美術史・技法

美術館が、作者の欄に入る——兜九点の記録

記録は、手が入った時点を書く

前の二点に共通するのは、時点を書くという姿勢である。

いつ、誰が、どこに手を入れたか。

1932年、頬当て。2015年、修復。

作られた年だけでなく、直された年も書く。

美術館の記録では、これは珍しくない。

前の回の記事で、板からカンヴァスへ移した絵を見た。

あのときも、移した年が年の欄に入っていた。

技法の欄や年の欄は、作った瞬間だけを指さない。

その品が受けた処置の履歴も、そこに畳まれている。

九点のうち二点が、その畳まれ方を見せている。

蜻蛉の変わり兜
ミウラ・ヒロミチ(修復)《蜻蛉の変わり兜》18世紀。修復は2015年。館の記録では、鉄、銅、金、銀、木、漆、絹、麻。縦33センチ、横65.4センチ、奥行き39.4センチ、重さ2460.7グラム。番号は2018.833.9。メトロポリタン美術館蔵。ミウラ・ヒロミチ《蜻蛉の変わり兜》メトロポリタン美術館蔵

頭頂に、大きな蜻蛉が載る。

木を彫って作られ、漆が塗られる。

羽は左右に大きく広がる。

その幅は、記録では65.4センチとされる。

鉢そのものの幅の、二倍以上ある。

胴は太く、節が刻まれる。

目は丸く突き出し、黒く光る。

鉢は茶色の漆で、鋲が縦に並ぶ。

左右の吹き返しは小さく、外へ反る。

しころは黒い小札を、赤と青の紐で綴る。

写真では、黄色い木の台に載せられている。

記録に、漢字がない

日本の兜の作者名について、一つ断っておきたい。

館の記録は、作り手の名をローマ字だけで書いている。

漢字が併記されていない。

だから、正しい漢字表記をこちらで断定できない。

同じ読みの名は、いくつもの書き方がありうる。

推測で漢字を当てれば、別人にしてしまう恐れがある。

この記事では、読みをかなで示すにとどめた。

分からないものを、分からないまま渡す。

館の記録が取っている態度と、同じ扱いである。

筋兜
ヨシヒサ(作)、ノブマサ(装飾)《筋兜》17世紀初め。館の記録では、鉄、銀、革、絹。縦29.2センチ、横34.3センチ。番号は14.100.160。メトロポリタン美術館蔵。ヨシヒサ《筋兜》メトロポリタン美術館蔵

鉢の表面に、細い筋が放射状に走る。

鉄の板を継ぎ、継ぎ目を立てて筋にしている。

筋の数は多く、頂点で一点に集まる。

鉢の地には、銀の細い線で模様が入る。

草の葉のような形が、ゆるく広がる。

左右の吹き返しは大きく開く。

その表に、金の円い紋が付く。

下には、しころが幾段も垂れる。

黒い小札を横につなぎ、鋲の頭が並ぶ。

木の台に載せられ、正面から撮られている。

十六世紀の様式で、後から作る

九点のうち一点は、題そのものが変わっている。

十六世紀の様式による星兜、とある。

年の欄は、おそらく十七世紀後半から十八世紀初め。

つまり、百年ほど前の様式を、後から再現している。

古い形を写して作るという行為である。

なぜそうするのか、記録は書かない。

ただ、題にそう書いた以上、館は写しと判断している。

同時代の作ではないという判断だ。

前の回の記事で、模倣者と記された絵を見た。

あちらは、作者の欄に語が足された。

こちらは、題の中に様式の年代が書き込まれている。

同じ判断を、別の欄で示している。

十六世紀の様式による星兜
サオトメ・イエナリ《十六世紀の様式による星兜》おそらく17世紀後半から18世紀初め。館の記録では、鉄、漆、絹。縦29.9センチ、横33センチ。番号は36.120.407。メトロポリタン美術館蔵。サオトメ・イエナリ《十六世紀の様式による星兜》メトロポリタン美術館蔵

鉢の全面に、小さな鋲の頭が並ぶ。

鋲が星に見えることから、この名がある。

鋲は縦の列をなし、頂点へ向かって収束する。

鉢の色は黒に近い鉄の色である。

前面の中央に、細長い金具が立つ。

左右の吹き返しは、赤く塗られる。

その中央に、金の円い紋が一つずつ入る。

しころは黒く、四段ほどに分かれる。

綴じ紐は青と白で、段ごとに色を替える。

古い形を写しながら、色は鮮やかである。

材料の数が、記録の長さを決める

九点の技法の欄を、語の数で比べてみる。

いちばん短いのは、鋼の一語だけ。

いちばん長いのは、八つの材料が読点で並ぶ。

鉄、銅、金、銀、木、漆、絹、麻。

長いほうは、いずれも日本の兜である。

理由は、作りの違いにある。

ヨーロッパの兜は、鋼の板を叩いて作る。

叩いて形を作り、そこに彫りや象嵌を加える。

日本の兜は、鉄の板を鋲で綴じる。

そのうえに漆を塗り、革を貼り、絹の紐で綴じる。

材料の数がそのまま増える。

技法の欄の長さは、工程の数を映している。

そして工程が多ければ、関わる人も増える。

漆を塗る人と、紐を組む人は別である。

作者の欄に入るのは、そのうち一人か二人だけだ。

星兜
奈良のイエヒサ《星兜》17世紀。館の記録では、鉄、漆、金銅、赤銅、銀、絹、金革。縦27.9センチ、長さ39.4センチ。番号は48.63.4。メトロポリタン美術館蔵。奈良のイエヒサ《星兜》メトロポリタン美術館蔵

鉢の面に、金色の細い板が放射状に貼られる。

板と板のあいだに、鋲の頭が縦に並ぶ。

金と鉄の色が、交互に走る。

頂点には、金の輪と小さな飾りが立つ。

前面の中央に、金の細長い金具が下がる。

左右の吹き返しは、大きく外へ開く。

その表に、青い円と金の飾りが付く。

しころは四段ほどに分かれる。

小札は赤く、金の縁を持つ。

段ごとに、紐の色が変わる。

技法の欄には、七つの材料が並ぶ。

その一つ一つが、写真の中に見つかる。

重さの欄が、あるものとないもの

九点のうち、重さが書かれているのは六点である。

書かれていない三点は、いずれも日本の兜だ。

ここで、伝統の違いだと考えたくなる。

しかし、そう結論するのは早い。

重さのない三点は、いずれも受入が古い。

1914年、1936年、1948年である。

一方、2018年に入った日本の兜には、重さがある。

2460.7グラムと、小数点まで書かれている。

つまり、伝統の違いではない。

記録を作った時期の違いである。

近年の受入ほど、計測の欄が細かくなる。

古い記録は、あとから測り直されないまま残る。