美術史・技法

画面に、詩を書く——呉春《猫と歌》と董其昌ほか九点

山水と詩
董其昌《山水と詩》17世紀初め。館の記録では、八組の見開きの画帖。金の粉を散らした紙に墨と金と彩色、および繻子に墨。各葉は縦32.1センチ、横23.2センチ。番号は1989.372。メトロポリタン美術館蔵。董其昌《山水と詩》メトロポリタン美術館蔵

縦長の一葉である。

地は、淡い褐色の紙である。

中央に、木立が数本立つ。

葉は、点を重ねて描かれる。

その手前に、低い岩がある。

左下に、小さな建物が見える。

奥に、なだらかな山が連なる。

山肌は、薄い墨で塗られる。

上のほうに、白い空が広がる。

右上に、文字が二行入る。

赤い印が、いくつも押される。

家具が、絵画になる

この一点は、もとは家具だった。

机の上に立てる、小さな衝立である。

風よけであり、飾りでもある。

それが、いまは壁に掛けられている。

館の部門の欄には、家具とある。

しかし、題には詩が入る。

つまり、家具でありながら書の作品でもある。

前の回で、用途の変わった物を見た。

同じことが、ここでも起きている。

館は、変わったことを題に書き添える。

石に、詩を刻む

九点のうち一点は、紙でも絹でもない。

大理石の板である。

もとは、机の上に立てる衝立だった。

いまは、壁に掛ける形に改められている。

館の題には、その経緯まで書かれる。

そして、詩の名も入る。

古い長詩の題である。

つまり、その詩がこの石に刻まれている。

詩を刻んだ卓上の衝立
リー・ミー《詩を刻んだ卓上の衝立》1624年。館の記録では、木の枠に嵌めた縞のある大理石。高さ42.2センチ、幅36.5センチ。いまは壁に掛ける形に改められている。番号は1995.181。メトロポリタン美術館蔵。リー・ミー《詩を刻んだ卓上の衝立》メトロポリタン美術館蔵

横長に近い板である。

赤褐色の木の枠が、四辺を囲む。

枠の上に、金具が二つ付く。

掛けるための輪である。

枠の中は、灰色の石である。

石の面に、縞模様が波のように走る。

模様は、白と灰と褐色が混じる。

うねりが、幾重にも重なる。

自然にできた模様である。

山水の景色のようにも見える。

石の面は、平らに磨かれる。

縞の石を、額に入れる

縞のある石を切り、磨き、枠に嵌める。

これは、絵を描くのとは違う仕事だ。

選ぶことと、切る位置を決めることが仕事になる。

同じ石でも、切る面で模様が変わる。

いい模様が出るように切る。

そこに、目利きが要る。

つまり、作者は描いていない。

選んで、切って、枠に入れた。

館の作者の欄には、人の名が入る。

その人は、詩を刻んだ人かもしれない。

石の模様を、景色と見る

この種の石は、当時とりわけ好まれた。

縞の模様が、山や雲に見えるからだ。

つまり、誰も描いていない絵である。

自然が作った景色を、そのまま額に入れる。

そこに、詩を刻む。

石の景色と、詩の言葉が組み合わさる。

館の題は、詩の名だけを書く。

石の模様については、書かない。

見れば分かることだからだろう。

焼き物に、文字を入れる

焼き物に文字を入れるのは、難しい。

面が曲がっているからだ。

平らな紙のようには、書けない。

しかも、焼けば色が変わる。

書いたときと、焼き上がりが違う。

だから、専門の職人が担当した。

絵付けの職人と、文字の職人が別のこともある。

前の回で、分業の話をした。

器の文字も、その分業の中にある。

館の記録は、そこまでは書かない。

器に、詩を書く

九点のうち一点は、焼き物である。

六角形の小さな鉢だ。

側面に、三つの面が作られる。

その面に、それぞれ詩が書かれる。

残りの面には、花の模様が入る。

つまり、文字と模様が交互に並ぶ。

器を回しながら、順に読む。

読み終われば、また最初の面に戻る。

終わりのない読み方になる。

詩を記した三面の鉢
錦光山《詩を記した三面の鉢》19世紀。館の記録では、色絵と鉄の赤で装飾した陶器。高さ8.9センチ、直径10.8センチ。番号は25.60.5。メトロポリタン美術館蔵。錦光山《詩を記した三面の鉢》メトロポリタン美術館蔵

六角形の小さな鉢である。

白黒の写真で写される。

口の縁に、細い帯が回る。

帯の中に、小さな模様が並ぶ。

側面は、六つの面に分かれる。

三つの面に、文字が数行ずつ入る。

残りの三つの面に、花の模様がある。

模様は、渦を巻く葉と大きな花である。

地は暗く、模様が白く浮かぶ。

高台は低く、外へ広がる。

底の縁が、影になる。

漆で装丁した本

九点のうち一点は、装丁が変わっている。

赤い漆の地に、金の漆で模様を描く。

紙の表紙ではない。

つまり、豪華な作りである。

館の技法の欄が、それを書く。

中身は、多色摺の版画である。

外は漆、中は紙。

二つの技術が、一冊にまとまっている。

こういう本は、贈り物や特別な注文だろう。

普通の本屋で売る品ではない。

本の題に、詩の名が入る

九点のうち二点は、絵入りの本である。

どちらも、題に狂歌という語が入る。

決まった形の短い歌で、滑稽を旨とする。

一点は、百の怪談に添えた歌の本。

一点は、変わった人物の姿に添えた歌の本。

つまり、絵と歌が対になっている。

見開きの片側に絵、もう片側に歌。

あるいは、絵の余白に歌が刷られる。

狂歌百物語
正澄竜斎《狂歌百物語》1853年。館の記録では、多色摺の絵入り本、紙に墨と彩色。縦22.9センチ、横16.2センチ、厚さ3.8センチ。番号は、日本の絵入り本を示す記号に27を付けたものである。メトロポリタン美術館蔵。正澄竜斎《狂歌百物語》メトロポリタン美術館蔵

見開きの二頁が並ぶ。

右の頁に、細い獣が描かれる。

体をくねらせ、口を開く。

尾が二つに分かれる。

その下に、水の流れがある。

左の頁に、大きな波が渦を巻く。

波の上に、小さな舟が浮かぶ。

舟に、赤い布が見える。

両方の頁の上部に、文字が並ぶ。

歌が、細かい字で刷られる。

紙は、淡い黄褐色である。

狂歌奇人画像集
歌川国貞《狂歌奇人画像集》19世紀。館の記録では、多色摺の絵入り本、赤い漆地に金の漆。縦21センチ、横14.6センチ、厚さ1.3センチ。番号は、日本の絵入り本を示す記号に94を付けたものである。メトロポリタン美術館蔵。歌川国貞《狂歌奇人画像集》メトロポリタン美術館蔵

見開きの二頁が並ぶ。

右の頁に、二人の人物が座る。

一人は長い髪を垂らす。

一人は、身をかがめて何かを持つ。

左の頁に、三人が集まる。

一人は座り、二人が身を寄せる。

いずれも、簡素な線で描かれる。

彩色は薄く、灰色と褐色が主である。

頁の上部と余白に、文字が並ぶ。

四角い枠の中に、名が入る。

紙は、淡い黄である。