名画の楽しみ方

二挺で、一件と数える——対の拳銃と三通りの番号

対の拳銃は、二挺で一つの品として登録される。ところが番号の書き方は三通りに分かれ、寸法も各と書くか片方だけ書くかで揺れる。百年ぶんの記録の揺れを、九件の欄から読みたい。番号の枝が、付属品まで数える件もある。

火打石式拳銃一対
シャルル・フロマン《火打石式拳銃一対》メトロポリタン美術館蔵

二挺で一件、と数える

対になった銃を九件、記録の欄で並べてみる。

いずれも、二挺で一つの品として登録されている。

品名の欄にも、一対と書かれる。

ところが、番号の書き方が揃っていない。

三通りの形がある。

一つ目は、二つの番号を読点で並べる形。

二つ目は、番号の末尾に小文字を付ける形。

三つ目は、その二つを組み合わせた形である。

同じ「二挺で一件」でありながら、書き方が違う。

なぜ違うのか、館は説明しない。

九件を並べれば、違いだけが見えてくる。

三通りの番号

まず、二つの番号を並べる形を見てみる。

04.3.195と.196。

47.110.1と.2。

50.203.1と.2。

これは、二挺にそれぞれ番号を与えたうえで、並記している。

つぎに、小文字を付ける形。

14.25.1398のaとb。

14.25.1399のaとb。

こちらは、一つの番号の下に二挺を置く。

前の形が「二件をまとめた」なら、こちらは「一件を分けた」である。

考え方が逆になっている。

火打石式拳銃一対
シャルル・フロマン銃工、ブレア銃身《火打石式拳銃一対》1686年から1690年ごろ。館の記録では、鋼、木、銀。各全長50.2センチ、各銃身の長さ32.1センチ。番号は04.3.195と.196。メトロポリタン美術館蔵。シャルル・フロマン《火打石式拳銃一対》メトロポリタン美術館蔵

拳銃が二挺、上下に並べて置かれる。

どちらも左を向く。

銃床は褐色の木で、全面に銀の象嵌がある。

葉と渦の文様が、隙間なく走る。

握りの先は、丸く大きく膨らむ。

その膨らみに、銀の覆いが被さる。

機関部は銀色で、撃鉄が上に立つ。

引き金の護りが、細く曲がる。

銃身は褐色で、根もとに金色の帯が回る。

二挺は、装飾も長さも同じに見える。

寸法の欄も、各50.2センチと一つの数字で書く。

「各」と書くか、片方だけ書くか

寸法の欄の書き方も、九件で分かれる。

各50.2センチ、というように一つの数字で書く形。

そして、片方の番号を挙げてその寸法だけを書く形。

後者では、もう一挺の寸法が分からない。

測っていないのか、同じだから省いたのか。

館は、そこを書かない。

書かないから、判断できない。

もし二挺の寸法が違っていたら、重要な情報である。

同じなら、省いても実害は少ない。

どちらか分からないまま、片方の数字だけが残る。

前の回の記事で、寸法の欄の粒度を何度も見てきた。

対の品では、この粒度がとくに問題になる。

車輪式拳銃一対
ジョヴァン・アントニオ・ガヴァッチョーロ機関、ラザリーノ・コミナッツォ銃身《車輪式拳銃一対》17世紀なかば。館の記録では、鋼、胡桃。一挺は全長57.7センチ、口径12.6ミリ、重さ約990グラム。番号は47.110.1と.2。メトロポリタン美術館蔵。ジョヴァン・アントニオ・ガヴァッチョーロ《車輪式拳銃一対》メトロポリタン美術館蔵

拳銃が二挺、上下に置かれる。

上の一挺は左を向き、下の一挺は右を向く。

銃床は褐色の木で、細長い。

握りの先は、丸くふくらむ。

その面に、銀の象嵌が広がる。

葉の形が、細かく連なる。

機関部は明るい鋼で、彫りが入る。

車輪の覆いが、円く盛り上がる。

銃身は細く、長く伸びる。

銃身の中ほどに、細い帯が一本ある。

二挺の姿は、ほぼ同じに見える。

しかし、記録には一挺分の寸法しかない。

口径が、二挺で違う

九件のうち一件では、二挺の口径が別々に書かれている。

一方が11.2ミリ、他方が11.8ミリ。

〇・六ミリの差がある。

対として作られた二挺が、同じ口径ではない。

手で作れば、こういう差は出る。

型で抜いているのではないからだ。

館は、その差をそのまま数字にしている。

各11ミリ、と丸めることもできた。

丸めなかったことで、手仕事の痕跡が残る。

前の回の記事で、大小の鐔の寸法差を見た。

あちらは、意図された差だった。

こちらは、意図しない差だろう。

記録は、その区別を書かない。

数字だけを並べ、判断は読む側に任せる。

車輪式拳銃一対
エティエンヌ・ドローヌ意匠《車輪式拳銃一対》1570年から1580年ごろ。館の記録では、鋼、金、銀、真鍮、胡桃、鹿角、顔料。各全長51.1センチ。口径は一挺が11.2ミリ、他挺が11.8ミリ。番号は14.25.1433。メトロポリタン美術館蔵。エティエンヌ・ドローヌ《車輪式拳銃一対》メトロポリタン美術館蔵

公開画像には、一挺だけが写る。

全面が、金と銀の装飾で覆われる。

木の地は、ほとんど見えない。

握りの先は球状で、そこにも彫りが密に入る。

球の中央に、丸い白い面がある。

角か象牙を嵌めたものだろう。

握りから銃身へ向かって、装飾の帯が続く。

機関部は複雑で、部品が幾重にも重なる。

車輪の覆いが、大きく張り出す。

銃身は短く、先端に飾りが付く。

九件でいちばん、装飾の密度が高い。

作者の欄に、意匠の人だけがいる

いま見た一件の作者の欄は、一人だけである。

そして、その役割は意匠と書かれている。

作った人の名がない。

図案を描いた人だけが、記録に残っている。

この人は、版画で知られる人物である。

銃の装飾のための図案を、版画で刊行していた。

その図案に沿って、別の職人が作った。

作った人の名は、分からない。

分からないから、書かれない。

前の回の記事で、家具の記録に同じ形を見た。

意匠だけが分かり、製作が分からない。

図案が印刷物として残り、実物の職人が匿名になる。

複製されるものほど、名が残りやすい。

車輪式拳銃一対
ツァハリアス・ヘロルト《車輪式拳銃一対》1590年ごろ。館の記録では、鋼、木、銀、金、真鍮。一挺は全長61.4センチ、銃身の長さ38.3センチ、口径12.8ミリ。番号は14.25.1399。メトロポリタン美術館蔵。ツァハリアス・ヘロルト《車輪式拳銃一対》メトロポリタン美術館蔵

公開画像には、一挺だけが写る。

握りの先に、大きな木の球が付く。

球は暗い褐色で、装飾がない。

そこから細い握りが、前へ伸びる。

機関部は銀色に光る。

円い覆いの中央に、金の飾りがある。

撃鉄は短く、前へ倒れる。

引き金の護りは細い。

銃身は黒く、上面に金の細い線が走る。

先端に、小さな照準が付く。

全体が細長く、まっすぐである。