対の二点が、四センチ違う——ジャン=オノレ・フラゴナール
画面のほとんどは、木である
対の二点で、子どもが占める面積はごく小さい。
画面の下の四分の一ほどに、小さく描かれている。
残りは、木と空である。
一点目では、枝を大きく広げた枯れ木が中央に立つ。
二点目では、左右に木立が伸び、奥に庭の眺めが開ける。
つまり、これは遊びの絵というより、庭の絵である。
題と、画面の主役
題が遊びの名であるのに、画面の主役は木である。
こうしたずれは、装飾のための絵ではよく起きる。
壁に掛けたとき、遠くから見えるのは大きな形である。
小さな人物は、近づいて初めて見える。
題は近くで見る人のためにあり、構図は遠くで見る人のためにある。

三つの館
九点は、三つの館に分かれている。
ワシントンに六点、ニューヨークに二点、シカゴに一点。
同じ画家の作品が、こうして散らばるのは珍しくない。
十九世紀から二十世紀にかけて、多くの絵が売買され、大西洋を越えた。
いま並べて見られるのは、それぞれの館が画像を公開しているからである。
横長の一点
いま見た一点は、横長である。
縦73センチ、横92.1センチ。
対の二点は縦長だったので、向きが違う。
年は1775年ごろ。対の二点と重なる時期である。
同じ時期に、縦長と横長の絵を並行して作っている。
部屋の中の場面
いま見た一点は、室内である。
寝台の脇に籠が置かれ、その中に赤ん坊がいる。
母らしい人物が身をかがめ、右手の戸口から子どもたちが覗く。
左には、蹲る人物がいる。
天蓋の布が垂れ、上のほうを暗くしている。
家族の場面を主題にした絵である。
年の書き方が、館で違う
年の欄の書き方を、館ごとに比べてみる。
ワシントンの六点は、およそ、という語と、二つの年を斜線でつなぐ形を使う。
ニューヨークの二点は、年代を表す言い方と、およそ、を使う。
シカゴの一点は、二つの年を横棒でつなぎ、後ろを二桁に略す。
同じ画家の同じ時期でも、館が違えば書式が違う。
斜線と横棒
二つの年をつなぐ記号にも、違いがある。
ワシントンは斜線を使う。
シカゴは横棒を使う。
どちらも、その間のどこか、という意味だろう。
しかし、記号が違えば、機械で読むときには別のものになる。
人が読む分には、支障はない。

六点と、三点
ワシントンの六点には、いずれも額の寸法が併記される。
しかし、その書き方もそろっていない。
厚みまで書くものが三点、書かないものが三点。
同じ館の中でも、記録の細かさは一定でない。
楕円という形
いま見た一点は、楕円である。
寸法の欄には、その形が括弧で添えられている。
つまり、この数字は楕円の長い径と短い径である。
四角い画面の寸法とは、意味が違う。
同じ数字でも、形が分からなければ面積は計算できない。
括弧の一語が、それを補っている。
掛け算の記号
寸法の欄には、二つの数字をつなぐ記号がある。
九点を見比べると、この記号が二通り使われている。
細い文字のものと、記号そのものを使うもの。
同じ館の中でも、記録によって違う。
読むうえで支障はない。
しかし、書式はそろっていない。
楕円の絵の使われ方
楕円の絵は、壁に嵌め込むために作られることが多い。
四角い部屋の中で、扉の上や暖炉の上に置く。
そこだけ形を変えると、壁面に変化が出る。
九点のうち、楕円は二点ある。
どちらも、そうした場所のために作られたのかもしれない。
暗い室内
この一点は、九点で最も暗い。
納屋のような室内で、牛らしい動物が左に見える。
中央に母と子がいて、赤い衣が目を引く。
光は、上のほうから細く差し込む。
題は、幸福な家族である。
しかし、描かれているのは貧しい住まいである。
題と、描かれたもの
十八世紀のフランスでは、貧しい暮らしを主題にした絵が好まれた。
買うのは裕福な人々である。
自分たちの暮らしではないものを、絵として壁に掛ける。
題に幸福という語が入るのは、その趣味に沿っている。
いま見るときには、その事情を知っておく必要がある。

楕円を、どこに書くか
いま見た一点も楕円である。
しかし、書き方が違う。
先の一点では、括弧の中に形が書かれていた。
この一点では、寸法の前に形の語が置かれ、読点で区切られている。
同じ情報を、違う位置に、違う形で書いている。
館が違うのだから、当然ではある。
年代という書き方
この一点の年は、1770年代とだけ書かれる。
十年の幅である。
ワシントンの記録なら、二つの年を斜線でつなぐだろう。
同じ十年の幅でも、書き方が違う。
名のない肖像
九点の肖像二点は、どちらも人の名が題にない。
若い女性、扮装した男、とだけ書かれる。
誰を描いたかが伝わらなかったということである。
肖像は、家の中で代々受け継がれる。
売られたり、相続で分かれたりするうちに、名は消えやすい。
黒い地の上に
この一点の画像では、楕円の周りが黒く塗りつぶされている。
撮影のときに、背景を黒くしたのだろう。
楕円の縁がはっきり出る。
先の楕円の一点では、周りが白い。
同じ形の作品でも、撮り方はそろっていない。
若い女性
この一点の人物は、正面をわずかに外して座る。
腕を組み、こちらを見ている。
衣は淡い黄と桃色で、髪は結い上げられている。
背景は、青みがかった空である。
肖像でありながら、誰を描いたかは題に書かれていない。