作品を知る

眠ることと、横たわることは違う——春信・ピルス・ベロックほか九点

横たわれば、支えの問題は消える。代わりに、体が横に長くなる。九点で、その扱いを数えたい。眠るが横たわらない鳥が一点、横たわるが眠らない例が二点。そして絵の眠りは、なぜか昼に偏る。語の一部が一致しただけの外れも、削らずに並べた。

眠る羊飼いたち
アドリアーン・ファン・デ・フェルデ《眠る羊飼いたち》クリーヴランド美術館蔵

木の下で、人と犬と羊が眠っている

小さな板絵である。

画面は縦22.7センチ、横27.5センチしかない。

左に、太い幹の木が一本立つ。

その幹に、布が結びつけられている。

布は斜めに張られ、日よけになっている。

木の左には、馬が一頭、首を下げる。

その足元に、羊が数頭伏せる。

そして布の下に、人が横たわっている。

青い上着を着ている。

体を丸め、腕を頭の下に敷く。

顔は見えない。

その隣に、白い犬が伏せている。

奥には、なだらかな草地と空が広がる。

雲が高い。

眠る羊飼いたち
アドリアーン・ファン・デ・フェルデ《眠る羊飼いたち》1663年。館の記録では、板に油彩。画面22.7×27.5センチ。額を含めて38.5×43.5×5センチ。番号は1966.12。クリーヴランド美術館蔵。アドリアーン・ファン・デ・フェルデ《眠る羊飼いたち》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、額を含む寸法も書いている。

38.5×43.5×5センチである。

絵そのものより、縦横それぞれ十六センチ大きい。

小さな板絵に、厚い額が付いている。

この作者の絵は、前の二回にも出てきた。

足の話では牛と羊の版画を、

座る話では赤チョークの素描を見た。

家畜と、田園の人物を得意にした人である。

三点とも、その主題に収まっている。

前の三回で、立つ、座る、跪くという姿勢を見てきた。

今回は、いちばん低い姿勢である。

横たわることだ。

体の全部が、何かに接する。

支えの問題は、ここで消える。

倒れる心配がないからだ。

その代わり、別の問題が出る。

横たわった体は、画面の中で横に長くなる。

九点を並べて、その扱いを数えたい。

眠る人と、起きている人

遊女と眠る禿
鈴木春信《遊女と眠る禿》1760年代後半。館の記録では、多色刷りの木版画、空摺りを併用。全体28.1×20.1センチ。番号は1985.309。クリーヴランド美術館蔵。鈴木春信《遊女と眠る禿》クリーヴランド美術館蔵

空摺りは、色を使わない技法である。

版に絵具を付けず、紙を強く押す。

すると、紙の繊維が凹み、その部分だけ厚みが変わる。

光を斜めから当てると、影が出て模様が見える。

正面から見ると、ほとんど分からない。

館の画像でも、白い衣の部分に薄い陰が出ている。

色を増やさずに、情報を足す方法である。

縦長の版画である。

右側に、屏風のような仕切りがある。

その手前に、白い衣の女が立つ。

裾から素足がのぞく。

帯は、体の前で結ばれている。

左下に、もう一人いる。

こちらは床に伏せて眠っている。

膝を折り、上半身を倒す。

顔は横を向き、目を閉じる。

衣には格子の模様がある。

帯は、背中で結ばれている。

左上には、梅の枝が伸びる。

赤い寝具が、右下に広がる。

館の記録は、帯の結び方の違いを説明している。

立つ女は前で結び、伏せる少女は後ろで結ぶ。

それが習わしだったという。

そして館は、空摺りについても書く。

版を彫らずに紙を押し、布の襞を浮き上がらせる技法である。

色を使わずに、形だけを紙に出す。

これは館の説明である。

こちらで確かめられるのは、白い衣の部分に凹凸がある、ということだ。

一枚の中に、眠る人と起きている人がいる。

眠る人は低く、起きている人は高い。

前の回で、跪くと頭の位置が下がると書いた。

跪く話で見たとおり、高さの差は関係を示す。

ここでも、同じことが起きている。

眠りを、黒から作る

眠り(ヴォラール画廊オリジナル版画集より)
オーギュスト・クロ《眠り(ジャン=ルネ・カリエール)》1897年。館の記録では、リトグラフ。画面34×42.7センチ。紙全体41×52.5センチ。番号は1954.334。クリーヴランド美術館蔵。オーギュスト・クロ《眠り(ヴォラール画廊オリジナル版画集より)》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、この一点を版画集の一枚とする。

十九世紀の終わりに、画商が企画した集である。

複数の作者の版画が、一冊にまとめられた。

そして、この一点の作者の欄には、刷った人の名がある。

もとの絵を描いた人とは別である。

第十五回で、一点に何人が関わるかを扱った。

版画では、描く人と彫る人と刷る人が分かれることがある。

館の記録は、そのうち刷った人を作者の欄に置いている。

そして、描いた人の名は説明の中に出てくる。

どちらを作者とするかは、館の判断である。

画面のほとんどが、黒である。

その中に、白い形が浮かぶ。

子どもの顔と、髪と、腕らしいものである。

顔は横を向き、目を閉じる。

髪は長く、渦を巻くように広がる。

下のほうに、白い布らしいものがある。

輪郭は、どこにもはっきりしない。

明るい部分から暗い部分へ、少しずつ移る。

館の記録は、この作り方を説明している。

もとの絵を描いた人は、石の全面にインクを塗ったという。

そして、それを拭き取り、削って明るい部分を作る。

暗いところから明るいところへ向かう手順である。

ふつうの版画は、その逆になる。

白い紙に、黒い線を足していく。

これは館の記述である。

こちらで確かめられるのは、線が一本もない、ということだ。

眠りを描くのに、この方法は合っている。

眠っている人の輪郭は、はっきりしなくてよい。

目を閉じていれば、顔の細部も要らない。

九点のうち、輪郭を持たないのはこの一点だけである。

眠るのは、人だけではない

梅の枝に眠る鳥
辺文進《梅の枝に眠る鳥》15世紀。館の記録では、画帖の一葉。絹に墨。全体24.3×21センチ。番号は1967.249。クリーヴランド美術館蔵。辺文進《梅の枝に眠る鳥》クリーヴランド美術館蔵

画帖の一葉である。

もとは、何枚かがまとめて冊子に貼られていた。

いまは、一葉が一点として数えられる。

第十七回で、束から離れた一枚の扱いを書いた。

館の記録には、もとの冊子についての記述がない。

何枚あったかも、いつ離れたかも分からない。

絹に墨だけで描かれている。

絹は褐色に変わっている。

右上から、細い枝が斜めに下りる。

枝には、小さな花がいくつか付く。

その枝の途中に、鳥が一羽とまる。

体を丸め、頭を胸に埋める。

目は見えない。

尾が下へ伸びる。

左上に、赤い印が一つある。

墨は薄く、絹の地に沈む。

背景は何も描かれていない。

第十九回で、鳥の居場所を数えた。

鳥の話では、枝と空と地面と装飾の面が居場所だった。

ここでは、枝の上である。

そして、眠っている。

鳥が眠るとき、体は丸くなる。

首を縮め、羽を膨らませる。

その形が、そのまま描かれている。

人の眠りと違い、横たわらない。

とまったまま眠る。

つまり、眠ることと横たわることは、同じではない。

九点のうち、眠っているが横たわっていないのは、この一点だけである。