画家を知る

対の二点が、四センチ違う——ジャン=オノレ・フラゴナール

遊びの名を題にした二点は、対として作られたはずである。縦の差は5ミリ。ところが横は4センチ違う。三つの館で年の書き方も揃わず、楕円の書き方も二通りある。対の記録を読み直したい。掛け算の記号も、二通りある。

馬乗り遊び
ジャン=オノレ・フラゴナール《馬乗り遊び》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

二点が、対になっている

九点のうち二点は、明らかに対である。

どちらも縦長のカンヴァスで、木立の下に子どもが遊んでいる。

年の欄も、二点とも同じ書き方で同じ範囲を示す。

館も同じ、技法も同じ。

題も、遊びの名という同じ形をしている。

対の絵は、同じ部屋の壁に並べて掛けるために作られる。

だから、寸法もそろっているはずである。

ところが、記録を読むと、そろっていない。

九点を並べて、その差を見たい。

馬乗り遊び
ジャン=オノレ・フラゴナール《馬乗り遊び》1775年から1780年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦115センチ、横87.5センチとされる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジャン=オノレ・フラゴナール《馬乗り遊び》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点の内訳

先に、九点の中身を確かめておく。

カンヴァスに油彩が八点。紙に油彩が一点。

館は三つに分かれる。ワシントンが六点、ニューヨークが二点、シカゴが一点。

年は1753年ごろから1780年ごろまでに散る。

主題は、遊びと家族の場面が四点、肖像が二点、物語が一点、室内が一点、景色が一点。

対とは何か

美術館の記録に、対である、と書かれているわけではない。

九点の記録を読んでも、その語は出てこない。

しかし、収蔵番号が続き番号である。

年の書き方が同じで、寸法が近く、主題の作りも同じである。

これだけそろえば、対として作られたと考えてよい。

記録に書かれていないことを、記録から読むことになる。

対の二点の寸法

対の二点の寸法を並べる。

一点目は、縦115センチ、横87.5センチ。

二点目は、縦115.5センチ、横91.5センチ。

縦の差は5ミリ。ほとんど同じである。

しかし、横の差は4センチある。

二点目のほうが、はっきり広い。

縦をそろえる理由

対の絵を並べるとき、最も目につくのは上下の線である。

上端がそろわなければ、並びが崩れて見える。

下端も同じである。

だから、縦の寸法は優先してそろえられる。

二点の縦の差が5ミリしかないのは、その結果だろう。

一方、横幅は、間隔の取り方で吸収できる。

4センチの差

壁に並べて掛けたとき、4センチの差は目に入るだろうか。

縦が同じなら、上下の線はそろう。

しかし、横幅が違えば、二点の間隔と外側の余白が変わる。

注意して見れば、気づく程度の差である。

なぜ、そろえなかったのか。

縦長という形

対の二点は、どちらも縦長である。

縦115センチに対し、横は90センチ前後。

高い木を入れるには、縦長が要る。

枝を上まで描けば、画面は自然に縦へ伸びる。

主題と画面の形が、互いに決め合っている。

対の絵の作られ方

十八世紀のフランスでは、壁面に絵を嵌め込むことが多かった。

板張りの壁に枠を作り、その中に絵を入れる。

その場合、絵の寸法は壁の割り付けで決まる。

左右で壁の幅が違えば、絵の幅も違ってくる。

対の絵の寸法がそろわないのは、そうした事情かもしれない。

もっとも、記録にはそう書かれていない。

二点の主題の対応

対の絵では、主題も対応させる。

一点目は、子どもが背に乗る遊び。

二点目は、目を隠して当てる遊び。

どちらも、複数の子どもが関わる遊びである。

そして、どちらも野外で行われる。

主題の軸をそろえたうえで、中身を変えている。

後から切られる可能性

もう一つの可能性もある。

絵は、後から切られたり継ぎ足されたりする。

額に合わせるため、傷んだ縁を落とすため。

十八世紀の絵が、二百年のあいだにそのまま残るとは限らない。

いま測った寸法が、作られたときの寸法とは限らない。

記録は、いまの寸法を書いている。

手たたき遊び
ジャン=オノレ・フラゴナール《手たたき遊び》1775年から1780年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦115.5センチ、横91.5センチとされる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジャン=オノレ・フラゴナール《手たたき遊び》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

庭の彫像

二点目の画面には、白い彫像が二つ描かれている。

左の台の上に一つ、右の高い台の上に一つ。

整えられた庭であることが、この像から分かる。

刈り込んだ生垣と、奥へ続く道も見える。

一点目には、彫像がない。

かわりに、水面と、自然のままの木立が描かれる。

対の二点で、庭の性格を変えている。

額の寸法も、そろわない

この館の記録には、額を含めた寸法も書かれている。

一点目は、縦145.1センチ、横116.8センチ、厚み12.1センチ。

二点目は、縦144.5センチ、横121.3センチ。

厚みの数字がない。

同じ対の二点で、書かれている数字の数が違う。

測り忘れたのか、記録に移す途中で落ちたのか。

理由は書かれていない。

額を測る、ということ

額の寸法を記録する館は、多くない。

しかし、展示や輸送を考えるなら、額込みの大きさが要る。

壁の何センチを占めるか。木箱に入るか。

そうした実務のための数字である。

九点のうち、額の寸法があるのは六点である。

二点の色

対の二点は、色の作りも近い。

上のほうが淡い青と黄緑で、下のほうが濃い緑になる。

そこに、子どもの衣の赤と青が小さく点在する。

広い面を淡くまとめ、小さな面に強い色を置く。

遠くから見ても、近くで見ても成り立つ作りである。

遊びの題

対の二点の題は、どちらも遊びの名である。

一点目は、馬乗りと呼ばれる遊び。

子どもが背に乗り、別の子が担ぐ。

二点目は、目を隠した者が手で打たれ、誰が打ったかを当てる遊びである。

どちらも、当時の子どもの遊びだった。

題を読むだけで、何をしているかが分かる。

目隠しの遊び

二点目の遊びは、いまの日本ではあまり見かけない。

一人が目を隠して伏せ、誰かが手で打つ。

打たれた者は、誰が打ったかを言い当てる。

当たれば交代し、外れればもう一度伏せる。

十八世紀のヨーロッパでは、大人も加わる遊びだった。

題を読まなければ、画面の小さな人物が何をしているかは分からない。