身振りを、集めておく——フランシス・ウィリアム・エドモンズの写生帖
縦に使うとき
帖の紙は、縦にも横にも使える。
縦に使うのは、立った人物を描くときである。上下に伸びる形が入る。
横に使うのは、二人以上を並べるときや、座った姿勢を描くときである。
九点のうち、縦に使われた頁は二点だけである。
紙の向きは、その場で決まる。何を描くかが先にある。

九点のなかで、最も描き込まれた一点である。
男が卓に向かい、上体を前へ倒す。両腕を卓の上に置く。
右手の人差し指を立てる。何かを説明している構えである。
左手は丸めて卓に置かれる。指が重なる。
顔はこちらへ向く。頭は禿げ上がり、耳の上に髪が残る。
目じりと口元に線が重なり、表情が作られる。
上着の背には、濃い影が入る。斜めの線が何本も重なる。
卓の面は、水平の線でわずかに示される。
この一点だけ、影の量が多い。仕上げに近い段階まで描かれている。
濃淡の差
九点を並べると、鉛筆の濃さに幅がある。
薄い線だけで終わる頁と、影まで入る頁がある。
薄い頁は、思いついた形をすぐ書き留めたものだろう。
濃い頁は、その形を練り直したものだと考えられる。
同じ帖に、両方の段階が混ざっている。
段階が混ざるのは、帖が長く使われた証でもある。
一冊を数日で使い切れば、濃さはそろう。数年かければ、ばらつく。
九点の制作年の書き方も、それと合っている。

頁の左に、立つ男がいる。上体を左へひねる。
右手を頭の後ろへ回す。肘が高く上がる。
左手は下へ伸び、指を軽く開く。
上着は袖をまくり、腕が出る。前が開く。
頁の右には、別の男が座る。前かがみになり、両手を前へ出す。
その手は、何かを受け取るように開かれる。
顔は右を向き、口を結ぶ。
この一点だけ、技法の欄にインクが入る。鉛筆に加えてペンが使われている。
インクの線は太く、輪郭を決める役をしている。
鉄没食子インクは、時間がたつと褐色に変わることが知られている。
紙を傷めることもある。線の部分だけが弱くなる。
公開画像は白黒なので、その色の変化は確かめられない。
二つの道具
九点のうち二点は、鉛筆にインクを重ねている。
鉛筆で形を探り、インクで決める。手順としては自然である。
インクは消えない。だから、迷いのない線だけを引くことになる。
残る七点は鉛筆だけである。決めきらないまま置かれている。
道具の違いが、そのまま仕上げの度合いに対応している。
なぜ一部だけインクを入れたのかは分からない。
気に入った形だけを残したのかもしれない。あるいは、たまたまペンが手元にあっただけかもしれない。
記録には理由が書かれない。ここでは、両方の可能性を挙げておく。

一頁に、四つ以上の図が散る。
左に、太った男が立つ。帽子をかぶり、上着の前を開ける。
中央には、柱に寄りかかる男がいる。片足を交差させる。
柱には板が付き、文字らしいものが書かれる。看板だと思われる。
右上には、男の横顔がある。輪郭だけである。
右下には、小さな人物が二つほど描かれる。判別が難しい。
背景はなく、床の線もない。人物が宙に浮く。
九点のなかで、最も図の数が多い一点である。
看板らしい板に文字が見えるのは、この一点だけである。
街角の情景を写したのだと思われる。屋外で描いた頁かもしれない。
ただし、地面の線がないので、場所は特定できない。
一頁に、いくつ
九点に描かれた図の数を数えてみる。
一つだけの頁が三点、二つの頁が三点、三つ以上の頁が三点である。
図が多い頁ほど、一つあたりの線は少ない。速く描いている。
図が一つだけの頁は、たいてい線が多い。時間をかけている。
頁の使い方と、描く速さが対応している。
記録の欄に、題が混ざる
この一点の記録には、変わった点がある。
技法の欄に、題の続きらしい語が入り込んでいる。
生成りの紙に鉛筆、と書いたあとに、柱、横顔、振り向く男、といった語が続く。
もとの題が長かったため、欄の境目がずれたのだと考えられる。
当サイトは記録をそのまま取り込んでいる。だから、このずれもそのまま残っている。

頁の左に、男が座る。帽子をかぶる。
脚を組み、両手を膝の上で組む。上体をわずかに前へ倒す。
頁の右には、女が立つ。裾の広がる長い衣を着る。
腕は体の前で組まれる。顔は左を向く。
二人のあいだには、何も描かれていない。
線は九点のなかで最も薄い。押しつけずに引かれている。
紙の地が広く残る。図は頁の下半分に集まる。
同じ頁に男と女を並べるのは、対比のためかもしれない。