目が合う肖像と、合わない肖像——ハンネマン・ブロンズィーノ・モディリアーニほか九点
九点とも、館の記録が肖像と呼ぶ作品である。だが、こちらと目が合うのは五点しかない。肖像とは、見返す絵のことではないらしい。九点で、視線の向きを数えたい。写真も一点混じる。白目と光の点の有無も見る。大きさは九センチから九十一センチまで散らばる。

目が、合ってしまう
暗い背景の前に、女が立っている。
黒い衣を着ている。
肩から胸にかけて、白い襟が広く開く。
首には真珠が一連。
胸元に、黒い飾りが留めてある。
髪は左右で巻き上げられ、そこにも飾りが光る。
右手は、胸の下あたりで何かを軽く握っている。
そして、顔がこちらを向いている。
体はやや斜めなのに、目だけがまっすぐ向く。
見ているというより、見返されている感じがする。

館の記録は、寸法を80×63.5センチとする。
半身より少し広い範囲が入る大きさである。
出所の行には、十九世紀の収集家の名がある。
その人の集めた一括が、1889年に館へ入った。
つまり、この絵は百四十年ほど前から館にある。
描かれてからは、三百七十年が経つ。
その間、誰の家にあったかは記録にない。
前の回で、横顔を九点並べた。
横顔の話では、視線は必ず画面の外へ抜けていた。
横顔である以上、目は合わない。
今回は、その逆を扱う。
こちらを見る顔である。
ところが、九点を並べてみて分かったことがある。
題が「肖像」であっても、目が合うとはかぎらない。
九点はすべて、館の記録が「肖像」と呼ぶ作品である。
そのうち、目が合うのは五点だった。
残り四点は、合わない。
肖像とは、こちらを見る絵のことではないらしい。
見返す顔は、どう作られているか
もう一点、はっきり目が合う例を置きたい。

館の記録は、寸法を二通り書いている。
板そのものが60×48.8センチ。
額を含めると81.6×68.5センチ、厚みが6.7センチである。
額のぶんで、縦横それぞれ二十センチ増える。
来歴の欄も長い。
十九世紀の終わりに、ドイツの都市の団体が持っていた。
そのあと、同じ都市の個人の手を二度渡る。
そして館に入った。
出所の行が長い作品は、たいてい高い評価を受けてきた作品である。
紫がかった灰色の背景に、女が半身で描かれている。
黒い衣に、白い麻の襟。
襟には細かい刺繍があり、縁にレースが付く。
首から金の鎖が二重に下がる。
左手は胸に当てられ、指が開いている。
右手に、小さな本のようなものを持つ。
顔はわずかに斜めを向く。
だが、目はまっすぐこちらへ来る。
館の記録によれば、この人物が誰かは確定していない。
宮廷に近い立場の人だろう、という書き方をしている。
そして館は、胸に当てた手の型についても書いている。
指を開いて胸に当てる姿勢は、古い時代からある慎みの型だという。
これは館の見解である。
こちらで確かめられるのは、手がそう置かれている、という事実までだ。
背景には、何も描かれていない。
家具も、窓も、風景もない。
顔と衣と手だけが、暗い面から浮かぶ。
前の回で、横顔は背景を必要としないと書いた。
正面を向く肖像も、事情は同じらしい。
見返す目が強ければ、後ろに何もなくてよい。
手のひらに載る肖像
九点のうち、いちばん小さいものを見たい。

この種の小さな肖像には、決まった使い道があった。
身につけて持ち歩くための品である。
離れて暮らす家族や、亡くなった人の顔を、手元に置く。
そういう用途が知られている。
ただし、この一点について、館の記録は用途を書いていない。
書いてあるのは、素材と寸法と、受け入れの年だけである。
だから、誰が誰のために作らせたかは分からない。
分かるのは、吊るす環が付いている、ということまでだ。
縦9.2センチ、横7.3センチである。
名刺より少し大きいくらいだ。
楕円の画面が、金色の枠に収められている。
枠の上に、吊るすための環が付いている。
首から下げるか、鎖に通して持ち歩いた品だと考えられる。
描かれているのは、白い衣の若い女である。
胸の下に青い帯を締め、赤い布を肩に掛ける。
巻き毛が顔の左右で膨らむ。
背景は、水色の空と白い雲である。
そして、目はこちらを見ている。
この大きさで、目が合うようにしてある。
支持体は布ではない。
館の記録では、ブリキ板に油彩と書かれている。
薄い金属の板である。
細密画は、象牙に描かれることが多い。
金属の板もまた、細かい筆を受け止められる。
紙や布のように、繊維の目が出ないからである。
九点でいちばん大きいものは、縦91.4センチだった。
いちばん小さいものは9.2センチである。
十倍の差がある。
同じ「肖像」という語が、この幅を覆っている。
目が合わない肖像
ここから、視線が外れる四点を並べたい。

この画家は、クリーヴランドで働いた人である。
館の分類も、地元の画家をまとめる欄に入っている。
館は、その土地の画家の作品をまとめて持つことがある。
そこには、地元の家から入った絵が多く含まれる。
この一点も、その一つである。
白いレースの帽子をかぶった老女である。
顎の下で、白い布を結んでいる。
黒い衣を着る。
背景は暗い茶色で、何も描かれていない。
顔は斜めを向く。
そして目は、こちらではなく左下へ向く。
見られていることを、意識していない目つきである。
館の記録によれば、この人は画家の母だという。
そして、この絵を館に贈ったのは、画家の孫娘である。
家の中に残っていた絵が、孫の代で館に入った。
出所の行は、それだけを書いている。
母の名は、題の括弧の中に入っている。