作品を知る

狩りの絵に、血は流れない——クラーナハ・カロ・陳居中ほか九点

狩りを描いた九点を数えると、獲物が倒れる場面は一点だけで、血の描かれた絵は一点もなかった。七点は追っている最中である。終わった後を描く絵はなく、追っているあいだにだけ、誰が先に射るかという順番が見えていた。

ハルテンフェルス城近郊の狩り
ルーカス・クラーナハ《ハルテンフェルス城近郊の狩り》クリーヴランド美術館蔵

谷いっぱいに、犬と鹿が走る

横長の大きな板絵である。

ハルテンフェルス城近郊の狩り
ルーカス・クラーナハ《ハルテンフェルス城近郊の狩り》1540年。館の記録では、油彩、もと板、メゾナイトに移す。額なしで116.8×170.2センチ。番号は1958.425。クリーヴランド美術館蔵。ルーカス・クラーナハ《ハルテンフェルス城近郊の狩り》クリーヴランド美術館蔵

額なしで116.8×170.2センチある。

大人が両腕を広げたほどの幅がある。

画面の上に、緑の丘がある。

丘の頂に、白い城が建つ。

城には塔が三つ見える。

屋根は赤く、小さく描かれる。

丘の斜面は、明るい緑である。

その手前は、濃い緑の森である。

森の木は、細かい点で描かれる。

画面の中ほどを、川が横切る。

川は左右に広がる。

水は灰緑で、静かである。

その川を、鹿が渡る。

鹿は何頭もいる。

角のあるものと、ないものがいる。

水しぶきは、細い白線である。

犬が、鹿を追う。

犬は十数匹いる。

体は細く、脚が長い。

岸には、人が並ぶ。

多くは馬に乗る。

服は赤、青、白である。

画面の左下に、緑の服の男がいる。

男は膝を突く。

手には、弩がある。

弩に矢をつがえるところである。

館の記録では、これは領主である。

右のほうに、女が立つ。

女は最初の一矢を放つ役だという。

館の記録は、そう説明している。

つまり、この狩りは順番が決まっている。

館の記録では、この地方の領主は狩りを好んだ。

犬を使う狩りは、念入りに組み立てられた。

段取りは、角笛の合図でそろえられる。

館は、そう説明している。

画面には、人と犬と鹿が最も多い。

しかし、それだけではない。

館の記録は、奥をよく見るように書く。

熊が一頭と、猪が三頭いるという。

言われて探すと、森の際に黒い影がある。

画面の隅々まで、生き物が置かれている。

館の記録では、右下の舟に署名がある。

署名は、翼のある蛇の形である。

名前ではなく、印である。

同じ場所に、後から書かれた数字もある。

それは所蔵の番号だという。

狩りは、九つの場所に現れる

このコラムでは、狩りの絵を九点並べる。

九点は、館も年代も技法も違う。

板絵があり、版画があり、素描があり、扇がある。

大皿があり、銃があり、象牙の小画もある。

共通するのは、館の記録に狩りの語があることだけである。

数えるのは、獲物と、その死である。

横長の紙に、五つの層がある

二点目は、エッチングである。

大狩猟
ジャック・カロ《大狩猟》1619年。館の記録では、エッチング。紙は20.7×47.1センチ。番号は1970.342。クリーヴランド美術館蔵。ジャック・カロ《大狩猟》クリーヴランド美術館蔵

横に長い紙である。

紙は20.7×47.1センチある。

高さの二倍以上の幅がある。

線は細く、全体が灰色に見える。

画面の左右に、大きな木が立つ。

木は幹が太く、枝が上で交わる。

枝と葉は、額縁のように画面を囲む。

中央は、開けた野である。

野の手前に、鹿がいる。

鹿は右へ走る。

脚は伸び、体は低い。

その後ろに、犬の群れがいる。

犬は十匹以上いる。

さらに後ろに、騎馬の人が続く。

奥には、川と橋がある。

いちばん奥は、丘と町である。

町の建物は、細かい点になる。

館の記録では、画面は五つの層に分かれる。

普通は三つだが、この一枚は五つだという。

そして、その並べ方は舞台に似ている。

館は、そう説明している。

館の記録は、技法についても書く。

この画家は、先の尖った道具を工夫した。

その道具で、太さの変わる線を引いた。

また、剥がれにくい防蝕の膜も作った。

細い線を長く保つための工夫である。

画面の広さについても考えたい。

幅47センチのうち、鹿の体は数センチである。

犬は、それより小さい。

奥の町は、数ミリしかない。

同じ紙の上に、大小の差が並ぶ。

差が大きいほど、奥行きは深く見える。

木を左右に置くのは、そのためである。

手前に大きなものを立てる。

すると、奥は自然に遠くなる。

舞台の書き割りと同じ仕掛けである。

館は、舞台からの影響を指摘している。

ある画家の描いた舞台の幕が、もとになったらしい。

森の下で、狩りが始まる前

三点目は、素描である。

マルリーの狩猟の一行
ジャン・バティスト・マルタン(父)《マルリーの狩猟の一行》十七世紀後半から十八世紀初め。館の記録では、黒鉛と灰色の淡彩、茶インクの枠線。紙は51.7×36.7センチ。クリーヴランド美術館蔵。番号は2017.211。ジャン・バティスト・マルタン(父)《マルリーの狩猟の一行》クリーヴランド美術館蔵

縦長の紙である。

紙は51.7×36.7センチある。

全体が灰色である。

色はほとんど使われない。

画面の左に、巨大な木がある。

木は画面の高さいっぱいに伸びる。

幹は太く、根元が見えない。

右にも、木の列がある。

木は奥へ続く。

その下に、人が集まる。

人は小さい。

木の高さの、十分の一もない。

歩く人と、馬に乗る人がいる。

数十人はいる。

手前に、犬の群れがいる。

犬は散らばって走る。

尾が上がっている。

館の記録では、これは王の狩りの場面である。

ある王の狩りの館の周りで行われた。

館は、そう説明している。

一行の中に、角笛を持つ人がいる。

音楽の役の人だという。

角笛は、合図に使われる。

犬をどう動かすかを、音で伝える。

画面には、獲物がいない。

鹿も、猪も、鳥もいない。

まだ、始まっていないからである。

狩りの前を描いた絵は、九点でこの一点だけである。

淡彩の使い方も見ておきたい。

灰色の墨を、水で薄めて塗る。

濃さの違いだけで、奥行きを作る。

手前の木は濃く、奥の木は薄い。

人の群れは、いちばん薄い灰色である。

色を使わないぶん、明暗がよく見える。

枠線は、茶色のインクで引かれる。

紙の四辺に、細い線が回る。

これは、絵を仕上げた印でもある。

下絵ではなく、それ自体で完結している。

鷹が、水鳥を押さえる

四点目は、紙に描かれた細密画である。