美術史・技法

同じ図案が、青銅と鉄で作られる——ラファイエット侯の記念章

主題の重なりが、三件で起きる

九件のうち三件は、同じ人物を主題にする。

十八世紀から十九世紀にかけて、両大陸で知られた軍人である。

三件の年は、1824年、1830年、1830年。

いずれも、その人物の晩年にあたる。

生前に、複数の記念章が作られていた。

しかも、作者はそれぞれ違う。

三人が、それぞれ別の型を彫った。

つまり、需要があったということだ。

一人の人物を記念する章が、いくつも売られる。

前の回の記事で、同じ主題が繰り返される話を何度か書いた。

反復が起きるのは、求める人がいるからである。

裏面が、公開されない

九件の写真は、いずれも片面だけである。

表と裏があるはずなのに、一面しか写らない。

館の公開画像は、一件につき一枚が原則だ。

だから、裏は見られない。

しかし、作者が二人いる件では、裏も重要である。

二人目が彫ったのは、その裏だろうから。

記録は、二人の名を並べる。

画像は、一人分しか見せない。

数え方と、見せ方が食い違っている。

前の回の記事で、刀身と拵の写真について同じことを書いた。

両面や両側を持つものは、必ずこの問題を抱える。

イングラム艦長への記念章
セス・イーストマン、ジェームズ・バートン・ロングエーカー《イングラム艦長への記念章》1854年。館の記録では、青銅。直径10.2センチ。番号は83.2.377。メトロポリタン美術館蔵。セス・イーストマン《イングラム艦長への記念章》メトロポリタン美術館蔵

九件でいちばん大きい一件である。

直径は十センチある。

地は赤みの強い褐色で、なめらかだ。

中央に、帆船が二隻描かれる。

いずれも三本の帆柱を立てる。

帆はたたまれ、細い横木が並ぶ。

船体は横向きで、水面に浮かぶ。

左の船のほうが大きい。

水面には、細かい波の線が入る。

上部に、雲が浮かぶ。

下辺に、文字が三行にわたって刻まれる。

浮彫は浅く、影が薄い。

大きさが、五倍近く違う

九件の寸法を並べてみる。

いちばん小さいのが直径2.2センチ。

いちばん大きいのが直径10.2センチ。

四倍以上の差がある。

小さいものは、身に着けるためだろう。

大きいものは、飾るか、手に取って見る。

そして、大きいほうには文字が多い。

面積が広ければ、書ける量も増える。

小さいほうには、短い語が一つあるだけだ。

大きさが、伝えられる情報の量を決めている。

館の記録は、直径だけを書く。

しかし、その数字から中身の密度まで推測できる。

記念章
アンソニー・パケ《記念章》1859年。館の記録では、金属。直径2.2センチ。番号は83.2.42。メトロポリタン美術館蔵。アンソニー・パケ《記念章》メトロポリタン美術館蔵

九件でいちばん小さい一件である。

直径は二センチあまり。

地は青灰色で、くすんでいる。

中央に、男性の胸像が浮き出る。

顔は右を向く。

髪は短く、後ろで結ばれる。

首もとに、襟の折り返しが見える。

上部の縁に沿って、短い語が二つ並ぶ。

文字は小さく、輪郭が浅い。

地の面に、青みがかった変色が広がる。

縁は厚く、一段高く立つ。

技法の欄が、金属とだけ書かれる

いま見た一件の技法の欄には、金属とある。

種類が書かれていない。

九件のうち二件が、この形である。

ほかの七件は、青銅、鉄、銀、銅と特定されている。

なぜ、この二件だけ特定されないのか。

分析していないのだろう。

見ただけでは、合金の種類は分かりにくい。

前の回の記事で、技法の欄の粒度について何度も書いてきた。

分かるところまで書き、それ以上は書かない。

金属、という一語は、その姿勢の表れである。

不明と書くよりは、多くを伝えている。

文字が、円に沿って並ぶ

九件のうち八件に、文字が刻まれている。

そして、その並び方に共通の形がある。

円い縁に沿って、弧を描くように並ぶ。

文字の底が内側を向き、頭が外側を向く。

読むには、章を回さなければならない。

なぜ、この形になるのか。

円い面に、まっすぐ文字を並べると、余白が無駄になる。

縁に沿わせれば、いちばん長い行が取れる。

そして、中央を絵のために空けられる。

形が、文字の並び方を決めている。

館の記録には、銘記の欄がある作品も多い。

しかし九件では、いずれも銘記の欄が使われていない。

刻まれた語は、記録に写されていない。

写真を見て、読み取るしかない。

素材の名が、値段を示す

九件の技法の欄を、値段の順に並べ替えてみる。

金めっきの銀、金めっきの銅、青銅、鉄。

上へ行くほど高く、下へ行くほど安い。

同じ図案でも、材料で価格が変わる。

そして、材料によって残り方も変わる。

鉄は錆びる。

九件の鉄の二件は、いずれも表面に錆の斑がある。

青銅は錆びにくく、緑や褐色の膜を作る。

銀は変色するが、崩れない。

技法の欄の一語が、いまの状態まで示している。

前の回の記事で、材料の寿命が残り方を決める話を書いた。

記念章でも、同じことが起きている。

円くない一件

九件のうち一件は、寸法の欄の形が違う。

直径ではなく、縦と横で書かれている。

9.5センチと9.5センチ。

つまり、正方形である。

写真を見ると、事情が分かる。

円い章が、四角い枠に嵌め込まれている。

枠には、装飾が彫られている。

つまり、章そのものではなく、額装された状態だ。

館は、その全体を一件として測っている。

前の回の記事で、作品がどこまでかという問いを何度も見た。

ここでも、枠を含めて数えられている。

ワシントンの記念章
クラチェット《ワシントンの記念章》1800年から1883年。館の記録では、金めっきの銅。縦9.5センチ、横9.5センチ。番号は83.2.93。メトロポリタン美術館蔵。クラチェット《ワシントンの記念章》メトロポリタン美術館蔵

正方形の板である。

写真は白黒で写される。

中央に、円い章が嵌め込まれる。

章の面に、男性の横顔が浮き出る。

顔は右を向く。

髪は後ろで束ねられ、首筋に垂れる。

上着の襟が、二重に見える。

顔の周囲に、文字が弧を描く。

左右に、それぞれ数文字ずつ。

円の外は、四角い枠になる。

枠には、渦と葉の装飾が彫られる。

四隅に、丸い突起がある。