美術史・技法

道具が、その人の仕事を示す——トムソン・コルヴィッツ・ホイッスラーほか九点

働く絵では、顔ではなく手に持ったものが職業を決める。九点で、道具と姿勢を数えたい。前かがみが六点。そして目が合うのは一点だけだった。見られていると分かれば、手が止まるからである。働く姿勢は六点が前かがみだった。対象の高さが、体の折れ方を決めている。

コヴェント・ガーデンの労働者たち
ジョン・トムソン《コヴェント・ガーデンの労働者たち》クリーヴランド美術館蔵

市場の朝が、写されている

小さな写真である。

画面は縦11.4センチ、横8.6センチ。

建物の下の、屋根のある通路である。

石の柱と、瓦らしい屋根が上に見える。

その下に、男が六人ほどいる。

一人は、頭の上に大きな籠を載せている。

両手を上げ、その籠を支える。

もう一人は、背中に籠を負う。

手前の一人は、しゃがんで何かを扱う。

奥の二人は、立って話しているように見える。

足元に、籠と箱が積まれる。

床は、濡れているように光る。

全体に、褐色がかっている。

コヴェント・ガーデンの労働者たち
ジョン・トムソン《コヴェント・ガーデンの労働者たち》1877年。館の記録では、ウッドベリータイプ。画面11.4×8.6センチ。台紙を含めて27×20.7センチ。番号は2019.53。クリーヴランド美術館蔵。ジョン・トムソン《コヴェント・ガーデンの労働者たち》クリーヴランド美術館蔵

技法の欄に、珍しい語がある。

ウッドベリータイプという方法である。

写真の像を、ゼラチンの厚みの違いに変える。

その型に色素を入れた膠を流し、紙に写す。

刷るたびに同じ像が得られ、褪せにくい。

つまり、これは印刷である。

本や雑誌に挟んで配ることができる。

館の記録は、そこまでは書いていない。

書かれているのは、技法の名と寸法と、働き方の説明である。

館の記録は、この市場で働く人の条件を書いている。

仕事は午前五時前に始まったという。

そして、働き方が二種類に分かれていた。

荷物を運ぶたびに賃金を受け取る人。

季節によって、収入が大きく変わる。

もう一方は、年間を通じて給料を受け取る人。

こちらは少数だったと記録は書く。

これは館の記述である。

こちらで確かめられるのは、籠を運ぶ姿までだ。

九点を選ぶとき、記録に働くの語があるものを拾った。

働く人が絵になるとき、何が描かれるか。

数えたい。

道具が、職業を示す

九点を見比べると、共通することがある。

どの一点にも、道具か荷物がある。

籠、槌、梯子、鋤、彫刻刀。

そして、その道具でその人の仕事が分かる。

顔ではない。

第七回で、手が何をしているかを数えた。

手の話では、手の位置が主題を決めていた。

働く絵では、手に持ったものが職業を決める。

鍛冶屋
ウジェーヌ・ドラクロワ《鍛冶屋》1833年。館の記録では、アクアチント。番号は1929.1。クリーヴランド美術館蔵。ウジェーヌ・ドラクロワ《鍛冶屋》クリーヴランド美術館蔵

この作者の作品は、前にも出てきた。

第七回では、鉄の手を握る場面の版画を見た。

手の話で扱った一点である。

第三回では、裸体の習作も見た。

同じ人が、油彩、素描、リトグラフ、アクアチントを使い分けている。

技法の幅が広い。

暗い画面である。

四角い枠の中に、場面がある。

枠の外は、粗い線が残る。

中央に、男が一人いる。

上半身は裸に近い。

腕が太い。

両手で、何かを持ち上げている。

平たい板のようなものである。

その左に、光を出すものがある。

炉だろう。

その奥に、もう一人いる。

黒い影として見える。

上のほうは、まったくの黒である。

アクアチントは、面で暗さを作る技法である。

粉を撒いて腐食させ、粒の集まりを版にする。

だから、線ではなく面が出る。

暗い作業場を描くには、向いた技法である。

館の記録には、寸法が入っていない。

技法と、受け入れの経緯だけである。

石灰焼き職人
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《石灰焼き職人》1859年。館の記録では、エッチング。番号は1924.49。クリーヴランド美術館蔵。ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《石灰焼き職人》クリーヴランド美術館蔵

こちらも、暗い作業場である。

画面の左右に、太い柱が立つ。

上に、梁が渡される。

奥へ向かって、天井の骨組みが続く。

右に、長い梯子が立てかけられる。

その奥に、明るい開口がある。

そこから、光が入る。

開口の手前に、男が一人立つ。

小さく、黒い影に見える。

床には、板や道具が散らばる。

線は細く、方向がまちまちである。

その重なりで、暗い部分が作られる。

この一点では、人が小さい。

主役は、建物の内部である。

働く場所そのものが描かれている。

第十九回で、戸口が人を切り抜く話を書いた。

戸口の話で見たとおり、四角い開口は額のように働く。

ここでも、奥の明るい開口が、人を囲っている。

働く人が、序列の中に置かれる

職人(タロッキ「人間の境遇」より・第三)
イー系タロッキの画家《職人(タロッキ「人間の境遇」より、第三)》1467年より前。館の記録では、エングレーヴィング、手で彩色し金を用いる。番号は1924.432.3。クリーヴランド美術館蔵。イー系タロッキの画家《職人(タロッキ「人間の境遇」より・第三)》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、彩色についても書いている。

エングレーヴィングに、手で色を差し、金を用いる。

つまり、刷ったあとに一枚ずつ手を加えている。

同じ版から刷っても、色の付き方は一枚ごとに違う。

第十五回で、複製と反復を扱った。

手彩色が入ると、複製の中に一点ものの要素が混じる。

縦長の画面である。

外側に、細い枠が巡る。

中に、部屋の断面のような空間がある。

天井には、細い線が並ぶ。

奥の壁に、小さな窓がある。

その下に、棚があり、物が置かれる。

中央に、男が一人座る。

帽子をかぶり、前かがみになる。

低い台の上で、手を動かしている。

台の上には、道具らしい形が並ぶ。

その後ろに、もう一人の顔が見える。

画面の下に、文字が刻まれている。

館の記録によれば、これは連作の一枚である。

十人の「人間の境遇」を並べたものだという。

物乞い、召使、職人、商人、紳士、騎士。

そして、統領、王、皇帝、教皇と続く。

下から上へ、順に並ぶ。

職人は、下から三番目である。

これは館の記述である。

つまり、この一点で働く人は、序列の一段として描かれている。

個人ではない。

役割である。

第十八回で、群衆は匿名だと書いた。

ここでは、匿名であることが主題になっている。

働く人と、働かない人