画家を知る

四センチの象牙に、四十年——ジェームズ・ピール

色のない三枚

四点目から、画像の性格が変わる。

ジョナサン・トランブル
ジェームズ・ピール《ジョナサン・トランブル》1792年ごろ。水彩、象牙。額の内側で縦5.1センチ、横4.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。フレッチャー基金による購入、1938年。この作品は、ほとんど色のない古い記録写真で公開されている。ジェームズ・ピール《ジョナサン・トランブル》メトロポリタン美術館蔵

灰色の階調だけの画像である。

そして、背景が灰青色の余白。

つまり、古い記録写真とみられる。

灰青色の余白

画像の周囲を見たい。

平らな灰青色である。

つまり、撮影の台紙だろう。

作品の一部ではない。

同じ館の他の細密画にも、同じ余白がある。

色が、分からない

この一枚の色は、分からない。

上着が何色か、背景が何色か。

だから、当サイトも色を語らない。

「額の内側」という寸法

寸法の記録に、注目したい。

額の内側で測った寸法とある。

つまり、見える範囲の寸法である。

象牙の板そのものの寸法ではない。

五センチの画面

寸法は、額の内側で5.1センチ掛ける4.1センチ。

つまり、一点目とほぼ同じ大きさである。

細密画の標準的な寸法だろう。

測れるものを、測る

額に嵌まった細密画は、外せない。

外せば、傷める恐れがある。

だから、見える範囲を測る。

館の記録は、その事情を隠さない。

撮影の時期

この写真は、いつ撮られたのか。

館の記録に、記載はない。

しかし、白黒であること、台紙の形式から、古い撮影とみられる。

そして、いまも公開画像として使われている。

撮り直されない理由

なぜ、撮り直されないのか。

細密画は小さく、展示の機会が少ない。

そして、館の収蔵品は膨大である。

撮影の順番には、優先がある。

当サイトでも、繰り返しこの点に触れてきた。

明暗で、読む

色がなくても、分かることはある。

髪の形、上着の襟、首元の白い布。

そして、明暗の配置。

つまり、構図は読める。

ベンジャミン・リンカーン
ジェームズ・ピール《ベンジャミン・リンカーン》1794年。水彩、象牙。縦4.8センチ、横3.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。J・ウィリアム・ミデンドルフ二世の寄贈、1968年。この作品も、ほとんど色のない古い記録写真で公開されている。ジェームズ・ピール《ベンジャミン・リンカーン》メトロポリタン美術館蔵

楕円という形

画面の形を見たい。

楕円である。

九点のうち、細密画六枚はすべて楕円である。

つまり、決まった形式がある。

顔の形に近く、身に着けるのに収まりがよい。

軍装らしき衣

五点目も、色のない画像である。

暗い上着に、明るい胴衣。

そして、肩に飾りらしきものがある。

つまり、軍装だろう。

もっとも、色が分からないので断定はしない。

髪の白さ

髪を見たい。

白く、側面が膨らむ。

つまり、粉を打っているか、鬘だろう。

十八世紀末の男性の装いである。

背景の階調

背景を見たい。

上部が明るく、下部が暗い。

つまり、平らではない。

わずかな階調が付けられている。

白黒でも、その変化は読める。

釦の並び

胴衣に、丸い釦が並ぶ。

そして、明るく光る。

金属だろう。

白黒でも、光沢は分かる。

白い襟

首元の布を見たい。

大きく膨らむ。

一点目の襟と、形が近い。

つまり、同じ時期の装いである。

二枚の来歴

四点目と五点目の館への入り方は違う。

一方が一九三八年の購入、他方が一九六八年の寄贈。

つまり、三十年の差がある。

同じ画家の作品が、少しずつ集まる。

五点の細密画

ここまでで、細密画を四枚見た。

寸法は、4.4センチから7.5センチ。

そして、いずれも楕円である。

つまり、形式が揃っている。

一七九四年という年

制作年は、一七九四年である。

四点目の一七九二年ごろと、近い。

つまり、同じ時期の二枚である。

マーサ・スチュワート・ウィルソン
ジェームズ・ピール《マーサ・スチュワート・ウィルソン》1814年。油彩、カンヴァス。縦72.3センチ、横61センチ。メトロポリタン美術館蔵。ウィリアム・L・マッキム夫妻の寄贈、1972年。この作品も、ほとんど色のない古い記録写真で公開されている。ジェームズ・ピール《マーサ・スチュワート・ウィルソン》メトロポリタン美術館蔵

三枚目の油彩

九点のうち、油彩は三枚である。

三点目、六点目、そして九点目。

つまり、細密画のほうが多い。

館の収蔵の偏りでもあるだろう。

大きな絵も、白黒で

六点目は、油彩である。

そして、寸法も大きい。

にもかかわらず、色のない画像である。

つまり、大きさと画像の質は関係しない。

大きさの記録

寸法を見たい。

縦72.3センチ、横61センチである。

つまり、規格に近い。

肖像の標準的な寸法である。

頬杖をつく

描かれた人物を見たい。

女性が、卓に肘を置く。

そして、手を頬に当てる。

つまり、頬杖をついている。

肖像としては、くつろいだ姿勢である。

暗い衣

衣を見たい。

暗く、光沢が少ない。

そして、袖が膨らむ。

十九世紀初めの装いだろう。

被り物の模様

頭から、大きな布がかかる。

そして、その布に模様がある。

花か、葉の形だろう。

細かい線で描かれている。

卓という支え

肘を置く卓を見たい。

水平の面がある。

そして、その上に腕が乗る。

つまり、姿勢を支える道具である。

肖像で、よく使われる。

右下の珠

画面の右下を見たい。

丸い珠が、連なっている。

そして、白く光る。

装身具だろう。

白黒で見る油彩

色のない油彩の画像には、独特の見え方がある。

明暗だけが残るからである。

つまり、構図と陰影がよく見える。

色に気を取られない。

もっとも、失われるものも大きい。

何が失われるか

色が分からないと、何が分からないか。

まず、衣の色である。

次に、肌の色と、背景の色。

そして、画家がどう色を組んだかが分からない。

肖像では、これが大きい。

一八一四年という年

制作年は、一八一四年である。

九点の中では、後半にあたる。

そして、二点目の一八一二年と近い。