画家を知る

九点が、七通りの経路で入る——ギルバート・スチュアート

ジョージ・ワシントン
ギルバート・スチュアート《ジョージ・ワシントン》1803年から1805年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.6センチ、横61.4センチとされる。出所の行は「ジーン・マッギンリー・ドレイパーの寄贈」。番号は1954.9.2。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《ジョージ・ワシントン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

先の一点と、同じ人物の肖像である。

こちらは、顔がやや左を向く。

白い髪の膨らみ方も、ほぼ同じである。

黒い上着に、白い襟布。

胸もとの襞の作り方も似ている。

背景は暗く、左上がわずかに明るい。

先の一点より、背景が沈む。

顔の陰影は柔らかく、輪郭が溶ける。

寸法は、先の一点と二ミリしか違わない。

同じ規格の布に、同じ形式で描かれている。

同じ画家が、同じ人物を何度も描いた。

その繰り返しが、記録の上でも見て取れる。

ウィリアム・ハーティガン博士(か)
ギルバート・スチュアート《ウィリアム・ハーティガン博士(か)》1793年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦76.2センチ、横63.5センチとされる。番号は1942.8.16。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《ウィリアム・ハーティガン博士(か)》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

楕円の形の中に、男が描かれる。

四角い画面の四隅が、暗く塗り込まれている。

そのため、楕円の窓から覗いたように見える。

男は上半身で、体は右を向く。

顔はこちらへ戻され、目が合う。

白い髪が両側で膨らみ、後ろで束ねられる。

黒い上着に、白い襟布。

襟布は幾重にも重なる。

左には、暗い色の器具のようなものが立つ。

背景は褐色で、平らである。

題の末尾には、括弧つきで疑問符が付く。

描かれた人物が、その人であるか確定していない。

二人のワシントンと、七人の別人

九点に描かれた人物を数えると、八人になる。

同じ人物が二度描かれているためだ。

初代大統領の肖像が二点ある。

残る七点は、別々の人物である。

商人、外交官、法律家、若い女性、そして興行師。

同じ画家が、これだけ違う立場の人を描いている。

肖像画家の仕事は、注文を受けて描くことだ。

だから、描かれる人の顔ぶれは注文主の広がりを示す。

九点の顔ぶれは、その画家の顧客の幅を映している。

そして、同じ人物を繰り返し描くことも仕事のうちだった。

需要があれば、同じ肖像を何点も作る。

規格の布を使うのは、その繰り返しに向くからでもある。

一族の名で贈る

九点のうち一点は、一族の名による寄贈である。

ジェイ家の寄贈、と書かれる。

個人名ではなく、家の名だ。

描かれているのも、その家の人物である。

つまり、家に伝わった肖像が、家の名で贈られた。

こういう寄贈は、来歴が短くなりやすい。

描かれてから贈られるまで、同じ家にあるからだ。

売買がなく、画商も入らない。

一族の名の行は、そういう経路を示している。

ジョン・ジェイ
ギルバート・スチュアート《ジョン・ジェイ》1794年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦131センチ、横102センチとされる。出所の行は「ジェイ家の寄贈」。番号は2009.132.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《ジョン・ジェイ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点で二番目に大きい画面である。

男が椅子に座り、四分の三身で描かれる。

黒い衣の上に、赤い長衣を重ねる。

赤い衣は肩から下へ大きく落ちる。

襟と裏地は黒く、縁取りになる。

首には白い布が巻かれる。

白い髪は短く、耳の上で巻く。

右手を、書物の上に置く。

背後には、太い柱が立つ。

その左には、赤い布が垂れる。

上部には、彫刻らしい形が見える。

法服をまとった姿である。

その人の職務を示す装いだ。

移管された一点

九点のうち一点は、前の館からの移管である。

コーコラン・コレクションと書かれ、括弧が続く。

括弧の中は、匿名の寄贈、1979年。

前の館では、贈り主が名を出さなかった。

その事実まで、括弧の中に残されている。

移管の際に、この括弧を省くこともできたはずだ。

しかし省かれていない。

匿名であることも、記録の一部だからである。

こうした括弧の書き方については、括弧の中に、前の館があるでも扱った。

サラ・シッペン・リー
ギルバート・スチュアート《サラ・シッペン・リー》1798年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.98センチ、横60.8センチとされる。出所の行は「コーコラン・コレクション」。括弧の中は、匿名の寄贈、1979年である。番号は2014.136.137。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《サラ・シッペン・リー》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

若い女性が、上半身で描かれる。

顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。

髪は明るく、額の上で細かく巻く。

肩まで巻き毛が垂れる。

衣は白い薄物で、胸もとが開く。

肩には、暗い色の布が掛かる。

首から、長い金の鎖が垂れる。

鎖の先には、楕円の飾りが下がる。

飾りの中には、小さな絵が入る。

背景は褐色と青緑で、雲のように広がる。

頬に強い赤みが差す。

顔と胸もとの肌が、画面の中心を作る。

ロバート・リストン
ギルバート・スチュアート《ロバート・リストン》1800年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.8センチ、横61センチとされる。出所の行は「チェスター・デイル・コレクション」。番号は1957.10.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《ロバート・リストン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

年配の男が、上半身で描かれる。

体は右を向き、顔はこちらへ戻す。

白い髪が両側で大きく膨らむ。

顔は面長で、鼻が高い。

黒い上着に、白い襟布。

襟布は結ばれず、垂れる。

腕を胸の前で組む。

右には、赤い布が上から垂れる。

左奥には、青い空と雲が見える。

室内と屋外が、画面の左右で分かれる。

顔の肌はなめらかで、赤みが薄い。

背景の赤が、画面の三分の一を占める。