及ぶ。

世話役が、給仕に指示を出している。

匙を運び、卓を整えさせているという。

館は、そこまで書いている。

頁の裏には、文字がある。

これは日記の写本である。

館の記録は、その一節も訳す。

多くの贈り物が献じられた、という文である。

その年、川はどれも水かさを増していた。

舟を浮かべて、人々を渡らせたという。

宴の頁の裏に、旅の記録が続く。

絵と文が、交互に現れる本である。

外側の余白は、後から付け足されている。

飲むことは、九つの場所に現れる

このコラムでは、飲む絵を九点並べる。

九点は、館も年代も技法も違う。

細密画があり、油彩があり、版画があり、素描がある。

陶があり、磁器があり、銀器もある。

共通するのは、館の記録に飲む語があることだけである。

数えるのは、器が口に触れているかどうかである。

森の中で、狩りの一行が休む

二点目は、油彩である。

狩りの休息
カルル・ヴァンロー《狩りの休息》1737年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。59.1×49.5センチ。番号は1995.317。メトロポリタン美術館蔵。カルル・ヴァンロー《狩りの休息》メトロポリタン美術館蔵

縦長の画面である。

59.1×49.5センチある。

上のほうは、木と空である。

木は高く、葉が茂る。

空は青灰色で、雲が流れる。

奥に、天幕らしい布が見える。

画面の中央に、人が集まる。

十数人はいる。

中心に、女が座る。

女は黄色の衣を着る。

裾は、地面に大きく広がる。

その手に、小さな器がある。

隣に、男が座る。

男は青い上着である。

手には、瓶を持つ。

瓶を、傾けかけている。

周りに、立っている人がいる。

一人は、器を掲げる。

一人は、皿を運ぶ。

地面には、白い布が敷かれる。

布の上に、食器が並ぶ。

犬が、二匹いる。

犬は、食べ物のほうを見る。

奥には、馬もいる。

館の記録では、これは狩りの休息である。

飲むことが、その中心にある。

館の記録では、題は狩りの休息である。

狩りそのものは、描かれていない。

獲物も、弓も、銃も見えない。

あるのは、食器と、犬と、馬だけである。

休むことが、主題になっている。

画面の色を見ておきたい。

いちばん明るいのは、女の黄色い衣である。

次に明るいのが、地面の白い布である。

その二つが、画面の中央で重なる。

人はみな、そこを向いている。

食事の場が、光の中心でもある。

木の緑と空の青は、それを囲む。

囲まれた明るさに、器が並ぶ。

豪傑が、大杯を傾ける

三点目は、版画である。

酒を飲む豪傑坂田金平
石川豊信《酒を飲む豪傑坂田金平》1750年ごろ。館の記録では、木版多色摺・紙。18.4×28.9センチ。番号はJP845。メトロポリタン美術館蔵。石川豊信《酒を飲む豪傑坂田金平》メトロポリタン美術館蔵

横長の紙である。

18.4×28.9センチある。

画面の右に、家の内がある。

障子と、縁側がある。

上に、松の枝が下がる。

左は、外である。

流れが、白い線で描かれる。

画面の中央に、男が座る。

男は、片膝を立てる。

体は大きい。

衣は赤く、太い線で模様が入る。

顔は赤みを帯びる。

眉は太い。

口は開く。

その口へ、器を近づける。

器は平たく、大きい。

両手で、それを支える。

隣に、鎧をつけた人が立つ。

その人は、竹の筒を持つ。

腰には、刀がある。

床には、布と道具が広がる。

九点のうち、器が口に触れている一点である。

館の記録では、これは伝説の豪傑である。

力の強さで知られた人物だという。

芝居にも、繰り返し登場する。

大きな杯を干す場面は、その力を示す。

飲む量が、そのまま強さの証しになる。

体の描き方も、それに合う。

肩は張り、腕は太い。

衣の線は、太い墨で引かれる。

細い線は、松の葉にしか使われない。

太い線と細い線の差が、画面を作る。

口を開けた顔は、正面に近い。

見る人のほうへ、飲む姿を見せている。

兵士が、水を飲む

四点目は、素描である。