開いた本と、閉じた本——欧米の肖像・細密画・版画ほか九点

きわめて小さい。
十掛ける十二センチ。
九点のなかで、いちばん小さい。
木の台の上に、ものが置かれている。
中央に、閉じた本が横たわる。
赤い小口が見える。
背は左を向く。
その上に、陶器のマグが載っている。
灰褐色で、金属の帯が二本回る。
取っ手が右へ出る。
本の左に、丸いビスケットが二つ。
その左に、細いマッチが一本。
背景は暗い。
台の縁が、手前で水平に走る。
本が、台になる
この本は、読まれていない。
そして、持たれてもいない。
マグを載せる台になっている。
つまり、本が家具として使われている。
第十七回で、扱われ方が形を決めると何度も書いた。
ここでは、本が本として扱われていない。
そして、それが絵の主題になっている。
日常のものを、そのまま並べる。
第十八回で読んだ静物画と、同じ系統である。
そして、この一点では影がはっきりしている。
マグの右下に、濃い影が落ちる。
第十三回で、光の入口が影の向きを決めると書いた。
光は、左上から来ている。

第十八回で読んだマンスフィールド・コレクションの、一点である。
縦長の掛軸である。
画像の左に、階調表が写っている。
黒から白へ、段階的に変わる目盛りである。
第十八回で、記録のための撮影について何度も書いた。
画面には、女性が二人いる。
上の一人は立つ。
淡い衣に、大きな文様。
顔は右を向く。
下の一人は座る。
赤みのある衣で、前かがみになる。
そして、手もとに何かを持っている。
小さく、白い。
書物らしい。
背後に、格子の建具。
その向こうに、緑の帯。
手もとの小さな本
この本は、小さい。
そして、画面のなかで目立たない。
しかし、その存在が場面を説明する。
湯から上がって、くつろいでいる場面である。
そこで読み物をしている。
つまり、本が時間の使い方を示している。
第十六回で、布が身分を示すと書いた。
持ち物は、その人の暮らしを示す。
そして、この一点では持ち物が小さい。
主題は、二人の姿である。
本は、添えられているだけである。
本そのもの
残る三点は、絵ではなく本である。

開かれた本が写っている。
見開きの二頁である。
左の頁に、建物が描かれている。
尖った屋根と、丸い窓。
教会らしい。
その手前に、木が数本。
右の頁には、人物と紋章。
上に、丸い枠と、髭のある顔。
その下に、盾を持つ人物。
盾には、赤と青の文様。
そして、その足もとに、細長い白い形。
巻物か、旗だろう。
下に、小さな動物。
紙は黄ばみ、傷んでいる。
剣術の書物
題に、剣術書とある。
つまり、剣の使い方を図で示した本である。
そして、館の分類は武具の部門である。
絵画でも、書物の部門でもない。
第十八回で、館の分類が主題ではなく用途で決まる例を何度も見た。
同じことが、ここでも起きている。
剣に関わる本は、武具の部門に入る。
そして、材料の欄には、革と真鍮とある。
紙が書かれていない。
装丁の材料だけが記録されている。
中身の紙は、書かれていない。
記録の欄が、何を重視しているかが分かる。
写しの写し
年の欄も興味深い。
十五世紀半ばの写本の、十六世紀の写し。
つまり、この本は原本ではない。
百年後に写されたものである。
第十七回で、複製と反復について何度も扱った。
写本は、写すことで伝わる。
そして、写すたびに少しずつ変わる。
館の記録は、その関係を年の欄に書いている。
原本の年と、この一冊の年。
二つの年が、一つの欄に並んでいる。

きわめて小さい本である。
高さ九・五センチ、幅六センチ。
手のひらに収まる。
開かれた状態で写っている。
上下に二つの図がある。
上の図は、兜の側面である。
丸い形で、上に細かい網目が描かれる。
その横に、手書きの文字。
年らしい数字も見える。
下の図も、兜である。
こちらは、面覆いの付いた形。
灰色に塗られている。
その下にも、文字と年。
紙は淡い桃色がかっている。
持ち歩くための本
この本は、小さい。
上着の隠しに入る大きさである。
つまり、持ち歩いて、その場で描くための帳面である。
第十七回で、写生帖について何度も扱った。
同じ性格の帳面である。
そして、中身が兜の図である。
各地の館や収集を訪ね、見た兜を写した。
日付や年代の書き込みが、それを示す。
そして、館の分類は武具の部門である。
前の一点と同じである。
兜を扱った本は、武具に入る。
材料の欄には、紙・革・銀とある。
銀は、留め具だろう。

第十八回で、本の丁が版画として登録される例を読んだ。
これも、その一つである。
見開きの二丁が写っている。
左の丁に、植物が描かれる。
細い茎が上へ伸び、花が開く。
葉は大きく、切れ込みがある。
その茎に、虫が二匹とまっている。
緑の細長い虫と、褐色の細長い虫。
右の丁は、文字だけである。
崩し字が、縦に何行も並ぶ。
和歌だろう。
そして、中央に折り目が縦に走る。