摺るは、同じものを何枚も作る——豊国・広重・写楽ほか九点

綴じた書物である。
開いて23.7×27.9センチある。
表紙は、灰緑の紙である。
表紙は擦れ、縁が傷んでいる。
中央より右に、細長い題箋がある。
題箋は白く、縦に長い。
そこに、太い文字が四つ並ぶ。
字は上から下へ続く。
題箋の下のほうに、赤い印がある。
印は縦長で、細かい字が入る。
表紙の面には、折れた筋がある。
筋は縦に走り、上から下まで届く。
綴じの糸は、右の端にある。
糸は見えず、穴だけが並ぶ。
館の記録では、色摺りは千六百年代の初めに完成の域に達した。
この書物と、別の画譜が、その例であるという。
そして館は、その質について書いている。
絵画のような趣と、版木を合わせる精度と、調和した色。
その三つによって、この国の歴史で最も成功した色摺りの版になったという。
さらに館は、こう続けている。
二つの版は同じ都市で摺られ、全土へ広まった。
そして近隣の国々の美術に、大きな影響を与えたという。
館の記録は、そう説明している。
つまり色の数だけ、版がある。
そして版を替えるたびに、紙を同じ位置に置き直す。
そのずれの小ささが、質になる。
一色ずれれば、輪郭から色がはみ出す。
館の記録も、その精度を質の第二の要素に挙げている。
絵の趣、版の精度、色の調和の三つである。
一枚に八つ、まとめて刷る
五点目では、刷り方が経済である。

一枚の紙に、四つの図がある。
図は上下二段、左右二列に並ぶ。
図と図のあいだは、白い。
四つとも、縦長の長方形である。
大きさは、そろっている。
左上の図には、人が数人いる。
奥に、建物の柱が並ぶ。
右上の図には、室内がある。
奥に、アーチのある壁がある。
左下の図には、階段がある。
階段の上に、人が立つ。
右下の図には、天蓋のある寝台がある。
線は細かく、密である。
影は、細い線を重ねて作られる。
線の間隔は、一ミリに満たない。
紙の下のほうに、小さな数字がある。
館の記録では、これらの木版は四十点からなる連作の一部である。
連作は、原罪から最後の審判までの物語を描いているという。
そして館は、刷り方について書いている。
おそらく刷りの効率と質を上げるために、五枚の紙にそれぞれ八つの版が刷られた。
しかし主題は、正しい時間の順に並んでいないという。
さらに館は、こう続けている。
売る前に、紙は八つに切り分けられた。
館の持つ組は、半分にしか切られておらず、一枚に四点が残っているという。
館の記録は、そう説明している。
つまり刷るときの都合が、絵の並びを決めている。
九点のうち、刷りの単位が残っているのは、この一点である。
銅の版に、色を置いて刷る
六点目では、版が銅になる。

縦長の版画である。
版の跡は36.5×34.7センチある。
紙は61×44センチある。
つまり版のまわりに、広い余白がある。
画面の中央に、女の顔がある。
顔は正面を向く。
目は大きく、輪郭が黒い。
鼻筋は一本の線である。
口は小さく、赤い。
肌は淡い桃色で、影がほとんどない。
髪は褐色で、額の上で分ける。
その上に、大きな黒い帽子が載る。
帽子は羽根で膨らむ。
羽根は青灰と黒で、外へ広がる。
肩は桃色の衣に包まれる。
衣は、平らな面として塗られる。
背景は、淡い青灰である。
背景にも、影がない。
画面の上に、細い文字がある。
下の余白にも、署名がある。
館の記録では、色で銅版を刷る試みは千八百七十年代に始まった。
しかし広まったのは、千八百九十年代であるという。
そして館は、この画家について書いている。
濃く腐食させたアクアチントと、不規則に拭いた版を組み合わせた。
そうして、当時好まれた豊かで絵画的な効果を体現したという。
さらに館は、この一枚について書いている。
肖像はほとんど全部がアクアチントで作られている。
広い面と形として刷られた色が、人物を単純にし、平らにするという。
そしてアクアチントの粒そのものが、紙の平らさを強めるという。
館の記録は、そう説明している。
つまり色は、線ではなく面として刷られている。
輪郭の線は、目と鼻と口にしかない。
衣も帽子も、面の境で分かれる。
線を減らすほど、平らに見える。
館の記録は、その平らさを二度書いている。
刷った人の名が、余白に並ぶ
七点目では、石の版になる。

横長の大きな版画である。
画面は44×52.7センチある。
画面は、店の中である。
奥に、二階の手すりが横に渡る。
手すりの向こうに、布が垂れる。
布は黄と橙と赤である。
天井からは、丸い灯が下がる。
灯は白く、三つ見える。
画面の下半分に、人が集まる。
人は二十人以上いる。
多くは、背中をこちらへ向ける。
中央の一人は、赤い外套を着る。
赤は、画面で最も強い色である。
その右にも、赤い外套の子どもがいる。
ほかの人は、黄土色と灰の外套である。
帽子をかぶった頭が、並ぶ。
顔は、ほとんど見えない。
床は褐色で、平らである。
画面の下の余白に、文字が並ぶ。
文字は左と中央と右にある。
館の記録では、この版画は、ある百貨店を描いている。
この画家の最も優れた版画かもしれないという。
そして館は、余白の文字を写している。
左下に、描いて石版にした人の名がある。
中央には、摺った人の名と工房の名がある。
右下には、出版した人の名と都市と年がある。
館の記録は、そう伝えている。
つまり一枚の版画に、三人の名が並ぶ。
描く人、摺る人、売る人である。
三人の名は、大きさが違う。
描く人の名が、いちばん大きい。
摺る人の名は、中央に小さく入る。
売る人の名は、都市と年を伴う。
三つの名で、作られた場所と時が分かる。
九点のうち、三つの役の名が刷り込まれているのは、この一点である。