画家を知る

真横だけを、灰色の紙に——ジェームズ・シャープルズ

色のない画像で見る

四点目は、色のない画像である。

アレグザンダー・ハミルトン
ジェームズ・シャープルズ《アレグザンダー・ハミルトン》1796年ごろ。パステル、色のついた紙。現在は酸化している。縦23.8センチ、横18.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。チャールズ・アレン・マン遺贈、1924年。この作品は色のない画像で公開されている。アレグザンダー・ハミルトン》メトロポリタン美術館蔵

男の横顔である。

顔は左を向く。

髪は白く、後ろで束ねられる。

額は広く、鼻筋がまっすぐ通る。

首元には、白い布が高く巻かれる。

上着は暗く、襟が立つ。

背景は黒に近い。

色は分からないが、輪郭ははっきり見える。

白黒でも、横顔は読める

横顔の肖像は、色がなくても成立する。

輪郭が主な情報だからである。

額、鼻、唇、顎。

その線さえ見えれば、人物が示される。

つまり、この形式は複製に強い。

版画にしても、影絵にしても、情報が失われにくい。

十八世紀末に横顔の肖像が流行したのは、その利点もあるだろう。

安く複製でき、広く配れる。

首元の白い布

九点の男性像には、いずれも白い布が巻かれている。

顎の下で結ばれ、膨らむ。

十八世紀末の男性の装いである。

この白は、絵として重要である。

暗い上着と顔の間に、明るい帯が入る。

すると、顔が浮き上がる。

パステルでは、白がいちばん強く出る画材である。

だから、ここに白を置くと効果が大きい。

装いと技法が、うまく噛み合っている。

建国期の人々

九点に描かれた人物を整理したい。

大統領とその妻、財務の要職に就いた人物。

憲法の議論に関わった人物、辞書の編纂者。

港の役職者、フランスから渡った著述家。

つまり、建国期の公人が並ぶ。

同時代の記録として、価値が高い。

写真のない時代である。

顔を残す手段は、絵しかなかった。

有名人の顔が、複製される

こうした人物の肖像には、需要がある。

本人の家族だけでなく、他人も欲しがる。

だから、同じ図が繰り返し作られた。

シャープルズ一家は、その需要に応えた。

同じ図の作品が、各地の館に散っている。

どれが最初の一枚かは、判断が難しい。

館の記録も、慎重な書き方をすることがある。

九点は、いずれもこの画家の作として登録されている。

楕円の中の女性

五点目は、背景の作りが違う。

ドロテア・ハート
ジェームズ・シャープルズ《ドロテア・ハート》1809年。パステル、色のついた紙。現在は酸化している。縦22.9センチ、横20センチ。メトロポリタン美術館蔵。フレッチャー基金、1935年購入。ドロテア・ハート》メトロポリタン美術館蔵

女性の横顔である。

顔は右を向く。

頭には、白い帽子をかぶる。

帽子の後ろから、白い布が肩へ垂れる。

首元にも、白い布が重なる。

衣は暗い緑である。

背景は褐色で、楕円形の枠が描かれている。

その外側は、明るい褐色である。

つまり、背景に楕円の輪郭が描き込まれている。

楕円の枠を、描く

背景に楕円を描くのは、額の代わりである。

実際の額に入れなくても、絵の中に枠がある。

そして、その外側は紙のままに近い。

つまり、仕上げの範囲を絵の中で示している。

こうした処理は、パステル画によく見られる。

紙の四隅まで描き込むと、時間がかかる。

楕円の中だけを仕上げれば、速い。

そして、額に入れたときに、はみ出しが目立たない。

一八〇九年の一枚

この一枚は、一八〇九年の作である。

九点の中で、最も遅い部類にあたる。

画家の没年は一八一一年である。

つまり、晩年の作である。

初期の作と比べると、輪郭がやや柔らかい。

そして、背景の処理が簡略である。

もっとも、九点だけでは変化を断定できない。

制作年が不明なものも含まれている。

制作年が幅で示される

九点の年代欄を見ると、二点に幅がある。

一七五一年から一八四九年、という書き方である。

これは、画家の生年から、家族の没年までを示しているのだろう。

つまり、誰が描いたかが確定していない。

シャープルズ一家では、同じ図を複数の人が描いた。

だから、本人の作か、家族の作かが判別しにくい。

館は、その幅をそのまま記載している。

分からないことを、幅として示す。

家族で描くということ

一家で肖像を作る仕組みは、効率がよい。

一人が下絵を取り、別の者が仕上げる。

あるいは、同じ図を複数の者が写す。

そうすれば、注文に速く応じられる。

一方で、後世の帰属は難しくなる。

様式がよく似ているからである。

九点の中に、家族の手が混ざっている可能性はある。

館の記録も、その可能性を排除していない。

黒い上着の男

六点目は、色のない画像である。

ジョサイア・インガソル、ニューヨーク港の主任管理官
ジェームズ・シャープルズ《ジョサイア・インガソル、ニューヨーク港の主任管理官》。パステル、淡い灰色の紙。縦24.8センチ、横19.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。1908年寄贈。この作品は色のない画像で公開されている。ジョサイア・インガソル、ニューヨーク港の主任管理官》メトロポリタン美術館蔵

男の胸像である。

顔はやや左を向くが、真横ではない。

髪は暗く、耳の上で膨らむ。

首元には、白い布が巻かれる。

上着は暗く、襟が立つ。

背景は黒に近い。

顔と襟だけが明るい。

九点の中で、最も明暗の差が大きい。

港の役職者

この人物の肩書に注目したい。

港の主任管理官とある。

つまり、行政の役職である。

九点の顔ぶれには、こうした地方の役職者も含まれる。

大統領や財務の要職者だけではない。

肖像を注文できる層は、思ったより広い。

パステルの横顔は、油彩の肖像より安かっただろう。

そのぶん、注文の敷居が低い。