跪くには、相手が要る——サセッタ・エル・グレコ・ギュンターほか九点

鍍金というのは、金属の表面に金を薄く着ける処理である。
水銀に金を溶かして塗り、熱で水銀を飛ばす方法が古くから使われた。
その結果、下地の銅の上に金の層が残る。
長く手で触れられた部分は、金が薄くなる。
この一点でも、衣の高いところが黒ずんでいる。
表面の減り方が、扱われ方を示している。
小さな金属の像である。
高さ13.8センチ。
人物が、片膝をついている。
厚い衣が、体を包む。
衣の襞が、太い線となって流れる。
頭に、布を巻いたような被り物をつける。
髭が長い。
胸の前で、両手が何かを持つ。
丸い形のものである。
顔は横を向く。
表面は金色で、ところどころ黒ずむ。
館の記録によれば、これは大きな箱の一部である。
聖人の体を納めるための箱だという。
銀と金と宝石で作られていた。
そして、その箱のうち残っているのは、二つの断片だけらしい。
この像が、そのうちの一つである。
館は、1409年の契約書に三人の金工の名が残ると書く。
これは館の記述である。
つまり、この小さな像は、失われた大きな物の一部である。
跪く姿勢は、その箱の上か横に置かれる部品として作られた。
一人で立つための像ではない。
だから、片膝をついた形が選ばれている。
高さが抑えられ、箱の輪郭に収まる。

館の記録は、下地に石膏を使ったと書いている。
木を彫ったあと、石膏を薄く塗る。
木目が消え、表面がなめらかになる。
その上に色を塗る。
木彫の像には、この作りが多い。
いま色が見えないのは、後の時代に落とされたためかもしれない。
館の記録は、その事情には触れていない。
書かれているのは、もとは彩色されていた、ということだけである。
木を彫った像である。
高さ83.5センチ。
人物が、片膝をついている。
体は大きくねじれる。
腰から上が、横へ強く回る。
顔は反対側を向く。
衣が、体のまわりで大きく波打つ。
襞の山が高く、谷が深い。
表面は、白っぽい地肌が出ている。
館の記録によれば、もとは翼が付いていたという。
そして、表面には色が塗られていたと書かれる。
対になるもう一体が、別の館にあるらしい。
二体で、中央の何かを挟むように置かれていた。
これは館の説明である。
こちらで確かめられるのは、いま翼がない、ということだ。
跪く姿勢が、置き場所から決まっている点は、先の一点と同じである。
左右から挟む位置に置くなら、体をねじる必要がある。
中央を向かなければならないからだ。
そのねじれが、この像の形を作っている。
跪きが、器の支えになる

黒っぽい金属の像である。
高さ23.4センチ。
人物が、片膝をついている。
脚には、獣の毛のような表現がある。
頭に、小さな角がある。
右手を高く上げ、手のひらを開く。
左手は、脇にある器の縁に添えられる。
その器は、円い筒の形をしている。
台は長方形で、四隅に丸い脚がつく。
台の上には、葉や小さな生き物の形がある。
館の記録によれば、この種の姿は古代からある。
そして、十六世紀には陽気な自然の象徴として使われたという。
これは館の説明である。
こちらで見えるのは、跪く姿と、隣の器である。
この像は、机の上に置く道具だと考えられる。
器にインクや砂を入れて使う品が、当時よく作られた。
跪く姿勢は、その器の高さに合わせるために選ばれている。
立っていては、器が低すぎる。
座っていては、腕が届かない。
片膝をついた高さが、ちょうどよい。
姿勢が、道具の寸法から決まっている。
部品として作られた像
九点のうち三点は、彫刻である。
そして、その三点はいずれも単体の作品ではなかった。
金属の像は、聖遺物箱の一部だった。
木彫の天使は、祭壇の左右に置かれる一対の片方だった。
ブロンズのサテュロスは、机の道具の一部である。
つまり、跪く像は、何かに付属して作られることが多い。
理由は、姿勢の性質にありそうだ。
跪くには、相手が要る。
像そのものが相手を含まないなら、外に相手を置くしかない。
箱の中の聖遺物、祭壇の中央、机の上の器。
そのどれかへ向かって、像は跪く。
だから、単体では意味が完結しない。
いま館にあるのは、その三点だけである。
相手は、失われたり、別の場所にあったりする。
聖遺物箱は、二つの断片を残して失われた。
対になる天使は、別の館にある。
サテュロスの器は、いまも像と一緒にある。
三点のうち、相手が残っているのは一点だけだ。
第十七回で、束や組から離れた一点を扱った。
跪く像は、その典型である。
離れると、向かう先を失う。
記録は、そのことを書いてくれる場合がある。
この三点では、いずれも書かれていた。
書かれていなければ、なぜ跪いているか分からなかっただろう。
相手のいない、低い姿勢
ここから三点は、跪きとは少し違う。
相手がいない。

薄い線だけの素描である。
紙の中央よりやや左に、人物が一人いる。
膝をつき、上半身を起こす。
顔は横を向く。
頭から布をかぶり、それが背中へ流れる。
腕は前へ出て、何かに置かれるように見える。
だが、そこには何も描かれていない。
背景も、床もない。
紙の右半分は、まったくの空白である。
館の記録は、番号に「表」と付けている。
裏にも何か描かれているという意味である。
第十七回で、表と裏に別の番号が付く例を扱った。
ここでは、同じ番号に表裏の区別が加えられている。
相手が描かれていないので、この人物が誰に向かって跪いているかは分からない。
姿勢だけが残っている。