技法の欄に、鉱物の名がある——東洲斎写楽の雲母摺

女の役を演じる姿である。
髪は結い上げられ、上に黄色い櫛のような形が載る。
額の上に、桃色の布が置かれる。役の印だと考えられる。
眉は細く弧を描く。目は切れ長で、目尻が上がる。
口は小さく、赤い。
衣は白地に赤い花の模様が散る。襟が幾重にも重なる。
手前に、右手の指が見える。何かを持つ。
背景は灰紫の面である。
右上に、絵師の名が縦に並ぶ。
髪の描き方
九点の髪は、いずれも黒く塗られる。
その黒の中に、細い線が彫り残される。生え際の毛である。
一本ずつの線が、額の上で扇のように広がる。
彫りの技術がなければ、この線は出せない。
黒い面の中に細い白い線を残す作業は、版木彫りの見せ場である。
女の役と、男の役
九点のうち二点は、女の役を演じる姿である。
いずれも男の役者が演じている。歌舞伎の作りである。
顔の描き方は、男の役とは変わる。眉が細く、目尻が上がり、口が小さい。
輪郭も丸くなる。頬の線がやわらかい。
同じ絵師が、役の性別に応じて描き分けている。

顔が左を向く。上体はこちらへ向く。
眉が太く、目が大きい。黒目が上へ寄る。
口はわずかに開き、下の歯が見えるように描かれる。
顎の輪郭が張る。頬に影はない。
衣は赤で、白い文様が肩と袖に入る。
内側に白い襟が重なる。その下に黄色い衣が見える。
右手を胸の前で握る。
背景は灰色の面で、下部が明るい。
九点のなかで、最も赤の面積が広い一点である。
家紋という印
九点の衣には、丸い家紋が入るものが多い。
役者の家を示す印である。誰であるかを示す情報になる。
顔を似せることに加えて、紋でも人物を特定できる。
版画では、紋は白く抜いて表す。黒い衣の上に白い形が浮く。
小さいが、確実な手がかりである。
色数は、多くない
九点の色を数えると、多くて五色ほどである。
赤、黄、緑、灰、黒。中間の色はあまり使われない。
面で塗り、境目を線で区切る。ぼかしはほとんどない。
色数が少ないほど、形が強く出る。
顔を見せる絵としては、この作りが合っている。

顔は正面に近い。わずかに右を向く。
眉が中央へ寄り、目が下を見る。口は結ばれる。
髪は額の上で二つに分かれる。後ろに小さく束ねる。
衣は薄い紫で、丸い家紋が二つ入る。
右手に、白い箱のようなものを持つ。角がはっきりした形である。
その箱は角灯だと考えられる。持ち手が上に付く。
左には黄色い衣が見える。裏地だろう。
背景は灰紫の面である。
九点のなかで、道具を持つ人物はこの一点だけである。

九点で唯一、全身を描いた一点である。
判型も違う。縦31.4センチ、横14.6センチ。細判にあたる。
人物は女の役で、裾の長い衣を着る。
衣は白と桃色で、大きな模様が入る。裾が床に広がる。
手前に開いた扇を持つ。骨の線が細かい。
頭には黒い小さな被り物が載る。
背景は淡い色の面で、灰色ではない。
記録には雲母の地とあるが、画像では地の光が分からない。
判型が、一点だけ違う
九点のうち八点は、縦36センチから38センチ、横23センチから25センチである。
大判にあたる。役者絵で最も使われた規格である。
残る一点だけ、縦31.4センチ、横14.6センチである。細判にあたる。
面積では、大判の半分以下になる。
判型が違えば、描ける範囲も変わる。細判では顔を大きく取れない。
淡い地の雲母
雲母は、暗い地にも明るい地にも使われる。
暗い地では、光が強く見える。明るい地では、しっとりと光る。
いま見た一点は、明るい地である。ほかの八点は、暗い地である。
同じ技法でも、下の色が違えば見え方が変わる。
記録は、その差を書き分けていない。雲母の地、とだけ書く。

顔が右を向く。目を大きく見開く。
目のまわりに赤い線が入る。隈取りである。
眉は太く、上へ跳ね上がる。
口は結ばれ、口角が下がる。
衣は赤で、肩に黒い部分がある。
胸の前で、両手で刀を横に持つ。鞘に細かい模様が入る。
柄には金色の飾りがある。
背景は灰紫の面である。
刀が画面を横切ることで、動きが出ている。
隈取りの赤
九点のうち三点に、目のまわりの赤い線が入る。
隈取りと呼ばれる化粧である。顔に線を描いて役の性格を示す。
赤は、勇ましさや正しさを表すと言われる。
版画では、その線をそのまま摺る。実際の舞台の化粧を写している。
化粧が記号であるなら、絵はその記号を写しているだけである。
刀という横の線
大首絵では、画面が縦に長い。
そこに横の線を入れると、構図が締まる。
この一点では、刀が横に走る。手前に大きく置かれる。
顔と刀が上下に並び、視線が二か所に分かれる。
九点のなかで、こうした構図はこの一点だけである。