高さは、上下に積んで示す——掛軸・版画・欧州絵画ほか九点の縦構図
縦長の画面では、上へ積むしかない。山、木、塔、滝。そのどれもが、下から上へ重ねられる。九点で、高さを見せる方法を数えたい。掛軸の記録は、画面と表装で二つの寸法を持つ。上に行くほど、描き込みが減っていく。

見ている人は、どこに立っているか
絵には、見ている人が描かれない。
しかし、どこから見ているかは分かる。
地面と同じ高さか。
丘の上か。
室内か。
その位置は、構図に必ず残る。
水平線の高さ、ものの重なり方、床や地面の見え方。
その三つから読める。
今回は、九点でその読み方を確かめたい。
高いところから見た絵と、低いところから見た絵。
同じ主題でも、まるで違うものになる。

第二十六回で読んだ写生帖の、別の一枚である。
線がきわめて少ない。
紙の上のほうに、山の稜線が横に走る。
なだらかに上下し、右へ低くなっていく。
その下に、水平の線が二本。
さらに下にも、薄い線が一本。
そして、紙の下三分の一は、完全に白い。
右下に、手書きの文字。
地名らしい。
三つの手がかり
視点の高さを読むとき、手がかりは三つある。
一つ目は、水平線の高さである。
画面の上のほうにあれば、見ている人は高い。
下のほうにあれば、低い。
二つ目は、ものの重なり方である。
高いところから見れば、手前のものの向こうが見える。
低いところから見れば、手前のものが後ろを隠す。
三つ目は、面の見え方である。
高いところから見れば、屋根や机の天板が見える。
低いところから見れば、壁や側面しか見えない。
この三つを確かめれば、たいていの絵で視点の高さが分かる。
そして、三つが食い違うこともある。
その場合は、描いた人が視点を一つに決めていない。
九点のうち一点が、まさにそうである。
順に見ていきたい。
写生と、構成の違い
視点の高さを読むとき、注意しておきたいことがある。
その絵が、実際に見て描かれたものかどうかである。
写生であれば、視点は一つに決まっている。
描いた人が立っていた場所である。
一方、室内で組み立てた絵では、視点は選ばれたものである。
実際には立てない位置から描くこともできる。
九点のうち、写生帖の三点は現地で描かれている。
日付と地名が書き込まれているからである。
油彩の四点は、屋外で始めて室内で仕上げたか、最初から室内で作られたかのどちらかだろう。
版画と掛軸は、明らかに室内で組み立てられている。
版画には、下絵を彫って刷る工程がある。
その途中で、構図はいくらでも整えられる。
つまり、視点の高さは、実際に見た高さとは限らない。
見せたい高さである。
水平線が高いと、下から見ている
この一枚では、水平線が紙の上から三分の一のあたりにある。
比較的高い。
そして、その下が広く空いている。
海である。
水平線が高い位置にあるということは、見ている人が低い場所にいるということである。
海面に近い高さから、対岸を見ている。
もし高い丘に登れば、水平線はもっと上へ行く。
海の面積が広がる。
さらに登れば、見下ろす角度になる。
つまり、水平線の高さは、見ている人の目の高さそのものである。
これは、写生の場合には確実に信用できる。
その場で見て描いているからである。

第十七回で読んだ写生帖の、別の頁である。
画像には、開いた帳面が写っている。
見開きの二頁である。
中央に綴じ目が縦に走る。
左の頁は、ほとんど白い。
右の頁に、薄い線が横に伸びる。
遠い山の稜線である。
細かい上下があり、樹木らしい点が並ぶ。
その下に、手書きの文字が二行。
地名と、日付である。
そして、この頁も、下半分が空いている。
頂上から見ると、線が細くなる
題に、山の頂上、とある。
つまり、高いところから描いている。
そして、そこから見えたものは、遠い稜線だけだった。
高いところに登ると、手前のものが視界から消える。
足もとの木も、坂も、下に隠れる。
残るのは、遠くの山と空である。
だから、線が少なくなる。
低いところから見れば、手前に草や木や石が入る。
情報が増える。
高さは、見える情報の量を変える。
この頁が白いのは、描き足りないからではない。
高いところでは、描くものが少ないからである。
見下ろす角度

横長の画面である。
手前に、乾いた土の斜面。
石が転がり、低い草が生える。
右手前に、石造りの構造物。
崩れた壁と、四角い開口。
その左に、椰子の木が一本。
幹が細長く、上で葉が広がる。
斜面の向こうに、町が広がる。
低い建物が密に並ぶ。
塔や尖塔が数本立つ。
そのさらに向こうに、海。
水平線は、画面の上から三分の一のあたり。
空は淡く、上へ行くほど青みが増す。
手前が下がると、見下ろしになる
この一点では、手前の地面が下へ向かって傾いている。
そして、その向こうに町が見える。
つまり、見ている人は町より高い場所にいる。
丘の上から見下ろしている。
見下ろすと、町の屋根が見える。
正面から見れば、壁しか見えない。
屋根が見えるかどうかで、視点の高さが分かる。
そして、この絵では建物の重なりが読める。
手前の建物の向こうに、次の建物の上部が覗く。
これも、高いところから見ているからである。
同じ高さから見れば、手前の建物が後ろを隠してしまう。