縦が、横の六倍ある——鈴木春信の柱絵

上部に、小さな四角い枠がある。中に文字が並ぶ。
その下に、横長の小さな絵がある。海と山と船が描かれる。
つまり、画面の上部に別の小さな画面が入っている。
さらにその下に、人物が立つ。顔は上を向く。
手には、大きな丸い笠を持つ。編み目が細かく描かれる。
衣は白と淡い色で、裾が広がる。
腰には黒い布が巻かれる。
下部には草履と地面がわずかに見える。
笠を持つ手
いま見た一点では、人物が大きな笠を手に持っている。
かぶらずに持つのは、顔を見せるためである。
かぶってしまえば、顔が隠れる。柱絵の狭い画面では、顔は貴重な見どころになる。
だから、道具は持たせるが、使わせない。
九点の人物の多くが、道具を持ったまま使っていない。
画面の中の、小さな画面
上に小さな絵を入れる作りは、柱絵でよく使われる。
余った上部を埋められる。文字だけより見栄えがする。
小さな絵は、下の人物と関係のある場面が選ばれることが多い。
この一点では、海の景色が入る。人物の姿と結びつくかどうかは分からない。
館の記録には、その関係の説明がない。

画面の中ほどに、人物が斜めに立つ。
梯子に足をかけ、上を見上げる。
梯子は細い縦の線二本と、横木で示される。
上部には、木の葉が広がる。緑と黄で塗られる。
その葉のあいだから、細い枝が垂れる。
人物の衣は白と赤で、裾がめくれる。
片手を上へ伸ばし、枝に触れているように見える。
下部には、地面と草がわずかに描かれる。
梯子という縦に長い道具が、細長い画面によく合っている。
見上げる姿勢
九点の柱絵のうち三点で、人物は上を向いている。
上を向けば、顔が上へ向き、体が伸びる。縦の形になる。
下を向けば、体は縮む。細長い画面には合わない。
視線の向きまで、判型に合わせて選ばれている。
もっとも、これは九点からの観察である。ほかの柱絵にも当てはまるかは分からない。
縦に長い道具
柱絵に出てくる道具を数えると、縦に長いものが多い。
梯子、柱、木の幹、掛け行灯、垂れた枝。
いずれも、細い画面に無理なく収まる。
横に長い机や、広い座敷は入らない。
判型が、描かれるものを選んでいる。

九点の柱絵のなかで、唯一二人が描かれる。
上部に、一人の顔と上半身が見える。窓か戸の向こうにいる。
その人物は、こちらを見下ろす。手を口元に当てる。
下部には、もう一人が立つ。顔を上へ向ける。
衣は赤と白で、模様が細かい。
二人のあいだには、縦の柱と横の板がある。建物の一部である。
さらに上には、文字が二行ほど入る。
つまり、上下に人を分けることで、狭い画面に二人を収めている。
上下に分ける
横に並べられないなら、上下に並べればよい。
この解き方は、柱絵の定石である。
上下に分けると、二人のあいだに距離が生まれる。
見上げる人と、見下ろす人という関係が自然にできる。
判型の制約が、そのまま物語の形を作っている。

ここから四点は、柱絵ではない。
縦34.9センチ、横14.6センチ。縦は横の二倍半ほどである。
画面の中央に、舟が浮かぶ。船体は横に長い。
舟には人が三人乗る。二人は立ち、一人は座る。
帆柱が斜めに立ち、白い帆が張られる。
水面には細かい波の線が並ぶ。
奥には低い山があり、その上に丸い月が出る。
右上には、文字の入った四角い枠がある。
横長のものを描くには、この幅が要る。柱絵では舟は入らない。
舟と月と文字
この一点には、柱絵に入らない要素がそろっている。
横に長い舟、遠くの山、丸い月、そして文字の枠。
要素が四つあれば、画面は横に広がる必要がある。
柱絵なら、このうち二つしか置けない。
判型が要素の数を決めている、と言ってもよい。
幅が二倍になると
柱絵と、この一点を比べてみる。
横幅は12センチから14.6センチへ、二割ほど増えただけである。
しかし、比率は六倍から二倍半へ大きく変わる。
その差で、横に広がる場面が描けるようになる。
判型の違いは、数センチの差が意味を大きく変える。

九点で最も横幅の広い一点である。
画面の左に、女性が立つ。縁側の床に足を置く。
右には、もう一人が座る。膝を折り、前へかがむ。
二人の上には、赤い提灯が吊るされる。文字が書かれる。
背後には、緑の障子と白い壁がある。
右には、松の幹が縦に立つ。表面が赤茶で、節が刻まれる。
手前の床には、白い石灯籠が置かれる。
床は薄い赤で塗られる。木の線が細く入る。
この画像の右端には、灰色の階調を並べた帯が写り込む。撮影のための目盛りである。
目盛りが写る
九点のうち二点の画像には、灰色の帯が写っている。
白から黒までの階調が段になって並ぶ。撮影のときに置く基準である。
色や明るさが正しく写っているかを、あとから確かめられる。
作品の一部ではない。しかし、画像がどう作られたかを示している。
公開画像をそのまま使う当サイトでは、こうした帯もそのまま表示される。