作品を知る

縦が、横の六倍ある——鈴木春信の柱絵

若い虚無僧
鈴木春信《若い虚無僧》1768年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦67.6センチ、横12.1センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。鈴木春信《若い虚無僧》メトロポリタン美術館蔵

上部に、小さな四角い枠がある。中に文字が並ぶ。

その下に、横長の小さな絵がある。海と山と船が描かれる。

つまり、画面の上部に別の小さな画面が入っている。

さらにその下に、人物が立つ。顔は上を向く。

手には、大きな丸い笠を持つ。編み目が細かく描かれる。

衣は白と淡い色で、裾が広がる。

腰には黒い布が巻かれる。

下部には草履と地面がわずかに見える。

笠を持つ手

いま見た一点では、人物が大きな笠を手に持っている。

かぶらずに持つのは、顔を見せるためである。

かぶってしまえば、顔が隠れる。柱絵の狭い画面では、顔は貴重な見どころになる。

だから、道具は持たせるが、使わせない。

九点の人物の多くが、道具を持ったまま使っていない。

画面の中の、小さな画面

上に小さな絵を入れる作りは、柱絵でよく使われる。

余った上部を埋められる。文字だけより見栄えがする。

小さな絵は、下の人物と関係のある場面が選ばれることが多い。

この一点では、海の景色が入る。人物の姿と結びつくかどうかは分からない。

館の記録には、その関係の説明がない。

梯子を登る若い女
鈴木春信《梯子を登る若い女》1768年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦63.8センチ、横11.4センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。鈴木春信《梯子を登る若い女》メトロポリタン美術館蔵

画面の中ほどに、人物が斜めに立つ。

梯子に足をかけ、上を見上げる。

梯子は細い縦の線二本と、横木で示される。

上部には、木の葉が広がる。緑と黄で塗られる。

その葉のあいだから、細い枝が垂れる。

人物の衣は白と赤で、裾がめくれる。

片手を上へ伸ばし、枝に触れているように見える。

下部には、地面と草がわずかに描かれる。

梯子という縦に長い道具が、細長い画面によく合っている。

見上げる姿勢

九点の柱絵のうち三点で、人物は上を向いている。

上を向けば、顔が上へ向き、体が伸びる。縦の形になる。

下を向けば、体は縮む。細長い画面には合わない。

視線の向きまで、判型に合わせて選ばれている。

もっとも、これは九点からの観察である。ほかの柱絵にも当てはまるかは分からない。

縦に長い道具

柱絵に出てくる道具を数えると、縦に長いものが多い。

梯子、柱、木の幹、掛け行灯、垂れた枝。

いずれも、細い画面に無理なく収まる。

横に長い机や、広い座敷は入らない。

判型が、描かれるものを選んでいる。

訪れ
鈴木春信《訪れ》1769年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦66センチ、横10.8センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。鈴木春信《訪れ》メトロポリタン美術館蔵

九点の柱絵のなかで、唯一二人が描かれる。

上部に、一人の顔と上半身が見える。窓か戸の向こうにいる。

その人物は、こちらを見下ろす。手を口元に当てる。

下部には、もう一人が立つ。顔を上へ向ける。

衣は赤と白で、模様が細かい。

二人のあいだには、縦の柱と横の板がある。建物の一部である。

さらに上には、文字が二行ほど入る。

つまり、上下に人を分けることで、狭い画面に二人を収めている。

上下に分ける

横に並べられないなら、上下に並べればよい。

この解き方は、柱絵の定石である。

上下に分けると、二人のあいだに距離が生まれる。

見上げる人と、見下ろす人という関係が自然にできる。

判型の制約が、そのまま物語の形を作っている。

高砂の浦
鈴木春信《高砂の浦》1760年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦34.9センチ、横14.6センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。鈴木春信《高砂の浦》メトロポリタン美術館蔵

ここから四点は、柱絵ではない。

縦34.9センチ、横14.6センチ。縦は横の二倍半ほどである。

画面の中央に、舟が浮かぶ。船体は横に長い。

舟には人が三人乗る。二人は立ち、一人は座る。

帆柱が斜めに立ち、白い帆が張られる。

水面には細かい波の線が並ぶ。

奥には低い山があり、その上に丸い月が出る。

右上には、文字の入った四角い枠がある。

横長のものを描くには、この幅が要る。柱絵では舟は入らない。

舟と月と文字

この一点には、柱絵に入らない要素がそろっている。

横に長い舟、遠くの山、丸い月、そして文字の枠。

要素が四つあれば、画面は横に広がる必要がある。

柱絵なら、このうち二つしか置けない。

判型が要素の数を決めている、と言ってもよい。

幅が二倍になると

柱絵と、この一点を比べてみる。

横幅は12センチから14.6センチへ、二割ほど増えただけである。

しかし、比率は六倍から二倍半へ大きく変わる。

その差で、横に広がる場面が描けるようになる。

判型の違いは、数センチの差が意味を大きく変える。

縁側の二人の若い女
鈴木春信《縁側の二人の若い女》1766年から1770年ごろ。木版、紙に墨と色。館の記録では、縦28.6センチ、横21.4センチとされる。メトロポリタン美術館蔵。鈴木春信《縁側の二人の若い女》メトロポリタン美術館蔵

九点で最も横幅の広い一点である。

画面の左に、女性が立つ。縁側の床に足を置く。

右には、もう一人が座る。膝を折り、前へかがむ。

二人の上には、赤い提灯が吊るされる。文字が書かれる。

背後には、緑の障子と白い壁がある。

右には、松の幹が縦に立つ。表面が赤茶で、節が刻まれる。

手前の床には、白い石灯籠が置かれる。

床は薄い赤で塗られる。木の線が細く入る。

この画像の右端には、灰色の階調を並べた帯が写り込む。撮影のための目盛りである。

目盛りが写る

九点のうち二点の画像には、灰色の帯が写っている。

白から黒までの階調が段になって並ぶ。撮影のときに置く基準である。

色や明るさが正しく写っているかを、あとから確かめられる。

作品の一部ではない。しかし、画像がどう作られたかを示している。

公開画像をそのまま使う当サイトでは、こうした帯もそのまま表示される。