画家を知る

身振りを、集めておく——フランシス・ウィリアム・エドモンズの写生帖

縦に使うとき

帖の紙は、縦にも横にも使える。

縦に使うのは、立った人物を描くときである。上下に伸びる形が入る。

横に使うのは、二人以上を並べるときや、座った姿勢を描くときである。

九点のうち、縦に使われた頁は二点だけである。

紙の向きは、その場で決まる。何を描くかが先にある。

話す男(写生帖より)
フランシス・ウィリアム・エドモンズ《話す男(写生帖より)》1838年ごろとその後。生成りの紙に鉛筆。館の記録では、縦16.8センチ、横20.3センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ウィリアム・エドモンズ《話す男(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

九点のなかで、最も描き込まれた一点である。

男が卓に向かい、上体を前へ倒す。両腕を卓の上に置く。

右手の人差し指を立てる。何かを説明している構えである。

左手は丸めて卓に置かれる。指が重なる。

顔はこちらへ向く。頭は禿げ上がり、耳の上に髪が残る。

目じりと口元に線が重なり、表情が作られる。

上着の背には、濃い影が入る。斜めの線が何本も重なる。

卓の面は、水平の線でわずかに示される。

この一点だけ、影の量が多い。仕上げに近い段階まで描かれている。

濃淡の差

九点を並べると、鉛筆の濃さに幅がある。

薄い線だけで終わる頁と、影まで入る頁がある。

薄い頁は、思いついた形をすぐ書き留めたものだろう。

濃い頁は、その形を練り直したものだと考えられる。

同じ帖に、両方の段階が混ざっている。

段階が混ざるのは、帖が長く使われた証でもある。

一冊を数日で使い切れば、濃さはそろう。数年かければ、ばらつく。

九点の制作年の書き方も、それと合っている。

男の二つの習作(写生帖より)
フランシス・ウィリアム・エドモンズ《男の二つの習作(写生帖より)》1838年ごろとその後。鉄没食子インクと鉛筆、生成りの紙。館の記録では、縦16.8センチ、横20.3センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ウィリアム・エドモンズ《男の二つの習作(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

頁の左に、立つ男がいる。上体を左へひねる。

右手を頭の後ろへ回す。肘が高く上がる。

左手は下へ伸び、指を軽く開く。

上着は袖をまくり、腕が出る。前が開く。

頁の右には、別の男が座る。前かがみになり、両手を前へ出す。

その手は、何かを受け取るように開かれる。

顔は右を向き、口を結ぶ。

この一点だけ、技法の欄にインクが入る。鉛筆に加えてペンが使われている。

インクの線は太く、輪郭を決める役をしている。

鉄没食子インクは、時間がたつと褐色に変わることが知られている。

紙を傷めることもある。線の部分だけが弱くなる。

公開画像は白黒なので、その色の変化は確かめられない。

二つの道具

九点のうち二点は、鉛筆にインクを重ねている。

鉛筆で形を探り、インクで決める。手順としては自然である。

インクは消えない。だから、迷いのない線だけを引くことになる。

残る七点は鉛筆だけである。決めきらないまま置かれている。

道具の違いが、そのまま仕上げの度合いに対応している。

なぜ一部だけインクを入れたのかは分からない。

気に入った形だけを残したのかもしれない。あるいは、たまたまペンが手元にあっただけかもしれない。

記録には理由が書かれない。ここでは、両方の可能性を挙げておく。

四つの人物習作(写生帖より)
フランシス・ウィリアム・エドモンズ《四つの人物習作(写生帖より)》1838年ごろとその後。生成りの紙に鉛筆。館の記録では、縦16.8センチ、横20.3センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ウィリアム・エドモンズ《四つの人物習作(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

一頁に、四つ以上の図が散る。

左に、太った男が立つ。帽子をかぶり、上着の前を開ける。

中央には、柱に寄りかかる男がいる。片足を交差させる。

柱には板が付き、文字らしいものが書かれる。看板だと思われる。

右上には、男の横顔がある。輪郭だけである。

右下には、小さな人物が二つほど描かれる。判別が難しい。

背景はなく、床の線もない。人物が宙に浮く。

九点のなかで、最も図の数が多い一点である。

看板らしい板に文字が見えるのは、この一点だけである。

街角の情景を写したのだと思われる。屋外で描いた頁かもしれない。

ただし、地面の線がないので、場所は特定できない。

一頁に、いくつ

九点に描かれた図の数を数えてみる。

一つだけの頁が三点、二つの頁が三点、三つ以上の頁が三点である。

図が多い頁ほど、一つあたりの線は少ない。速く描いている。

図が一つだけの頁は、たいてい線が多い。時間をかけている。

頁の使い方と、描く速さが対応している。

記録の欄に、題が混ざる

この一点の記録には、変わった点がある。

技法の欄に、題の続きらしい語が入り込んでいる。

生成りの紙に鉛筆、と書いたあとに、柱、横顔、振り向く男、といった語が続く。

もとの題が長かったため、欄の境目がずれたのだと考えられる。

当サイトは記録をそのまま取り込んでいる。だから、このずれもそのまま残っている。

座る男、立つ女(写生帖より)
フランシス・ウィリアム・エドモンズ《座る男、立つ女(写生帖より)》1838年ごろとその後。生成りの紙に鉛筆。館の記録では、縦16.8センチ、横20.3センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ウィリアム・エドモンズ《座る男、立つ女(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

頁の左に、男が座る。帽子をかぶる。

脚を組み、両手を膝の上で組む。上体をわずかに前へ倒す。

頁の右には、女が立つ。裾の広がる長い衣を着る。

腕は体の前で組まれる。顔は左を向く。

二人のあいだには、何も描かれていない。

線は九点のなかで最も薄い。押しつけずに引かれている。

紙の地が広く残る。図は頁の下半分に集まる。

同じ頁に男と女を並べるのは、対比のためかもしれない。