美術史・技法

開いた本と、閉じた本——欧米の肖像・細密画・版画ほか九点

図と文が、向かい合う

この見開きでは、左に絵、右に文字がある。

つまり、一つの主題を二通りに示している。

見るものと、読むもの。

第十六回で、画面のなかの文字について扱った。

そこでは、文字が絵の中にあった。

こちらは、別の頁に分かれている。

そして、その配置が本の形式による。

見開きの左右に、絵と文を振り分ける。

読む人は、両方を同時に見る。

第十八回で、貝を描いた本の丁を読んだ。

あちらも、文字と図が同じ頁にあった。

本によって、配置が違う。

五つの人物習作、うち二つは半身の男性肖像の型(写生帖より)
トマス・サリー《五つの人物習作、うち二つは半身の男性肖像の型(写生帖より)》1810年から20年。館の記録では、紙にインクと淡彩。22.9×29.2センチ。番号は53.182.6の表。メトロポリタン美術館蔵。トマス・サリー《五つの人物習作、うち二つは半身の男性肖像の型(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

第一回から何度も読んできた写生帖の、また別の頁である。

白黒の画像である。

一枚の紙に、複数の絵が散らばっている。

中央に、大きな人物の頭部と上半身。

髪が四方へ広がる。

その左に、立った人物。

腕を前へ出す。

右下にも、座った人物。

いずれも、細い線だけである。

そして、この頁自体が、本の一頁である。

写生帖という本の、六枚目にあたる。

本の頁を、一点として数える

この頁は、本の一部である。

しかし、館の記録では独立した一点である。

第十七回で、この問題を何度も扱った。

一冊を一件とするか、頁ごとに数えるか。

そして、今回の九点には、両方の扱いが混じっている。

剣術書と覚え書き帳は、一冊で一件である。

写生帖の頁と、絵本の丁は、一頁で一件である。

同じ館の記録でありながら、扱いが逆になっている。

理由は、ばらされているかどうかだろう。

綴じられたまま残っていれば、一件。

ばらされていれば、頁ごとになる。

つまり、いまの物理的な状態が、数え方を決めている。

九点を、本の状態で分ける

九点の本を、状態で分けたい。

開かれて読まれているものが一点。

細密画の一点である。

閉じて傍らに置かれているものが二点。

トルコ風の衣装の一点と、静物の一点。

背景の棚に並ぶものが一点。

肖像画の一点。

手もとに小さく持たれているものが一点。

掛軸の一点。

そして、本そのものが三点。

剣術書、覚え書き帳、絵本の丁。

さらに、本の一頁が一点。

写生帖の頁である。

本のある場所

九点で、本がどこにあるかを見たい。

膝の上が一点。

ソファの上が一点。

卓の上が一点。

背後の棚が一点。

手もとが一点。

そして、本そのものの三点は、撮影台の上である。

つまり、絵のなかの本は、たいてい人の近くにある。

遠くの棚に一点あるだけで、残りは手の届く範囲である。

これは、本が手で扱うものだからである。

第十七回で、帽子が顔のすぐ上にあると書いた。

本は、手のすぐそばにある。

だから、手と一緒に描かれる。

そして、手の描き方が重要になる。

頁を押さえる指、支える掌、めくる動き。

九点のうち、開いた本を持つ一点では、手が本に触れていない。

膝の前に置かれ、両手は顔と体にある。

つまり、読んでいる途中で手を離している。

そこも、この一点の姿勢の要である。

本は、内容を隠す

最後に、本の性質をまとめたい。

本は、閉じていると内容が見えない。

開いても、絵のなかでは文字が読めないことが多い。

つまり、本はほとんどの場合、中身を見せない。

見せるのは、外側だけである。

厚さ、色、大きさ、装丁。

それでも、本が置かれているだけで意味が生まれる。

読む人である。

学ぶ人である。

そういう情報を、中身を見せずに伝える。

第十七回で、帽子が外せると書いた。

本も、外せる持ち物である。

そして、外しても意味が残る。

棚に並んでいるだけで、その人を語る。

九点のうち、中身が見えるのは三点だけである。

いずれも、本そのものが図版になっている場合である。

絵のなかの本は、閉じているか、白いままである。

次の回では、また別の持ち物を見たい。

扇は、開くと面になり、閉じると棒になる。

本の大きさ

九点のうち、寸法が分かる本は三点である。

剣術書が、高さ三十二・七センチ、幅二十・六センチ。

覚え書き帳が、九・五センチ掛ける六センチ。

そして、絵本の丁が、二十六・七センチ掛ける十八・四センチ。

三倍以上の差がある。

大きな本は、机に置いて読む。

小さな本は、持ち歩く。

つまり、大きさが使い方を示す。

第十七回で、帽子の大きさが使う場所を示すと書いた。

本も同じである。

そして、大きな本は開くと横に広がる。

見開きで、幅が倍になる。

剣術書なら、四十センチを超える。

だから、置く場所が要る。

一方、覚え書き帳は開いても十二センチである。

片手で持てる。

第十七回で扱った、判型と用途の関係がここにも現れている。

そして、その関係は本の中身にも及ぶ。

小さな帳面には、その場の覚え書きが入る。

大きな書物には、清書された図が入る。

綴じ目という線

開いた本を描くと、必ず中央に縦の線が入る。

綴じ目である。

そして、その線が画面を左右に分ける。

九点のうち、開いた本があるものは四点である。

細密画の一点、剣術書、覚え書き帳、絵本の丁。

いずれも、中央に線がある。

そして、その線をまたいで絵が続くかどうかが分かれる。

絵本の丁では、左に絵、右に文字である。

またいでいない。

覚え書き帳では、上下に図が分かれている。

こちらも、またいでいない。

剣術書では、左右で別の図である。

つまり、三点とも綴じ目を境にしている。

第十七回で、見開きにまたがる絵の問題を扱った。

またぐと、面ごとに数える方式とぶつかる。

またがなければ、頁ごとに独立する。

本を作る側は、たいてい綴じ目を避ける。

綴じたときに、中央が読みにくくなるからである。

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