画家を知る

四センチの象牙に、四十年——ジェームズ・ピール

硝子越しの二枚

七点目と八点目の画像には、共通点がある。

ジョゼフ・クーパー夫人(メアリー・ジャスティス)
ジェームズ・ピール《ジョゼフ・クーパー夫人(メアリー・ジャスティス)》1797年。水彩、象牙。縦7.3センチ、横5.8センチ。メトロポリタン美術館蔵。グロリア・マニーの寄贈、2006年。この作品も、ほとんど色のない古い記録写真で公開されている。ジェームズ・ピール《ジョゼフ・クーパー夫人(メアリー・ジャスティス)》メトロポリタン美術館蔵

灰色の階調だけの画像である。

そして、楕円の絵が、丸い覆いの中にある。

上部に、吊るすための金具。

つまり、覆いごと撮影されている。

覆いという保護

細密画には、硝子の覆いが付くことが多い。

表面が傷つきやすいためである。

そして、湿気からも守る。

その覆いごと、撮影されている。

覆いの反射

画像の縁を見たい。

明るい弧が、いくつも走る。

つまり、覆いの表面が光を反射している。

撮影の条件が、そのまま残っている。

吊るす金具

上部の金具を見たい。

輪の形をしている。

つまり、紐を通して吊るす。

身に着けるための仕立てである。

白い被り物

描かれた人物を見たい。

女性が、白い被り物をかぶる。

そして、縁に細かい襞がある。

胸元に、黒い縁飾りが重なる。

縁飾りの黒

胸元の飾りを見たい。

暗く、細かい。

そして、白い衣の上に置かれる。

明暗の差が、大きい。

白黒の画像でも、その差はよく分かる。

ビューラ・エルミー・トワイニング(トーバート夫人)
ジェームズ・ピール《ビューラ・エルミー・トワイニング(トーバート夫人)》1811年。水彩、象牙。縦7センチ、横5.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。ライラ・アチソン・ウォレスの寄付による購入、2006年。この作品も、ほとんど色のない古い記録写真で公開されている。ジェームズ・ピール《ビューラ・エルミー・トワイニング(トーバート夫人)》メトロポリタン美術館蔵

二枚の寸法

七点目が7.3センチ掛ける5.8センチ。

八点目が7センチ掛ける5.7センチ。

つまり、ほぼ同じである。

同じ規格の象牙板だろう。

もう一枚の、覆い越し

八点目も、覆いごと撮影されている。

そして、七点目と同じ形式である。

つまり、同じ時期に撮られたのだろう。

顔の向き

顔を見たい。

わずかに右を向く。

そして、視線はこちらへ来る。

つまり、正面よりやわらかい角度である。

細密画では、この角度が多い。

肩の布

描かれた人物を見たい。

白い被り物をかぶる。

そして、肩から大きな布が掛かる。

胸元で、その布が合わされる。

七点目との違い

七点目と八点目を比べたい。

いずれも、白い被り物の女性である。

そして、寸法もほぼ同じ。

しかし、装いの細かさが違う。

七点目は縁飾りが多く、八点目は簡素である。

同じ年に、館へ入る

来歴を見たい。

一点目、七点目、八点目は、いずれも二〇〇六年である。

つまり、同じ年に館へ入っている。

もっとも、寄贈者と資金は異なる。

中国輸出磁器の籠のある果物の静物
ジェームズ・ピール《中国輸出磁器の籠のある果物の静物》1824年。油彩、板。縦37.8センチ、横45.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジェームズ・ピール《中国輸出磁器の籠のある果物の静物》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

肖像ではない一枚

九点目は、人物がいない。

卓の上に、白い籠が置かれる。

そして、その中に果実が盛られる。

赤と黄の林檎、そして葡萄。

籠の脇にも、果実と葡萄が転がる。

背景は、暗い。

卓の面

卓を見たい。

木の板で、木目が見える。

そして、手前の縁が水平に走る。

つまり、視線の高さが卓とほぼ同じである。

見下ろしてはいない。

白い籠

籠を見たい。

白く、側面に透かしの模様がある。

つまり、磁器である。

題にも、輸出磁器とある。

輸出という言葉

題の言葉に注目したい。

中国から輸出された磁器、という意味である。

つまり、海を越えて運ばれた品である。

十九世紀の北米には、そうした器があった。

影の位置

果実の影を見たい。

いずれも、右下に落ちる。

つまり、光は左上から来ている。

画面全体で、光の向きが揃っている。

果実の描き方

果実を見たい。

林檎の表面に、光の点がある。

そして、葡萄の粒それぞれにも光がある。

つまり、丸い面の反射を描いている。

葉の縁

葡萄の葉を見たい。

縁が、わずかに枯れている。

そして、色がくすむ。

つまり、完全な状態ではない。

そのままを描いている。

板と、画布

板と画布の違いに触れたい。

板は硬く、表面が平らである。

そして、細かい描写に向く。

小さな静物には、板が使われることがある。

板に描く

技法欄を見たい。

油彩、板とある。

つまり、支持体が板である。

九点のうち、これだけが板である。

一八二四年という年

制作年は、一八二四年である。

九点の中で、最も遅い。

そして、最も早い三点目とは四十二年の差がある。

静物という分野

果実や器を描く絵を、静物と呼ぶ。

人物も、物語もない。

つまり、形と色と光だけの絵である。

肖像とは、まったく違う仕事である。

二つの分野

九点をまとめたい。

肖像が八枚、静物が一枚。

そして、肖像のうち六枚が細密画である。

つまり、細密画が仕事の中心だった。

寸法の落差

寸法を並べたい。

最小が4.4センチ、最大が91.4センチ。

つまり、二十倍以上の差がある。

同じ画家が、両方を手がけている。

用途の違い

大きな絵は、壁に掛ける。

そして、家に来た人が見る。

小さな絵は、身に着ける。

そして、持ち主だけが見る。

つまり、公と私の違いである。

色のない五枚

画像についても、まとめておきたい。

九点のうち、五点が色のない記録写真である。

そして、四点は色のある写真である。

つまり、半分以上が白黒である。

なぜ、白黒が多いか

理由は、撮影の時期だろう。

細密画は小さく、展示の機会も少ない。

だから、撮り直しの順番が後になる。

古い写真が、そのまま使われている。

それでも、公開されている

もっとも、公開されているだけでも意味がある。

色は失われても、姿は伝わる。

そして、寸法と年代は記録されている。

見えないよりは、白黒でも見えるほうがよい。

一族という背景

作者の姓は、同時代の複数の画家と共通する。

そして、二点目の題にも同じ姓がある。

つまり、絵を描く家族があったのだろう。

館の記録は、関係を明示していない。

だから、当サイトも断定しない。

四十二年の仕事

最後に、年代を並べたい。

一七八二年ごろ、八九年、九二年ごろ。

九四年、九七年、一八一一年、一二年。

一四年、そして二四年。

つまり、四十二年にわたる。

長く、細かく

細密画は、目を使う仕事である。

四センチの画面に、髪の一本を描く。

それを、四十年以上続ける。

九点は、その持続の記録でもある。

そして、最後に静物へ移った。

小さな顔から、果実の光沢へ。

見るものは変わっても、細部を追う手つきは同じである。

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