象牙には、上限がある——レンクハルト・プライマー・キッドほか九点
一本の牙より大きなものは作れない。象牙の九点を数えると、十人以上の人物が幅16.5センチに詰め込まれ、残る三点では象牙は物ではなく、焼き物の素地と紙と鳥の嘴の色の名になっていた。材料の寸法が絵の構成まで決めている記録である。

一本の牙から、十人以上が彫り出されている
縦長の彫刻である。
全体は44.8×16.5×12.1センチある。
幅は16.5センチしかない。
牙一本の太さに収まっている。
中央に、十字架が立つ。
十字架は白い横木と縦木でできる。
その上に、人物が掛かる。
体は細く、腕が上へ引かれる。
頭は右へ垂れる。
十字架の下に、人が群がる。
数えると、十人を超える。
上のほうの人物は、梯子に登る。
登った人は、体を支える。
中ほどの人物は、両腕を広げる。
下の人物は、膝をつく。
一人は、顔を手で覆う。
もう一人は、上を見上げる。
顔の表情が、一人ずつ違う。
衣の襞は、深く彫り込まれる。
腕と体のあいだには、隙間がある。
隙間の奥まで、彫り抜かれている。
台の近くには、小さな道具がある。
材料の色は、淡い黄白である。
ところどころ、褐色に変わる。

館の記録では、これは一本の象牙から彫られている。
ある公のために作られたという。
そして館は、こう書いている。
完成までに七年かかった。
作者の知られる最後の彫刻であり、その仕事の頂点である。
聖書の記述は一致しないので、人物を正確に特定するのは難しい。
数人の名は挙げられているが、ほかにも弟子たちが嘆いているに違いないという。
館の記録は、そう説明している。
さらに館は、割れないように気を配って彫ったと書いている。
象牙は乾くと縦に割れる。
彫り抜くほど、割れやすくなる。
七年という時間の多くは、慎重さのためだったらしい。
そして館は、台の近くに小さな道具が彫り込まれているとも書いている。
象牙は、九つの場所に現れる
この一つを出発点に、象牙にまつわる九点を数えていく。
象牙は、大きな獣の牙である。
内部まで詰まっていて、木目のような筋がある。
木より緻密で、石より柔らかい。
だから、細かく彫れる。
そして磨けば、なめらかに光る。
しかし、大きさに限りがある。
一本の牙より大きなものは作れない。
先に言ってしまうと、九点のうち、象牙でできているのは五点である。
一点では、象牙は道具の部品である。
三点では、象牙は色の名前である。
つまり三分の一で、象牙は物ではない。
色の名としての象牙は、白よりわずかに黄を帯びる。
紙にも、焼き物にも、鳥の嘴にも使われる。
実物を見たことがなくても、その色は伝わる。
円筒に、使徒が並ぶ
二点目は、小さな箱である。

円筒形の箱である。
全体は25.5×17.5センチある。
高さより、直径のほうが小さい。
側面いっぱいに、人物が並ぶ。
人物は、背の高い椅子に座る。
椅子には、座布団がある。
数えると、十人以上いる。
一人ずつ、衣の襞が違う。
顔は正面を向く。
手は、胸の前で組むか、物を持つ。
人物と人物のあいだに、隙間はない。
帯のように、ぐるりと続く。
上の縁は、細くすぼまる。
下の縁には、細い輪がある。
側面には、小さな穴がいくつかある。
蓋を留めるための穴らしい。
色は、黄白から褐色まで変わる。
上のほうが淡く、下のほうが濃い。
置かれていた場所の差らしい。
館の記録では、この箱は世界の支配者としてのキリストと、使徒たちと、聖母を、途切れない帯として表している。
すぼまった口は、いまはない蓋と噛み合うためのものだったという。
そして館は、様式から見て、ある工房の作と考えられると書いている。
その工房は、ある都で活動していた象牙彫りの職人たちである。
さらに館は、こう付け加えている。
これは、この時代から残る唯一知られたピュクシスであるという。
館の記録は、そう説明している。
つまり比較する相手がない。
一点しかないものは、年代を様式でしか決められない。
館の記録の年も、三十年の幅がある。
工房の活動期間と、ほぼ重なる。
つまり年は、工房から逆算されている。
牙の曲がりに、体を合わせる
三点目は、立像である。

小さな立像である。
高さ17.1センチ、幅8.6センチしかない。
人物は正面を向いて立つ。
頭には、高い冠がある。
冠には、細かい飾りが並ぶ。
顔は丸く、目は細い。
耳には、大きな輪が下がる。
首には、幾重にも首飾りが掛かる。
上半身は裸である。
腕は左右に開き、肘で曲がる。
手のひらは、前を向く。
腰から下には、布が巻かれる。
布には、細かい線の襞がある。
足は、蓮の台に乗る。
台は、岩のような形をしている。
材料の色は、上のほうが淡い。
下のほうは、褐色が濃い。
台のあたりは、ほとんど茶色である。
磨かれた部分だけが、光を返す。
館の記録は、題と材料と寸法しか書いていない。
作者は、ある宗派の指導者である。
つまり彫刻を専門とする職人ではない。
材料は、象牙の一語である。
色の濃淡は、牙のどの部分を使ったかで決まる。
外側は白く、中心に近いほど色が濃い。
九点のうち、色の差がはっきり見えるのは、この一点である。
牙は、円錐の形をしている。
まっすぐな材料ではない。
立像を彫るには、その曲がりに体を合わせる。
だから、姿勢が牙の形に従うことがある。
薄く削って、絵の地にする
四点目では、象牙は絵の地になる。