名画の楽しみ方

寸法の欄に、重さがある——十八世紀アメリカの銀器

鉢
アイザック・ハットン《鉢》1811年。館の記録では、銀。全体で縦12.1センチ、横25.7センチ、重さ1022.3グラム。高台の直径15.4センチ。番号は53.199。メトロポリタン美術館蔵。アイザック・ハットン《》メトロポリタン美術館蔵

半球に近い形の鉢である。

胴は下でふくらみ、上で開く。

口の縁に、細い線が一本回る。

胴の面には、装飾がほとんどない。

正面にだけ、薄く彫られた文様がある。

鳥のような形と、細い枝に見える。

彫りは浅く、光の角度でしか見えない。

高台は低く、幅が広い。

高台と胴の境に、段が一つある。

面は磨かれ、周囲を映す。

映り込みが、器の輪郭を柔らかくする。

装飾の量が、点によって違う

九点の写真を並べてみる。

面いっぱいに打ち出しのある一点。

垂れ布の文様が回る一点。

そして、装飾のまったくない数点。

同じ銀器でありながら、幅が広い。

装飾を加えれば、手間が増え、値も上がる。

無地であれば、銀の重さだけが値になる。

つまり、装飾の量は注文の値段に対応する。

館の記録は、装飾について書かない。

技法の欄には、銀とだけある。

寸法の欄にも、装飾は出てこない。

写真を見なければ、まったく分からない。

鉢
エフライム・ブラッシャー《鉢》1785年から1800年。館の記録では、銀。高さ9.2センチ、直径20センチ、重さ550.2グラム。底の直径11.9センチ。番号は33.120.123。メトロポリタン美術館蔵。エフライム・ブラッシャー《》メトロポリタン美術館蔵

半球に近い形の鉢である。

前の一点より、やや小さい。

胴は下でふくらみ、上で開く。

口の縁は、まっすぐで飾りがない。

胴の面にも、文様がない。

正面に、うっすらと影のような跡がある。

かつて何かが彫られていたのかもしれない。

判別はできない。

高台は低く、二段に締まる。

底の直径は、胴の半分より広い。

だから、安定して立つ。

九点のうち、いちばん装飾の少ない一点である。

作者の欄に、二つの会社が並ぶ

九点のうち一点は、作者の欄が二つである。

いずれも、個人ではなく会社の名だ。

そして、役割の欄はどちらも作った人となっている。

区別されていない。

一方が作り、他方が売ったのかもしれない。

あるいは、二つの工房が分担したのかもしれない。

館は、書かない。

前の回の記事で、小売と作り手が並ぶ例を見た。

あちらは、役割の欄で区別されていた。

こちらは、されていない。

同じ館の同じ部門でも、書き方が揃わない。

鉢
イーオフ・アンド・ファイフ、ボールドウィン商会《鉢》1846年ごろ。館の記録では、銀。高さ13.2センチ、直径15.7センチ、重さ383.2グラム。高台は縦横8.9センチ。番号は33.120.124。メトロポリタン美術館蔵。イーオフ・アンド・ファイフ《》メトロポリタン美術館蔵

高い脚の付いた鉢である。

胴は半球で、上が開く。

口の縁に、細かい粒が連なる帯が回る。

その下に、彫った文様の帯がある。

さらに下に、垂れ布の文様が並ぶ。

布は左右に垂れ、あいだに房が下がる。

正面に、盾の形の枠がある。

枠の中に、組み合わせた文字が刻まれる。

胴の下から、短い脚が伸びる。

脚の下は、四角い台になる。

台の側面に、小さな札が付く。

高台が、四角い一点

いま見た一点の寸法の欄には、高台の数字が二つある。

縦8.9センチ、横8.9センチ。

つまり、正方形である。

ほかの八点では、高台は直径で書かれている。

円いからだ。

一点だけ、四角い。

寸法の欄の書き方が、形の違いを示している。

直径と書かれていれば円、縦横と書かれていれば四角。

数字の形式が、輪郭を伝えている。

前の回の記事で、寸法の書き方が形を示す例を何度も見た。

書き方そのものが、情報を運ぶことがある。

番号の末尾に、小文字が付く三点

九点の番号を見ると、三点に小文字がある。

一点はaだけ。

二点はaとbの両方である。

aとbの二点は、蓋と本体だろう。

では、aだけの一点は何か。

対の片方かもしれない。

あるいは、bが失われたのかもしれない。

館は、書かない。

書かれるのは、aという一字だけである。

前の回の記事で、番号の枝がbから始まる甲冑を見た。

欠けは、こういう形で残る。

そして、欠けを埋めることは、もうできない。

杯
サミュエル・エドワーズ《杯》1740年ごろ。館の記録では、銀。高さ20.5センチ、重さ364.8グラム。口の直径10.3センチ、高台の直径10.2センチ。番号は33.120.230のa。メトロポリタン美術館蔵。サミュエル・エドワーズ《》メトロポリタン美術館蔵

高い脚の付いた杯である。

胴は円筒に近く、上でわずかに開く。

胴の正面に、大きな枠が彫られる。

枠は葉と渦で縁取られる。

枠の中に、文字が数行にわたって刻まれる。

文字は細く、筆記体に近い。

胴の下から、脚が伸びる。

脚の中ほどに、球状の膨らみがある。

その下に、円い台が広がる。

台は二段に締まる。

面は磨かれ、光が縦に流れる。

刻まれた文字が、記録に写されない

いま見た一点には、はっきりと文字が彫られている。

数行にわたる長い文章である。

寄贈や記念の由来だろう。

しかし、館の記録には銘記の欄がない。

つまり、その文章は写されていない。

写真を見れば、あることは分かる。

しかし、内容は読み取れない。

前の回の記事で、銘記の欄が使われない例を何度も見てきた。

分野によって、写す欄があったりなかったりする。

銀器では、彫られた文字が来歴を伝えることが多い。

それが写されないのは、惜しい。

しかし、館の記録の設計がそうなっている。

皿
マイヤー・マイヤーズ《皿》1754年から1770年。館の記録では、銀。高さ6センチ、直径31.4センチ、重さ952グラム。番号は26.95。メトロポリタン美術館蔵。マイヤー・マイヤーズ《》メトロポリタン美術館蔵

浅い皿である。

九点のうち、いちばん平たい。

縁は上へゆるく反る。

縁の輪郭は、波形にうねる。

波は大きく、六つほどに分かれる。

面は磨かれ、周囲を映す。

映り込みが、面の中で歪む。

面のほぼ全体が、装飾のない銀である。

中央にも、彫りがない。

高台らしいものは、写真では見えない。

寸法の欄にも、高台の数字がない。

底が平らなのだろう。