作品を知る

一本の木が、画面を支える——広重・米国風景画・掛軸ほか九点

木の形が、その土地を語る

この木は、ねじれている。

まっすぐ伸びていない。

これは、海に近い土地の木の形である。

強い風が一方向から吹くと、木はそちらへ傾く。

枝も、風下側に偏る。

つまり、木の形が土地の条件を示している。

前の二点の木は、丸く均整が取れていた。

風の弱い内陸の木である。

木を見れば、そこがどういう場所か分かる。

館の記録は、題に地名を書くだけである。

木の形が語ることは、画像から読むほかない。

ニピシング湖(写生帖より)
アルバート・ビアスタット《ニピシング湖(写生帖より)》1890年。館の記録では、簀の目のない紙に鉛筆。12.1×19.7センチ。番号は1995.379.4のa。メトロポリタン美術館蔵。アルバート・ビアスタット《ニピシング湖(写生帖より)》メトロポリタン美術館蔵

第一回から何度も読んできた写生帖の、また別の頁である。

紙の右半分に、木が数本描かれている。

いずれも葉がない。

細い幹がまっすぐ立ち、上で枝が細かく分かれる。

線がきわめて薄い。

左半分には、手書きの文字が数行。

人名と、地名と、日付らしい。

そして、紙の下端に、印刷された小さな札が貼られている。

そこにも文字が読める。

ある人の遺産から、という趣旨と、年月である。

紙に貼られた札

この札は、作品の一部ではない。

かつての所蔵者を示す標識である。

第十八回で、出所の行を三十回にわたって読んだ。

そこでは、館の帳簿に書かれた行を扱った。

こちらは、紙そのものに貼られた札である。

館に入る前の持ち主が、自分の蔵書票のように貼った。

そして、その札が画像に写り込んでいる。

第十八回で読んだ、器に書かれた番号と同じである。

記録は帳簿の外にも残る。

そして、この場合は作品と一体になっている。

剝がせば紙を傷める。

だから、そのまま残る。

紙の色を、使う

九点のうち二点で、紙に色が付いている。

淡い緑の紙と、淡黄色の紙である。

白い紙ではない。

これには理由がある。

鉛筆で描くと、線は灰色になる。

白い紙では、いちばん明るいのが紙の白である。

有色の紙では、紙の色が中間の明るさになる。

すると、鉛筆で暗いほうを描き、白い絵具で明るいほうを描ける。

明暗を両方向に作れる。

もっとも、この二点では白は使われていない。

紙の色が、そのまま中間調として働いている。

そして、木立の塊が暗く、空いた部分が紙の色のまま。

二段階の明るさで、絵が成立している。

第十七回で読んだ写生帖の頁も、灰緑色の紙が使われていた。

野外で描くとき、白い紙は日光を反射して眩しい。

色の付いた紙のほうが、目が疲れにくい。

実用の理由もある。

木が、飾りの枠になる

刺繍のサンプラー
アン・ファザカリー《刺繍のサンプラー》1824年。館の記録では、羊毛地に絹とシェニール糸の刺繍。45.1×37.5センチ。番号は1984.331.2。メトロポリタン美術館蔵。アン・ファザカリー《刺繍のサンプラー》メトロポリタン美術館蔵

布に刺繍したものである。

縦長で、四方に花の縁飾りが回る。

小さな花と葉が、連続して並ぶ。

その内側の上半分に、文字が刺繍されている。

四行の文である。

徳について述べた句らしい。

下半分に、絵がある。

中央に、木が一本。

幹が細く、上で枝が三方に広がる。

葉は、緑の房として表される。

その左に、人が一人立つ。

右に、赤い屋根の家。

窓と扉が描かれる。

そして、いちばん下に、作った人の名と年が刺繍されている。

木が、左右を分ける

この構成では、木が中央にある。

そして、その左に人、右に家がある。

木が、二つを分ける役目をしている。

前に見たスーラの絵では、木が左端にあった。

こちらは中央である。

中央に置くと、左右が対称に近くなる。

刺繍のような装飾では、対称のほうが据わりがよい。

そして、この木は実際の木ではない。

種類も分からない。

木という記号である。

家、人、木。

三つの記号を並べて、一つの情景を作っている。

第十八回で読んだ型紙絵と、性格が近い。

学ぶために作られたものである。

そして、作った人の名と年が入っている。

十三歳の年に作ったことになる。

三代目瀬川菊之丞の花魁
勝川春章《三代目瀬川菊之丞の花魁》1780年ごろ。館の記録では、錦絵、紙本着色。31.1×14.6センチ。番号はJP342。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《三代目瀬川菊之丞の花魁》メトロポリタン美術館蔵

縦長の版画である。

第一回でも、同じ画家の役者絵を読んだ。

中央に、一人の人物が立つ。

女の装いである。

衣は淡い色で、大きな文様が入る。

裾が床に長く広がる。

髪は結い上げられ、櫛と簪が挿さる。

そして、画面の左に、木の幹が立つ。

太く、灰色である。

上に、緑の葉が茂る。

松らしい。

その幹が、画面の上端まで伸びる。

右側には、格子の建具。

縦横の線が規則正しく並ぶ。

幹と格子が、両端を締める

この構図は、スーラの絵と似ている。

画面の端に、縦の線を立てる。

こちらは、左に幹、右に格子。

両側から締めている。

そして、中央に人物を置く。

木は、風景の一部としてではなく、枠として働いている。

役者絵では、背景をほとんど描かない。

第一回でそう書いた。

しかし、まったく何もないと、人物が浮く。

だから、両端に縦のものを置く。

木、柱、格子、垂れ幕。

いずれも、縦の線であればよい。

三囲神社の開帳
喜多川歌麿《三囲神社の開帳》1799年。館の記録では、木版画三枚続、紙本着色。39.1×25.1×25.4センチ。番号はJP149。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。喜多川歌麿《三囲神社の開帳》メトロポリタン美術館蔵

三枚続の版画である。

第十七回で、三枚続の形式を扱った。

三枚を並べて、一つの画面を作る。

この一点でも、継ぎ目が二本見える。

画面の上部に、桜の枝が横に伸びる。

白い花が、点々と付く。

枝は細く、画面の左端から右端まで続く。

その下に、女性が十人ほど並ぶ。

いずれも立ち姿である。

衣は黒、赤、白で、大きな文様が入る。

髪は結い上げられる。

中央に、四角い枠のようなものがある。

文字が書かれている。

奥に、板の塀と、小さな祠。