狩りの絵に、血は流れない——クラーナハ・カロ・陳居中ほか九点
狩りを描いた九点を数えると、獲物が倒れる場面は一点だけで、血の描かれた絵は一点もなかった。七点は追っている最中である。終わった後を描く絵はなく、追っているあいだにだけ、誰が先に射るかという順番が見えていた。

谷いっぱいに、犬と鹿が走る
横長の大きな板絵である。

額なしで116.8×170.2センチある。
大人が両腕を広げたほどの幅がある。
画面の上に、緑の丘がある。
丘の頂に、白い城が建つ。
城には塔が三つ見える。
屋根は赤く、小さく描かれる。
丘の斜面は、明るい緑である。
その手前は、濃い緑の森である。
森の木は、細かい点で描かれる。
画面の中ほどを、川が横切る。
川は左右に広がる。
水は灰緑で、静かである。
その川を、鹿が渡る。
鹿は何頭もいる。
角のあるものと、ないものがいる。
水しぶきは、細い白線である。
犬が、鹿を追う。
犬は十数匹いる。
体は細く、脚が長い。
岸には、人が並ぶ。
多くは馬に乗る。
服は赤、青、白である。
画面の左下に、緑の服の男がいる。
男は膝を突く。
手には、弩がある。
弩に矢をつがえるところである。
館の記録では、これは領主である。
右のほうに、女が立つ。
女は最初の一矢を放つ役だという。
館の記録は、そう説明している。
つまり、この狩りは順番が決まっている。
館の記録では、この地方の領主は狩りを好んだ。
犬を使う狩りは、念入りに組み立てられた。
段取りは、角笛の合図でそろえられる。
館は、そう説明している。
画面には、人と犬と鹿が最も多い。
しかし、それだけではない。
館の記録は、奥をよく見るように書く。
熊が一頭と、猪が三頭いるという。
言われて探すと、森の際に黒い影がある。
画面の隅々まで、生き物が置かれている。
館の記録では、右下の舟に署名がある。
署名は、翼のある蛇の形である。
名前ではなく、印である。
同じ場所に、後から書かれた数字もある。
それは所蔵の番号だという。
狩りは、九つの場所に現れる
このコラムでは、狩りの絵を九点並べる。
九点は、館も年代も技法も違う。
板絵があり、版画があり、素描があり、扇がある。
大皿があり、銃があり、象牙の小画もある。
共通するのは、館の記録に狩りの語があることだけである。
数えるのは、獲物と、その死である。
横長の紙に、五つの層がある
二点目は、エッチングである。

横に長い紙である。
紙は20.7×47.1センチある。
高さの二倍以上の幅がある。
線は細く、全体が灰色に見える。
画面の左右に、大きな木が立つ。
木は幹が太く、枝が上で交わる。
枝と葉は、額縁のように画面を囲む。
中央は、開けた野である。
野の手前に、鹿がいる。
鹿は右へ走る。
脚は伸び、体は低い。
その後ろに、犬の群れがいる。
犬は十匹以上いる。
さらに後ろに、騎馬の人が続く。
奥には、川と橋がある。
いちばん奥は、丘と町である。
町の建物は、細かい点になる。
館の記録では、画面は五つの層に分かれる。
普通は三つだが、この一枚は五つだという。
そして、その並べ方は舞台に似ている。
館は、そう説明している。
館の記録は、技法についても書く。
この画家は、先の尖った道具を工夫した。
その道具で、太さの変わる線を引いた。
また、剥がれにくい防蝕の膜も作った。
細い線を長く保つための工夫である。
画面の広さについても考えたい。
幅47センチのうち、鹿の体は数センチである。
犬は、それより小さい。
奥の町は、数ミリしかない。
同じ紙の上に、大小の差が並ぶ。
差が大きいほど、奥行きは深く見える。
木を左右に置くのは、そのためである。
手前に大きなものを立てる。
すると、奥は自然に遠くなる。
舞台の書き割りと同じ仕掛けである。
館は、舞台からの影響を指摘している。
ある画家の描いた舞台の幕が、もとになったらしい。
森の下で、狩りが始まる前
三点目は、素描である。

縦長の紙である。
紙は51.7×36.7センチある。
全体が灰色である。
色はほとんど使われない。
画面の左に、巨大な木がある。
木は画面の高さいっぱいに伸びる。
幹は太く、根元が見えない。
右にも、木の列がある。
木は奥へ続く。
その下に、人が集まる。
人は小さい。
木の高さの、十分の一もない。
歩く人と、馬に乗る人がいる。
数十人はいる。
手前に、犬の群れがいる。
犬は散らばって走る。
尾が上がっている。
館の記録では、これは王の狩りの場面である。
ある王の狩りの館の周りで行われた。
館は、そう説明している。
一行の中に、角笛を持つ人がいる。
音楽の役の人だという。
角笛は、合図に使われる。
犬をどう動かすかを、音で伝える。
画面には、獲物がいない。
鹿も、猪も、鳥もいない。
まだ、始まっていないからである。
狩りの前を描いた絵は、九点でこの一点だけである。
淡彩の使い方も見ておきたい。
灰色の墨を、水で薄めて塗る。
濃さの違いだけで、奥行きを作る。
手前の木は濃く、奥の木は薄い。
人の群れは、いちばん薄い灰色である。
色を使わないぶん、明暗がよく見える。
枠線は、茶色のインクで引かれる。
紙の四辺に、細い線が回る。
これは、絵を仕上げた印でもある。
下絵ではなく、それ自体で完結している。
鷹が、水鳥を押さえる
四点目は、紙に描かれた細密画である。