鳥は、枝と空と面のどれかにいる——椿椿山・広重・ウテワールほか九点
鳥は小さく、そして飛ぶ。だから、枝の上、空のなか、地面の上、装飾の面という四つの居場所を持つ。九点で、その位置と数を読みたい。鳥のいない三点も、理由があって混じっている。翼を広げた姿が、装飾では最も多く選ばれる。

鳥は、どこに止まるか
前の回で、横を向いた馬を見た。
大きな動物は、真横から描かれた。
今回は鳥である。
鳥は小さい。
そして、飛ぶ。
だから、置かれる場所が馬とは違う。
枝の上、空のなか、地面の上。
九点を並べて、その位置を確かめたい。
そして、九点のうち三点には鳥がいない。
その三点も、あとで理由を書く。

掛軸である。
画面が一一〇・二掛ける四四・四センチ。
表装を含めると、高さが一九一・五センチになる。
第十七回で書いたとおり、掛軸の記録は二つの寸法を持つ。
館の写真には、表装も写っている。
淡い青の裂に、細かい模様がある。
上下に、濃い色の帯がある。
画面には、細い枝が立つ。
下から上へ、まっすぐ伸びる。
そして、途中で枝分かれする。
館の記録によれば、柳と芙蓉である。
柳の細い葉が、上のほうから垂れる。
芙蓉の花は、桃色である。
大きく開いたものが三つか四つ。
蕾もある。
そして、その枝に鳥がいる。
小さな鳥である。
体が丸く、尾が短い。
二羽か三羽いる。
一羽は枝の上に止まる。
もう一羽は、少し下にいる。
いずれも横を向いている。
つまり、前の回の馬と同じである。
小さい鳥ほど、横向きが要る。
正面からでは、輪郭が丸い塊になる。
横なら、嘴と尾と脚が見える。
右上に、字が並ぶ。
館の記録では、詩と落款である。
そして、赤い印が押されている。
空を渡る列

横長の版画である。
二二・四掛ける三四・六センチ。
画面の上部に、山がある。
青い山が二つ、重なる。
そして、空が朱色に染まる。
上のほうに、灰色の雲が横に伸びる。
その雲のあたりに、鳥がいる。
数えると、二十羽ほどいる。
いずれも小さい。
黒い点と線でできている。
そして、斜めに並んで飛んでいる。
館の記録の題によれば、これは雁である。
湖に降りる雁を、題にしている。
第九回で、こうした主題の組について書いた。
八つの景色を選び、それぞれに題をつける形式がある。
そのうちの一つが、降りる雁である。
画面の下半分には、湖がある。
水色である。
そこに、帆かけ舟が一艘。
帆が白く、大きい。
そして、小さな舟が数艘。
左には、岸と家が見える。
右下に、赤い丸がある。
版元の印だろう。
つまり、この一点の鳥は、空にいる。
そして、非常に小さい。
一羽ずつの形は読めない。
読めるのは、列の形だけである。
斜めに並ぶ点の連なり。
それが、渡る鳥を示している。
第十二回で、群れの描き方について書いた。
一羽を詳しく描くより、並べ方で見せる。
手のなかの鳥

刀の柄につける金具である。
目貫という。
第十八回で、刀装具について何度も書いた。
柄を握ったとき、掌に当たる位置にある。
滑り止めの役をする。
大きさは、三・八センチと二・九センチ。
重さは、一一・三グラムと八・五グラム。
つまり、指先ほどの品である。
そして、二つで一対になる。
館の写真では、上に一つ、下に一つ置かれている。
上のものは、鳥が二羽。
下のものは、鳥が三羽。
いずれも、体を丸めて伏せている。
首を縮め、脚が見えない。
背に、細かい斑の模様がある。
金色の地に、暗い斑である。
鶉のような鳥だろう。
つまり、この鳥は地面にいる。
飛んでもいないし、枝にもいない。
これは形の都合でもある。
目貫は、掌に当たる。
だから、突起があってはいけない。
翼を広げた鳥なら、角が立つ。
伏せた鳥なら、全体が丸くなる。
握っても痛くない。
第十八回で、刀装具の意匠と用途の関係について書いた。
見た目だけで意匠が決まるわけではない。
触れる部分は、触り心地が形を決める。
そして、鳥が三羽と二羽で数が違う。
対でありながら、同じではない。
刺繍の鳥

前の回でも、この形式を見た。
四七掛ける三六・二センチ。
館の記録によれば、作者は一八一三年の生まれである。
つまり、これを作ったとき十四歳ほどである。
館の写真には、額も写っている。
暗い色の枠である。
下に、番号を書いた札が置かれている。
第十五回で、記録の写真について書いた。
大きさや所蔵番号を、画面のなかに写し込むことがある。
布の上部には、文字が並ぶ。
大きな字が二行。
そして、その下に文章が数行ある。
館の記録は、これを聖句としている。
中ほどには、小さな図が散る。
木のような形。
花のような形。
そして、下のほうに大きな鳥がいる。
翼を広げている。
横を向き、頭が左である。
尾が扇のように開く。
つまり、飛ぶ姿である。
そして、輪郭が単純化されている。
刺繍は、糸で面を埋める技法である。
だから、細かい曲線が出しにくい。
第十六回で、この制約について書いた。
糸の目に合わせて、形を階段状にする。
その結果、鳥は紋章のような形になる。
自然の鳥には見えない。
だが、鳥だとは分かる。
輪郭の要点だけが残っているからである。