名画の楽しみ方

寸法の欄に、重さがある——十八世紀アメリカの銀器

銀の器の記録には、必ず重さが二つの単位で書かれる。取引に使われた古い単位と、いまのグラムである。本体と蓋で重さを分ける点もある。材料が記録の形を決めることを読みたい。把手と注ぎ口の幅が、同じ数字になる点もある。

両手付きの鉢
コルネリウス・キールステーデ《両手付きの鉢》メトロポリタン美術館蔵

寸法の欄に、重さがある

銀の器を九点、記録の欄で並べてみる。

寸法の欄に、必ず重さが書かれている。

しかも、二つの単位で。

一つは、貴金属の取引に使われた古い単位。

もう一つは、いまのグラムである。

前者は、二つの語で書かれる。

大きい単位と、小さい単位を組み合わせる。

たとえば、二十五と十九。

そのあとに括弧で、806.9グラムとある。

つまり、換算した値が添えられている。

九点とも、この形で書かれる。

なぜ、重さを書くのか

銀は、地金としての値打ちがある。

作られた器も、溶かせば銀に戻る。

だから、重さがそのまま価値になる。

十八世紀の帳簿には、銀器が重さで記されていた。

注文するときも、重さで見積もる。

その習慣が、記録の欄に残っている。

前の回の記事で、鐔の重さについて書いた。

あちらは、持って使う道具だから重さが要った。

こちらは、値打ちの単位だから重さが要る。

同じ欄でも、意味が違う。

そして、古い単位が併記されているのは、元の帳簿に戻れるようにするためだろう。

両手付きの鉢
コルネリウス・キアステーデ《両手付きの鉢》1700年から1710年。館の記録では、銀。全体で縦13.7センチ、横35.1センチ、重さ806.9グラム。口の直径24.6センチ、高台の直径12.2センチ。番号は38.63。メトロポリタン美術館蔵。コルネリウス・キールステーデ《両手付きの鉢》メトロポリタン美術館蔵

浅く広い鉢である。

胴は上へ向かって開く。

胴の面に、縦の筋が幾本も入る。

筋のあいだに、葉の文様が打ち出される。

葉は左右対称で、中央が盛り上がる。

正面に、楕円の枠がある。

枠の中に、細い文字が刻まれる。

両側に、大きな把手が付く。

把手は細い帯を巻いた形だ。

表面に、丸い粒が連なる。

高台は低く、円い。

九点でいちばん幅が広い一点である。

部位ごとに、寸法が書かれる

九点の寸法の欄は、いずれも長い。

全体の大きさのあとに、部位ごとの数字が続く。

口の直径。

高台の直径。

あるいは、底の直径。

そして一点では、把手の位置での幅と、注ぎ口の位置での幅まで書かれる。

なぜ、そこまで細かいのか。

器の形は、輪郭の変化でできている。

口が広く、胴が膨らみ、高台が締まる。

その三つの数字があれば、輪郭が想像できる。

全体の高さと幅だけでは、分からない。

前の回の記事で、寸法の欄が形を書かない例を何度も見た。

銀器では、部位の数字がその不足を埋めている。

蓋付きの水差
ジョゼフ・エドワーズ(子)《蓋付きの水差》1782年。館の記録では、銀。高さ15.2センチ、重さ300グラム。口の直径6.8センチ、高台の直径7.5センチ。把手の位置での幅10.8センチ、注ぎ口の位置での幅10.8センチ。番号は49.158。メトロポリタン美術館蔵。ジョゼフ・エドワーズ(子)《蓋付きの水差》メトロポリタン美術館蔵

背の高い水差である。

胴は下でふくらみ、上へすぼまる。

肩から、細長い注ぎ口が前へ伸びる。

注ぎ口は上へ反り、先が細い。

右に、把手が大きな輪を描く。

把手の上端と下端が、胴に留まる。

蓋は丸く盛り上がる。

頂に、松かさの形のつまみが立つ。

蓋と胴の境に、細い段が回る。

胴の正面に、うっすらと文字の跡がある。

高台は低く、二段になる。

面は磨かれ、光を柔らかく返す。

把手と注ぎ口の幅が、同じである

いま見た一点では、二つの幅が同じ数字である。

把手の位置で10.8センチ、注ぎ口の位置でも10.8センチ。

つまり、左右がほぼ釣り合っている。

注ぎ口の突き出しと、把手の張り出しが等しい。

作るときに、そう調整したのだろう。

置いたときの見え方が、それで安定する。

館の記録は、その意図を書かない。

二つの数字を並べるだけである。

同じ数字が並んでいることに、読む側が気づくしかない。

前の回の記事で、数字の関係から読む話を何度も書いてきた。

蓋付きの両手杯
ジェイコブ・ハード《蓋付きの両手杯》1735年から1740年。館の記録では、銀。全体で縦26.4センチ、横25.6センチ、重さ1296.9グラム。本体だけで高さ17.1センチ、重さ968.7グラム。番号は52.170。メトロポリタン美術館蔵。ジェイコブ・ハード《蓋付きの両手杯》メトロポリタン美術館蔵

蓋の付いた大きな杯である。

胴は下でふくらみ、上でわずかに開く。

胴の中ほどに、細い帯が一本回る。

正面に、円い枠がある。

枠の中に、組み合わせた文字が刻まれる。

両側に、大きな把手が付く。

把手は上で渦を巻き、下でも渦を巻く。

蓋は丸く盛り上がり、段が付く。

頂に、円い台とつまみが立つ。

高台は広く、二段に締まる。

面は磨かれ、影がなめらかに流れる。

九点でいちばん重い一点である。

本体と蓋で、重さを分ける

いま見た一点の寸法の欄には、重さが二つある。

全体の重さと、本体だけの重さ。

差を取れば、蓋の重さが出る。

千三百グラムのうち、九百七十が本体である。

つまり、蓋は三百グラムほど。

なぜ、分けて書くのか。

番号の末尾に、二つの小文字が付いているからだ。

蓋と本体が、別々に数えられている。

数えられているなら、別々に測る。

前の回の記事で、分けられるものは分けて数える原則を何度も見た。

重さの欄でも、同じ原則が働いている。

都市の欄が、三つに分かれる

九点の都市の欄を並べてみる。

ニューヨークが五点。

ボストンが三点。

オールバニが一点。

北米の東海岸に集中している。

十八世紀から十九世紀にかけて、銀細工は都市の商売だった。

銀を持つ人がいて、注文する人がいる場所で成り立つ。

そして、都市ごとに刻印の形が違う。

その刻印から、作り手が分かる。

館の記録は、刻印について書かない。

しかし、作者の欄に名があるということは、刻印が読めたということだ。

前の回の記事で、名が残る条件を何度も見てきた。

銀器では、刻印を押す資格が条件になる。