暮らしと名画

歌は、開いた口で示される——ドガ・ドーミエ・暁斎ほか九点

ヴィーナを弾きながら歌う宮廷の女性
ムハンマド・リザーヴィー・ヒンディー《ヴィーナを弾きながら歌う宮廷の女性》1760年ごろ。館の記録では、紙にガム・テンペラ、インク、金。頁は31.1×26.2センチ。番号は2013.349。クリーヴランド美術館蔵。ムハンマド・リザーヴィー・ヒンディー《ヴィーナを弾きながら歌う宮廷の女性》クリーヴランド美術館蔵

縦長の頁である。

頁は31.1×26.2センチある。

周りに、幾重もの枠がある。

外は淡い黄褐色である。

内側は、濃い灰色である。

その中に、楕円の窓がある。

窓の中に、人がいる。

女は横向きに立つ。

顔は左を向く。

髪は、薄い布に覆われる。

布は、頭から肩へ流れる。

耳には、大きな輪の飾りがある。

首には、幾重もの飾りがある。

胸元にも、玉が並ぶ。

衣は紫で、細かい点の模様がある。

手には、長い楽器がある。

棹は太く、まっすぐである。

胴は、丸い実からできている。

館の記録では、瓢箪の胴だという。

指は、弦の上にある。

爪には、赤い染料が塗られる。

口は、わずかに開く。

館の記録は、こう書いている。

口が開き、歯と舌が見えれば、歌っているのである。

見分けの基準が、記録に書かれている。

これは珍しいことである。

多くの絵では、歌かどうかは判じにくい。

館の記録は、裏面の詩も訳している。

愛の杯に酔うという句がある。

別の詩人の句も添えられる。

海へ出る勇気がなければ、得るものはないという。

絵と詩が、一枚の紙の表裏にある。

館の記録では、宮廷の楽しみには順序があった。

音楽と、酒と、詩と、絵と、宝石である。

歌は、その筆頭に置かれている。

頭文字の上で、天使が歌う

五点目は、写本の一葉である。

交唱聖歌集の一葉:装飾頭文字とキリスト降誕
ベンヴェヌート・ディ・ジョヴァンニ《交唱聖歌集の一葉:装飾頭文字とキリスト降誕》1471年。館の記録では、羊皮紙にインク、テンペラ、金。紙は56×40センチ。番号は1952.282。クリーヴランド美術館蔵。ベンヴェヌート・ディ・ジョヴァンニ《交唱聖歌集の一葉:装飾頭文字とキリスト降誕》クリーヴランド美術館蔵

大きな一葉である。

紙は56×40センチある。

上のほうに、線が引かれる。

四本の線が、組になって並ぶ。

その上に、黒い四角が置かれる。

音符である。

線の下に、文字が並ぶ。

歌うための本だからである。

左に、大きな頭文字がある。

文字は、青と金でできる。

縦の棒に、竜が絡む。

竜の体は、緑と赤である。

文字の中に、場面がある。

小屋の中に、人が集まる。

中央に、幼子がいる。

その周りに、跪く人がいる。

上のほうに、別の姿がある。

館の記録では、天使たちである。

天使は、歌っているという。

口が開いているらしい。

しかし、この寸法では小さい。

顔の幅は、数ミリしかない。

縁には、花と葉の飾りが回る。

下には、紋章がある。

館の記録では、この紋章が来歴を示す。

ある施設のために注文された聖歌集だという。

注文したのは、その長である。

館は、そう説明している。

頭文字が導くのは、降誕の日の歌である。

最初の一句も、記録に引かれている。

この日、天の王が、という言葉で始まる。

歌詞と、絵と、音符が同じ頁にある。

見開いて、歌いながら使う本である。

だから、寸法が大きい。

56センチの紙なら、離れていても読める。

何人かで、同じ頁を見ることができる。

女神が、竪琴を持って立つ

六点目は、大きな油彩である。

叙事詩の女神カリオペ
シャルル・メニエ《叙事詩の女神カリオペ》1798年。館の記録では、油彩・カンヴァス。全体は275×177センチ。番号は2003.6.4。クリーヴランド美術館蔵。シャルル・メニエ《叙事詩の女神カリオペ》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

全体は275×177センチある。

人の背丈の、一倍半以上ある。

背景は、灰色の雲である。

雲は厚く、渦を巻く。

右上に、暗い塊がある。

人の頭の形をしている。

館の記録では、古い詩人の胸像である。

画面の中央に、女が立つ。

体は正面を向く。

顔は横を向く。

髪には、葉の冠がある。

衣は白い。

胸の下で、帯が締まる。

腰には、青い布が巻かれる。

裾は、足元まで落ちる。

足は裸である。

左手に、竪琴がある。

竪琴は、体の前に立つ。

弦は、細い線で描かれる。

右手には、細い棒がある。

巻物のようにも見える。

口は、閉じている。

歌っている姿ではない。

館の記録では、この女神は音楽と歌と踊りの神である。

そして、叙事詩の神でもある。

王や君主に、弁舌の力を与えるという。

館は、そこまで書いている。

背後の胸像は、その詩人を指す。

二つの長い詩を残した人である。

女神は、その像の前に立っている。

館の記録では、これは五点組の一つである。

ある商人が、自邸のために注文した。

五点で、詩神たちが揃う。

一点ずつが、人の背丈を超える。

並べれば、部屋の壁が埋まる。

歌の神を描きながら、口は閉じている。

描かれるのは、歌そのものではない。

歌を司る者の姿である。

子の枕元で、唄をうたう

七点目は、油彩である。

日本の子守唄
アリス・パイク・バーニー《日本の子守唄》1903年ごろ。館の記録では、油彩・カンヴァス。91.4×152.6センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。アリス・パイク・バーニー《日本の子守唄》スミソニアン協会蔵

横長の画面である。

91.4×152.6センチある。

部屋の中である。

背景は、暗い緑と褐色である。

上のほうに、格子の窓がある。

窓からは、淡い光が入る。

右奥に、低い台がある。

台の上に、包みが置かれる。

画面の左に、女が座る。

女は前へ屈む。

顔は下を向く。

髪は結い上げられる。

黒い衣を着る。

袖は広い。

背には、褐色の帯が見える。

右腕を、前へ伸ばす。

その手に、小さなものを持つ。

玩具らしい。

画面の中央に、子がいる。

子は、床に横たわる。

顔は上を向く。

髪は乱れる。

目は、閉じているように見える。

女の口は、よく見えない。

顔が下を向いているからである。

歌っているかどうかは、絵からは分からない。

分かるのは、題だけである。

題は、日本の子守唄という。

館の記録には、それ以上の説明がない。

描いた人は、外国の画家である。

見たものを描いたのか、想像なのかも分からない。

画面の作りだけを見ておく。

人物は、画面の左半分にいる。

右半分は、暗い部屋である。

横に長い画面の、半分が空いている。

その空白が、静けさを作る。

光は、上の窓から入る。

弱い光である。

夜に近い時刻だろう。

子守唄の絵として、それは理にかなう。