暮らしと名画

飲む絵は、注ぐところで止まる——バサヴァナ・豊信・サージェントほか九点

水を飲む兵士の習作(表)、男性裸体の習作(裏)
ジョン・シンガー・サージェント《水を飲む兵士の習作(表)》1918年から19年。館の記録では、木炭と黒鉛、方眼取り。紙は48.1×62.6センチ。番号は1997.256。クリーヴランド美術館蔵。ジョン・シンガー・サージェント《水を飲む兵士の習作(表)、男性裸体の習作(裏)》クリーヴランド美術館蔵

横長の紙である。

紙は48.1×62.6センチある。

紙は白く、線は黒い。

画面には、いくつもの姿がある。

同じ人物を、繰り返し描いている。

左のほうに、座った兵士がいる。

体は横向きである。

顔は上を向く。

口は開く。

その口へ、水筒を近づける。

腕は、高く上げられる。

肘は、鋭く曲がる。

軍服の襞が、細かく描かれる。

脚は、前へ投げ出される。

その隣にも、同じ姿勢がある。

角度が、少し違う。

右のほうには、別の線がある。

方眼が引かれている。

拡大するための目盛りである。

館の記録では、これは大きな絵のための習作である。

その絵は、戦争の記念として注文された。

画家が実際に見た場面に基づくという。

館は、そう説明している。

同じ姿勢を、何度も描き直している。

腕の角度が、少しずつ違う。

水筒の傾きも、そのたびに変わる。

決めかねている様子が、紙に残る。

方眼は、決めた後に引かれる。

拡大して、大画面へ移すためである。

館の記録では、完成した絵は今も別の館にある。

戦場で見た場面に基づくという。

目を負傷した兵士たちの列である。

この一人は、その中の一人になる。

水を飲む姿だけを、先に決めている。

水辺で、三人が屈む

五点目は、油彩である。

水飲み場(水辺の三人の女)
エドワード・ミッチェル・バニスター《水飲み場(水辺の三人の女)》1894年。館の記録では、油彩・カンヴァス。40.6×30.5センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。エドワード・ミッチェル・バニスター《水飲み場(水辺の三人の女)》スミソニアン協会蔵

縦長の画面である。

40.6×30.5センチある。

画面の上は、木と丘である。

葉は暗い緑と褐色である。

筆は速く、形は溶ける。

奥に、黄色い明るみがある。

画面の下は、水である。

水は暗く、岸に沿う。

手前に、二人の女がいる。

一人は立つ。

衣は緑と黄褐色である。

腰を、わずかに曲げる。

もう一人は、屈み込む。

赤い布を身に着ける。

腕を、水のほうへ伸ばす。

手は、水面の近くにある。

顔は下を向く。

奥に、もう一人立っている。

姿は、影のように暗い。

三人とも、顔の造作は描かれない。

器は、どこにも見えない。

飲んでいるのかどうかは、分からない。

分かるのは、題だけである。

題には、水飲み場とある。

館の記録には、それ以上の説明がない。

水飲み場とは、家畜が水を飲む場所でもある。

この絵に、家畜は描かれていない。

描かれるのは、三人の女である。

手を伸ばしているのは、水を汲むためだろう。

しかし、器は見えない。

画面が小さく、筆が速いためでもある。

40センチほどの画面である。

人の手は、数ミリしかない。

細部は、はじめから描かれていない。

二つの顔が、杯になる

六点目は、陶の杯である。

赤像式双面カンタロス(二つの頭部形の杯):サテュロスとアフリカ人
Kクラス(トロント・クラス)《赤像式双面カンタロス:サテュロスとアフリカ人》前470年から前460年ごろ。館の記録では、陶。全体は19.6×17.2センチ。口径は15.3センチ。番号は1979.69。クリーヴランド美術館蔵。赤像式双面カンタロス(二つの頭部形の杯):サテュロスとアフリカ人》クリーヴランド美術館蔵

杯である。

全体は19.6×17.2センチある。

口径は15.3センチある。

上に、広がった口がある。

口の縁には、模様の帯が回る。

両側に、高い把手が付く。

把手は輪の形で、上へ伸びる。

胴の部分が、人の頭になっている。

顔は、型で作られる。

一方の顔は、赤褐色である。

鼻は低く、上を向く。

耳は、馬のように尖る。

館の記録では、これは半人半獣の姿である。

もう一方の顔は、黒く艶がある。

髪は赤く、細かい。

髭と眉は、白い。

目のまわりに、皺が刻まれる。

館の記録では、年配のアフリカの男を表すという。

そして、この組み合わせは他に例がないと書く。

飲む器に、二つの顔がある。

飲む人の顔は、その向こうにある。

杯を持ち上げれば、顔と顔が重なる。

飲む人からは、自分の杯の顔は見えない。

見えるのは、向かいに座る人である。

この形の杯は、宴のための道具である。

館の記録では、酒の神の好んだ器の一種だという。

把手が高いのは、両手で持つためだろう。

口が広いので、中身がよく見える。

型で作った顔と、轆轤で作った口が組み合う。

二つの作り方が、一つの器にある。

館の記録は、その組み合わせも書いている。

小さな盃に、花が描かれる

七点目は、磁器の盃である。

吉祥花文の盃
二代清風与平《吉祥花文の盃》1861年から78年。館の記録では、磁器、染付。高さは各3センチ、径は各7センチ。番号は2022.145。クリーヴランド美術館蔵。二代清風与平《吉祥花文の盃》クリーヴランド美術館蔵

小さな盃である。

高さは、各3センチしかない。

径は、各7センチある。

二つで一組である。

白い磁器である。

模様は、青一色で描かれる。

釉の下に、藍が置かれる。

一方の盃には、三種の草が描かれる。

館の記録では、蘭と竹と菊である。

春と夏と秋を表すという。

もう一方には、松と梅がある。

冬を表すという。

線は細く、筆の勢いが残る。

館の記録では、この作者は水墨も学んだ。

その筆の力が、染付に出ているという。

縁の下に、四つの文字が書かれる。

館の記録は、その文字も記す。

松と梅と、めでたい草の名である。

館は、箱が残っていることも重く見る。

蓋の裏に、署名と印があるという。

箱があれば、誰の作か確かめられる。

小さな器ほど、それが重要になる。

器そのものには、署名がないからである。

盃は、酒を飲むための道具である。

高さ3センチでは、一口ぶんしか入らない。

何度も注いで、何度も飲む。

少量を繰り返す飲み方のための形である。

模様が四季になっているのも、それに合う。

二つ並べれば、一年が揃う。

館の記録は、その対応も説明している。