板に描かれ、布に移された——マンテーニャ、ルーベンスほか九点

九点でいちばん大きい。
縦一メートル八十三センチ、横一メートル六十四・五センチ。
畳一枚より大きい。
画面には、木組みの小屋がある。
その柱と梁が、画面の上半分を占めている。
中央に、青い衣の女性が座り、赤ん坊を膝に置いている。
その前に、黒い衣の人物が跪いている。
まわりに、色鮮やかな衣の人々が大勢いる。
赤、緑、黄、白。
左右に、二つの群れがある。
奥に、城と、遠い風景。
作者の欄には、個人名がない。
「北ネーデルラント、十五世紀」。
地域と世紀だけである。
これも、名の分からない場合の書き方の一つである。
前の回に見た呼び名とは違い、呼び名すら作られていない。
描かれた面と、支持体
寸法の欄を、細かく見ておきたい。
九点のうち、二点には「描かれた面」と「全体」の両方が書かれている。

描かれた面が、縦七〇・八センチ、横四八・九センチ。
全体が、縦七三センチ、横五〇・二センチ。
差は、縦で二・二センチ、横で一・三センチ。
縁に、絵の無い部分がある。
画面には、金の地を背にした女性がいる。
赤い衣に、青い外套。
胸の前に、白い布に包まれた赤ん坊。
赤ん坊は、こちらを見ている。
女性の顔は、うつむいている。
背景の金には、細かい模様が打たれている。
そして、上部が丸いアーチの形になっている。
もとの板の形が、そのまま残っている。
移し替えても、輪郭は変わらない。

小さな肖像である。
赤い衣の男性が、両手を合わせている。
顔は、こちらから見て左を向いている。
短く刈った髪、皺の刻まれた額。
背景は、暗い茶色である。
前の回に見た断片の寄進者と、姿勢が同じである。
ただし、こちらには聖人の手が写っていない。
切られていないからである。
もとから、この大きさで描かれたのだろう。
作者の欄には「追随者」とある。
その画家本人ではなく、その様式に従った誰か。
これも、名が分からないときの書き方である。
移されたことは、消えない

黒い背景に、若い女性がいる。
青い袖と、白い下着。
肩から、白い布が垂れている。
右手に、小さな円錐形のものを持っている。
顔は、わずかに右を向いている。
金褐色の髪が、額の上でまとめられている。
九点のなかで、いちばん背景が暗い。

横顔の男性である。
赤い衣に、金の飾り。
髭が豊かで、髪が乱れている。
両手で、金の器を持っている。
顔は、こちらから見て左を向いている。
背景は、暗い茶色。
題に「頭部」とある。
前の回に見た断片とは違い、分類は絵画である。
もとから頭部だけを描いた習作なのだろう。
作者の欄に「と工房」とある。
一人の手ではない、という意味である。
前の回に出てきた絵も、移されていた
この処置は、これまでの回にも何度か顔を出している。
祭壇画の板を扱った回では、ロレンツェッティの二点が「板から布へ」だった。
一つの番号に枝が三つ付く例を扱った回では、ペルジーノの三点がそうだった。
そして対の肖像を扱った回では、レンブラントの一点が「布から布へ」だった。
布から布へ、というのも、同じ系統の処置である。
古い布が弱ったので、新しい布に移す。
つまり、支持体の交換は、古い絵にとって珍しいことではない。
十五世紀や十六世紀の板絵の多くが、何らかの処置を受けている。
私たちが見ているのは、たいてい手当てを受けたあとの姿である。
そのことを、技法の欄がそのつど教えてくれる。
読み飛ばしてしまいがちな一行だが、意味は大きい。
いま見ている表面が、何の上に乗っているか。
それを知って見るのと、知らずに見るのとでは、受け取り方が変わる。
技法の欄が、二重になる
九点の技法の欄を、もう一度並べてみたい。
板に油彩、布に移された。四点。
板にテンペラ、硬質繊維板に移された。一点。
硬質繊維板に油彩、板から移された。二点。
布に油彩、板から移された。一点。
硬質繊維板にテンペラ、布から移され、その布は板から移された。一点。
書き方が、二通りある。
「板に描かれ、何々に移された」と書く形。
「何々に描かれ、板から移された」と書く形。
同じことを、逆から言っている。
前者は、もとの支持体を先に書く。
後者は、いまの支持体を先に書く。
記入した人によって、順序が変わっている。
そして、どちらの書き方でも、二つの素材が並ぶ。
もとの素材と、いまの素材。
前の回に見た「掛軸に仕立てられた扇」と、構造が同じである。
もとの形と、いまの形。
分野が違っても、記録の作り方は似ている。