星は、画面に一つしかない——ディ・パオロ・デューラー・ドガほか九点

石の玉座に、彫像の女がゆったりと座っている。
額の帯には、知恵を意味する語が刻まれている。
玉座の左右にも、小さな女人像が浮き彫り風に添えられている。
左は冠の女の柱像、右は翼のある女の円板である。
右手は人さし指を立てて高く上げ、左手は下で星の輪をつかんでいる。
輪の星を数えると、十あたりで手の甲の陰に入り、数えきれなくなる。
館の記録では、知恵の擬人像を彫像として描いた素描だという。
灰色の淡彩だけで、石の彫刻に見えるように仕上げてある。
星の冠は、知恵の伝統的な持ち物だと記録は書く。
紙の隅には、フラゴナール、息子、と黒鉛の署名がある。
その下には、知恵、革命の素描、という語も書き込まれている。
革命の時代のフランスで、知恵は星の輪を手に、指を天へ向けた。
かぶらずに、手に提げているのがおもしろい。
授けるための冠かもしれないが、記録はそこまで言わない。
デューラーの聖母と、フラゴナールの知恵。
九点のうち二点で、星は輪につながれて、人の持ち物になっている。
胸の星は、探さないと見えない
身に着ける星には、もっと小さいものもある。

銀髪の大きなかつらの男が、緑の机の前に座っている。
金糸の刺繡が、上着の前とそでを埋め尽くしている。
机には分厚い書類が広げられ、赤い封蠟が見える。
燭台のろうそくからは、細い煙がひと筋立ちのぼる。
館の記録では、ルイ15世の外務を担ったデュ・テイユの肖像である。
1738年のウィーン条約で、交渉役を務めた人だという。
その条約で、ロレーヌ公国がフランスへ渡ったと記録は書く。
くつろいだ姿勢は落ち着きを、鋭い目つきは抜け目のなさを伝えるとある。
姿勢と目つきまで、記録は読み取っている。
手にした印章も、銀めっきの筆記具も、この交渉を指しているとある。
ろうそくの煙は、封蠟を溶かした直後、つまり調印がすんだばかりの印だという。
では、星はどこにあるのか。
記録では、聖ラザロ騎士団の桃色のリボンと星が、胸元にかろうじて見えるという。
探すと、金の刺繡のあいだに、それらしい桃色がのぞいている。
星の形までは、なかなか見分けられない。
金の刺繡がまばゆすぎて、肝心の星がまぎれてしまうのである。
この星は、空の星ではない。
胸に着ける、身分のしるしとしての星である。
星の名で呼ばれる記章が、位の高さを語る。
九点のなかで、いちばん見つけにくい星でもある。
星は、人の名になる
次の星は、大きく金色に描かれている。
ただし、意味はもう天体ではない。

桃色の壁の前で、青いカーテンが左右に開かれている。
中央の緑の輪のなかに、軍服の男の胸像が描かれている。
その頭の上に、金色の星がひとつ、大きく輝いている。
星に掛かる赤い帯には、アメリカの星、という句が記されている。
男はワシントン将軍である。
名前も、胸像の下の帯に書き込まれている。
上では鷲が翼を広げて盾を抱え、下には旗やラッパが束ねられている。
台座の赤い札には、句が読める。
戦いにおいて第一、平和において第一、祖国の守りにおいて第一。
1776年7月4日の、独立の日付も添えられている。
この絵の星は、空に光る天体ではなく、ひとりの人を指す呼び名である。
アメリカの星とは、ワシントンその人のことである。
足元の旗の青地にも、小さな星が散っている。
国も人も、星の形で飾る時代が始まっていた。
星と呼ばれた人は、舞台にもいる。

板張りの舞台の床が、画面の大半を占めている。
床には、板の継ぎ目の線が斜めに何本も走る。
手前の踊り子がひとり、あごを上げ、うっとりと上を向いている。
右手は髪へ、左手は下へ垂れている。
髪には花が挿され、首には黒いリボンが結ばれている。
珊瑚色の胴着から、白い薄布のスカートが大きく広がる。
手首の金の飾りと、桃色の爪先の靴。
奥には、青緑の衣装の踊り子たちが群れて踊っている。
左の縁には、暗い赤の四角がのぞく。
桟敷の口だろう。
紙は生成りで、パステルの粉がその地に載っている。
右下に、大きな署名がある。
題のエトワールは、フランス語で星を意味する語である。
だが画面のどこにも、星の形はない。
星と呼ばれているのは、手前でひとり踊るこの人である。
アメリカの星が将軍なら、こちらの星は舞台の花形である。
ひときわ明るく輝くものを、人は星の名で呼んできた。
九点のうち二点は、星の姿を描かずに、人を星と呼んでいる。
題箋のなかに、星の字がある
星が字になってしまった絵もある。