美術史・技法

作者の欄に、五十六人とある——伊賀上野の貼り混ぜ屏風ほか

名前ではなく、人数がそのまま作者の欄に入る。襖を屏風に仕立て直した件もあり、一双と一隻で数え方が変わる。出所の行は九つに分かれる。一つの屏風に何人が関わったかを読みたい。面の数が、件によって揃わない。

伊賀上野の文人による貼り混ぜ屏風
五十六人の画家《伊賀上野の文人による貼り混ぜ屏風》メトロポリタン美術館蔵

作者の欄に、五十六人とある

屏風を九件、記録の欄で並べてみる。

そのうち一件の作者の欄が、こう書かれている。

五十六人の画家。

名前が並んでいるのではない。

人数が、そのまま作者の欄に入っている。

なぜ、こういう書き方になるのか。

技法の欄を読むと、事情が分かる。

紙を貼り混ぜた八曲の屏風である。

大小の紙を、屏風の面に貼り付けて作られている。

その紙の一枚ずつが、別々の人の手による。

五十六枚が、一つの屏風に集まっている。

名を書ききれないとき

五十六人の名を、すべて書くこともできたはずだ。

館は、そうしなかった。

人数だけを置いている。

作者の欄には、字数の制約がある。

五十六人の名を並べれば、欄が異常に長くなる。

そして、探すときにも使いにくい。

だから、人数で代表させる。

前の回の記事で、文化の名を作者の欄に置く例を見た。

工房の名を置く例も、窯の名を置く例も見た。

いずれも、個人を書けないときの便法である。

ここでは、数そのものが便法になっている。

伊賀上野の文人による貼り混ぜ屏風
五十六人の画家《伊賀上野の文人による貼り混ぜ屏風》19世紀初め。館の記録では、八曲一隻、紙に墨、紙に墨と彩色、絹に墨と彩色。縦139.7センチ、横377.2センチ。番号は1989.302。メトロポリタン美術館蔵。五十六人の画家《伊賀上野の文人による貼り混ぜ屏風》メトロポリタン美術館蔵

八つの面が、横に連なる。

その全面に、大小の紙が貼り付けられる。

四角い紙、扇の形の紙、細長い短冊。

大きさも形も、まちまちである。

紙の色も、白、淡い茶、緑と揃わない。

書かれているものも、書と絵が混ざる。

絵の紙には、花や虫、鳥が描かれる。

書の紙には、漢字やかなが縦に並ぶ。

紙と紙のあいだに、下地が見える。

隙間なく貼られた部分と、余白のある部分がある。

全体としては、一つの面をなしている。

技法の欄に、三つの材料が並ぶ

いま見た一件の技法の欄は、読点で三つに区切られる。

紙に墨。

紙に墨と彩色。

絹に墨と彩色。

一つの屏風の中に、三種類の材料が混在する。

貼られた紙が、もともと別々の作品だからだ。

紙のものもあれば、絹のものもある。

館は、そのすべてを並べて書く。

一つに丸めれば、この多様さは消える。

前の回の記事で、技法の欄の長さについて何度も書いてきた。

長い欄は、その品の成り立ちが複雑であることを示す。

襖を、屏風に仕立て直す

九件のうち三件は、もとが屏風ではない。

技法の欄に、こう書かれている。

襖絵を、屏風に仕立て直したもの。

襖とは、部屋を仕切る引き戸である。

その表に描かれた絵を、外して屏風に貼り替えた。

なぜそうするのか。

建物が失われれば、襖も行き場を失う。

屏風にすれば、独立した作品として持ち運べる。

売ることもできる。

館の記録は、その経緯を技法の欄に残している。

書かなければ、はじめから屏風だったと思われる。

源氏物語図屏風
土佐光吉《源氏物語図屏風》16世紀なかばから17世紀初め。館の記録では、襖絵を四曲一双の屏風に仕立て直したもの、紙に墨と彩色と金箔。各隻は縦166.4センチ、横355.6センチ。番号は55.94.1と.2。メトロポリタン美術館蔵。土佐光吉《源氏物語図屏風》メトロポリタン美術館蔵

金の地が、画面の大部分を占める。

上下に、金の雲が横に長く流れる。

雲の縁は、階段のように段になる。

その中央に、緑の州浜が広がる。

州浜の上を、行列が右へ進む。

牛車が一台、大きく描かれる。

その前後に、人が十数人いる。

赤や緑の衣が、点のように散る。

馬に乗る人も、数人まじる。

左下に、白い舟が一艘ある。

舟の上に、人が二人立つ。

一双と、一隻

屏風の数え方には、二つの単位がある。

一隻は、屏風一つ。

一双は、二つで一組。

九件のうち、一双が三件、一隻が六件。

一双の三件は、番号も二つ並ぶ。

点のあとの数字が、一と二に分かれる。

つまり、二つの屏風に別々の番号がある。

そのうえで、一件として扱われる。

前の回の記事で、対の拳銃の番号を見た。

書き方の形が、そっくりである。

二つで一組のものは、どの分野でも同じ問題を抱える。

分けて数えるか、まとめて数えるか。

西湖図屏風
久隅守景《西湖図屏風》17世紀なかばから後半。館の記録では、六曲一双、紙に墨と彩色。一隻は縦174.6センチ、横371.8センチ。他隻は縦175.3センチ、横371.8センチ。番号は1972.179.1と.2。メトロポリタン美術館蔵。久隅守景《西湖図屏風》メトロポリタン美術館蔵

六つの面が、横に連なる。

淡い地に、水墨で描かれる。

中央に、広い水面が横たわる。

水面には、小さな舟が二艘浮かぶ。

左右に、低い山が幾重にも重なる。

山の輪郭は、薄い墨でぼかされる。

手前に、楼閣が二つ建つ。

屋根の反りが、細い線で描かれる。

その周囲に、木が点で表される。

上部は、白く残される。

霞を表したものだろう。

一双で、高さが違う

いま見た一件の寸法の欄は、二段になっている。

一隻が縦174.6センチ。

他隻が縦175.3センチ。

七ミリ違う。

横は、どちらも371.8センチで同じである。

つまり、高さだけが揃っていない。

対で作られたはずのものが、わずかにずれている。

木の枠の作りの差だろう。

あるいは、後の修理で変わったのかもしれない。

館は、その差をそのまま数字にしている。

各174.6センチ、と丸めることもできた。

丸めなかったことで、手仕事の痕跡が残る。

前の回の記事で、対の拳銃の口径の差を見た。

同じ姿勢が、ここでも取られている。

一双のうち、一隻だけ

九件のうち一件は、品名が少し変わっている。

六曲一双のうちの一隻、と書かれている。

つまり、もう一隻がここにはない。

どこかにあるのか、失われたのか。

記録は書かない。

書かれるのは、対の片方であるという事実だけだ。

館は、片方だけを持っている。

そのことを隠さずに書いている。

一隻とだけ書けば、はじめから一つだったように読める。

一双のうち、と書くことで、欠けが伝わる。

前の回の記事で、番号の枝がbから始まる甲冑を見た。

欠けを欠けのまま示すのが、記録の作法である。