美術史・技法

作者の欄に、五十六人とある——伊賀上野の貼り混ぜ屏風ほか

屋島合戦図屏風
土佐派《屋島合戦図屏風》17世紀。館の記録では、六曲一双のうちの一隻、紙に墨と彩色と金と金箔。縦149.9センチ、横338.5センチ。番号は60.40。メトロポリタン美術館蔵。土佐派《屋島合戦図屏風》メトロポリタン美術館蔵

金の地に、六つの面が連なる。

上部の左寄りに、建物が並ぶ。

白い塀と、板葺きの屋根が続く。

その手前に、緑の州浜が広がる。

州浜には、紅葉した木が点在する。

中央から右にかけて、青い海がある。

海は濃い群青で、波の線が入る。

海の上に、小舟が数艘浮かぶ。

舟には、小さな人影が乗る。

右端にも、州浜と木がある。

金の雲が、上下を区切る。

年の欄が、作者の没年より後になる

九件のうち二件で、奇妙なことが起きている。

作者の生没年と、年の欄が合わない。

一件では、作者が十八世紀に没している。

ところが年の欄は、十九世紀とある。

もう一件では、作者が1776年に没している。

年の欄は、おそらく十九世紀。

どちらも、作者の死後の年が書かれている。

これは、誤りではないだろう。

屏風に仕立て直した時期を書いているのだ。

もとの絵は、作者の生前に描かれた。

それを後の時代に、屏風へ貼り替えた。

年の欄が、その後の作業の年を指している。

記録は、そこを説明しない。

山水図屏風
池大雅《山水図屏風》おそらく19世紀。館の記録では、もと襖であった二曲一双、紙に墨。縦166.4センチ、横179センチ。番号は1987.81。メトロポリタン美術館蔵。池大雅《山水図屏風》メトロポリタン美術館蔵

二つの面が、横に並ぶ。

水墨だけで描かれる。

左の面に、高い岩山が立ち上がる。

岩は縦に細長く、頂が尖る。

その左右から、滝が数条落ちる。

滝の水は、白く抜かれて表される。

右の面には、さらに高い山が重なる。

山の稜線に沿って、木が点で並ぶ。

麓に、小さな家が数軒ある。

左上に、賛の文字が四行入る。

その下に、朱の印が一つ押される。

二つの年を、書き分けない

前の回の記事で、刀身と拵の年が分けて書かれる例を見た。

材料が違えば、年を分けて書く。

ところが屏風では、そうなっていない。

描かれた年と、仕立て直した年が分けられていない。

年の欄には、一つの年しか入らない。

そして、その一つが後の作業の年になる。

結果として、作者の没年と食い違う。

食い違いに気づけるのは、生没年が併記されているからだ。

生没年がなければ、誰も気づけない。

複数の欄を突き合わせて、はじめて見える。

一つの欄だけを読んでいては、分からない。

出所の行が、九つに分かれる

九件の出所の行は、すべて違う。

個人からの寄贈が三件。

基金や寄贈を原資とした購入が五件。

そして、遺贈された収集からの受入が一件。

受入の年は、1929年から1996年まで散らばる。

六十七年のあいだに、九件が集まった。

屏風は、大きい。

一隻で横四メートル近くになる。

保管にも展示にも、場所が要る。

だから、まとめて何十件も入ることはない。

一件ずつ、機会を見て入る。

出所の行がすべて違うのは、そのためだろう。

前の回の記事で、群でまとまって入る作品を何度も見た。

大きな品は、群にならない。

匿名の寄贈が、行に残る

九件のうち一件の出所の行には、匿名の寄贈とある。

そして、その寄贈を原資とした購入である、と続く。

さらに、ある人物への敬意を表して、という句が付く。

寄贈者の名は伏せ、敬意の対象の名は書く。

行の中で、名の扱いが二通りに分かれている。

匿名を望む人がいれば、館はそれに従う。

しかし、記念の対象は書かなければ意味がない。

前の回の記事で、行の末尾に理由が書かれる例を見た。

短い一行に、複数の意図が畳み込まれている。

面の数が、揃わない

九件の面の数を並べてみる。

八面が二件。六面が四件。

四面が一件。二面が二件。

屏風の面は、偶数であることが多い。

折りたたむとき、二面ずつ重なるからだ。

面の数が増えれば、横幅も増える。

二面のものは横179センチ。

八面のものは横377センチ。

そして、一件だけ極端に長い。

横731.5センチ、七メートルを超える。

これは、四面を襖に仕立てた一件である。

襖は、折らずに一列に並ぶ。

だから、面の数に比べて横幅が長くなる。

琴棋書画図襖
狩野派《琴棋書画図襖》1606年ごろ。館の記録では、八面のうち四面を襖に仕立てたもの、紙に墨と彩色と金と金箔。縦182.9センチ、横731.5センチ。番号は1989.139.2。メトロポリタン美術館蔵。狩野派《琴棋書画図襖》メトロポリタン美術館蔵

四つの面が、二枚ずつ二組に分かれて写る。

いずれも金の地である。

左の組には、松の大木が枝を広げる。

幹は太く、右へ大きく傾く。

その下に、人物が三人ほど立つ。

いずれも長い衣をまとう。

右の組には、金の雲が横に流れる。

雲のあいだに、人物が数人いる。

一人は座り、他は立つ。

右端に、岩が黒く盛り上がる。

面と面の境に、細い縁が入る。

裏にも、絵がある

九件のうち一件の技法の欄には、注記が付く。

裏面は、紙に墨と彩色と金、とある。

つまり、この屏風は両面に絵がある。

屏風は、立てて使う。

だから、裏側も見える。

裏にも絵を描くことは、珍しくない。

しかし、公開画像は表しか写さない。

裏に何が描かれているかは、分からない。

館は、材料だけを記録している。

主題は書かれていない。

前の回の記事で、板の表と裏に別の番号を付ける例を見た。

あちらは、面ごとに数えていた。

こちらは、一つの番号のまま、注記で示している。

七福神唐子図屏風
狩野周信《七福神唐子図屏風》17世紀から18世紀。館の記録では、六曲一隻、紙に墨と彩色と金。裏面は紙に墨と彩色と金。縦175.9センチ、横388.6センチ。番号は29.100.498。メトロポリタン美術館蔵。狩野周信《七福神唐子図屏風》メトロポリタン美術館蔵

六つの面が、横に連なる。

金の地に、緑がかった雲が広がる。

中央に、子どもが大勢集まる。

いずれも髪を左右に結い、赤や青の衣を着る。

その中に、大きな車が一台ある。

車輪が二つ、正面を向く。

車の上に、白い布が掛かる。

右には、岩が盛り上がる。

岩の上から、松が横に張り出す。

松の葉は、細かく描き込まれる。

左には、なだらかな丘が続く。