美術史・技法

足の語で拾うと、六点は人の足ではなかった——文伯仁・ピサロ・タルボットほか九点

ドゥーン城の麓を流れる山の小川
ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット《ドゥーン城の麓を流れる山の小川》1844年。館の記録では、カロタイプの陰画から作った塩紙の印画。画面8.4×10.4センチ。紙9.1×10.8センチ。番号は1987.25。クリーヴランド美術館蔵。ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット《ドゥーン城の麓を流れる山の小川》クリーヴランド美術館蔵

この作者は、紙に像を定着させる方法を作った人である。

金属板に一点だけ作る方法と違い、複製ができる。

そのことが、写真の使われ方を変えた。

一枚を何十枚にも増やせるからだ。

館の記録は、その事情には触れていない。

技法の名と、寸法と、受け入れの基金だけが並ぶ。

小さな写真である。

画面は縦8.4センチ、横10.4センチしかない。

写っているのは、木立と水面である。

手前に、平たい岩が広がる。

その上を、浅い水が流れている。

奥に、細い幹の木が何本も立つ。

葉は白く飛んでいる。

全体に、褐色がかっている。

黒はほとんどなく、いちばん暗い部分も茶色である。

題にある「麓」は、城の下という意味である。

城そのものは写っていない。

写っているのは、その下を流れる川だけだ。

つまり、題の足は場所を指す語である。

館の記録は、技法をカロタイプと書く。

紙を感光させて陰画を作り、そこから紙に焼く。

前の回で扱ったダゲレオタイプと違い、複製ができる。

一つの陰画から、何枚でも刷れる。

その代わり、紙の繊維が像に出る。

輪郭がやわらかくなるのは、そのためである。

ポン・ロワイヤルのたもとから見たフランス学士院
アンリ・ジョゼフ・アルピニー《ポン・ロワイヤルのたもとから見たフランス学士院》1870年。館の記録では、水彩。紙全体23.9×19センチ。番号は1946.287。クリーヴランド美術館蔵。アンリ・ジョゼフ・アルピニー《ポン・ロワイヤルのたもとから見たフランス学士院》クリーヴランド美術館蔵

こちらも、題の足は場所を指す。

橋のたもと、という意味である。

画面の左右に、太い幹が立つ。

その間から、川と橋が見える。

奥に、丸屋根の建物がある。

手前は、乾いた道である。

木の葉は、緑と黄で細かく置かれる。

空は、薄い青である。

館の記録によれば、これは戦争の直前に描かれた連作の一枚だという。

そして館は、この作者が特定の派に属さなかったとも書く。

これは館の見解である。

こちらで言えるのは、画面に人がいない、ということだ。

橋の上にも、道にも、人影がない。

富士の裾野の行列
喜多川歌麿《富士の裾野の行列》1792年または1793年。館の記録では、多色刷りの木版画。紙全体38.6×25.4センチ。番号は1921.340。クリーヴランド美術館蔵。喜多川歌麿《富士の裾野の行列》クリーヴランド美術館蔵

館の記録では、紙全体が38.6×25.4センチとある。

そして、全体が39.1×25.4センチと書かれている。

紙と全体で、縦が0.5センチ違う。

台紙か、貼り足された部分があるのかもしれない。

記録は、その差の理由を書いていない。

三枚が横につながった図である。

画面の上に、富士山が大きく描かれる。

淡い色で、輪郭だけが示される。

その手前に、松が何本も並ぶ。

さらに手前に、行列が横切る。

人の姿は小さく、上半身だけが松の間に見える。

赤や黒の衣が、点のように連なる。

画面の下は、桃色の帯で締められる。

題の足は、山の裾のことである。

つまり、これも場所を指している。

ただし、この一点には人が大勢いる。

そして、その人たちは足で歩いている。

行列は、歩くことでできる列である。

足の語が題にあり、足を使う場面が描かれ、しかし足そのものは見えない。

松と草に隠れているからである。

木の根元の牛と二頭の羊
アドリアーン・ファン・デ・フェルデ《木の根元の牛と二頭の羊》1670年。館の記録では、エッチング。番号は1948.145。クリーヴランド美術館蔵。アドリアーン・ファン・デ・フェルデ《木の根元の牛と二頭の羊》クリーヴランド美術館蔵

館の記録には、寸法が入っていない。

技法と、受け入れの経緯だけである。

九点のうち、寸法欄が空なのはこの一点だけだ。

題の足は、木の根元である。

画面いっぱいに、牛が一頭立つ。

体は横を向き、頭は下がる。

草を食べているところらしい。

その足元に、羊が二頭いる。

一頭は伏せ、一頭は立つ。

背景に、木の幹と、遠い平地が見える。

線はすべて細く、太さがほぼ一定である。

牛の体毛は、短い線を並べて作られる。

草は、点と短い線で埋められる。

この一点には、人がいない。

だが、動物の足は八本以上写っている。

牛の四本と、羊の四本。

足の語で拾った結果、動物の足が集まった。

カンディラ(円錐形の脚をもつ頸付き壺)
マスター・エー《カンディラ(円錐形の脚をもつ頸付き壺)》紀元前3000年から2950年ごろ。館の記録では、大理石。全体10.7×12.9センチ。番号は1991.166。クリーヴランド美術館蔵。マスター・エー《カンディラ(円錐形の脚をもつ頸付き壺)》クリーヴランド美術館蔵

これは器である。

白い石を削って作られている。

上に、筒のような首がある。

その下が、丸くふくらむ。

胴の左右に、小さな突起が二つずつ付く。

そして、下に細い脚があり、円い台で終わる。

題にある足は、この脚のことである。

高さは10.7センチしかない。

手のひらに載る大きさである。

館の記録によれば、この呼び名は後世に付けられたものだという。

同じ形の吊り灯明を指す言葉が、そのまま使われている。

そして館は、本来の用途が分かっていないと書いている。

これは館の記述である。

胴の突起には、穴が開けられている。

そこに紐を通したのかもしれない。

だが、それも確かではない。

第十四回で、記録の留保の書き方を扱った。

用途が分からないとき、記録はその旨を書く。

書かないより、そのほうが正しい。

タオス族のエルク・フット
イアンガー・アーヴィング・クース《タオス族のエルク・フット》1909年。題は館の記録の表記による。館の記録では、布に油彩。198.6×92.4センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。イアンガー・アーヴィング・クース《タオス族のエルク・フット》スミソニアン協会蔵

九点でいちばん大きい絵である。

縦198.6センチ。

人の背丈より高い。

その中に、人物が一人座っている。

赤い布を体に巻き、肩から掛ける。

布の縁に、細い黒の線が入る。

脚には、明るい色の長い履物をつける。

膝から下を覆う形である。

右手に、長い棒を立てて持つ。

棒の先に、羽根のようなものが付く。

頭に、細い布を巻いている。

顔は正面を向く。

題にある足は、人名の一部である。

館の記録は、その名を題にそのまま入れている。

つまり、これも人の足の絵ではない。

名前の中に、足の語があるだけである。

ただし、この一点には履物がはっきり描かれている。

九点のうち、履物が見えるのはこの一点だけである。