九点が、七通りの経路で入る——ギルバート・スチュアート
同じ画家の九点が、七つの別々の経路で一つの館に集まった。購入は一点もなく、寄贈と移管だけである。七十四年かけて届いた九点の行を並べると、館の収蔵品の成り立ちが見えてくる。未完成の一点も含まれている。六点は、同じ規格の布に描かれている。

九点が、七通りの経路で入る
一人の画家の作品が、九点ある。
ギルバート・スチュアート。十八世紀末から十九世紀初めの肖像画家である。
その九点の出所の行を並べると、七通りに分かれる。
アンドルー・W・メロン・コレクションが三点。
チェスター・デイル・コレクションが一点。
ある夫人の寄贈が一点。
別の夫人の寄贈で、故人を記念したものが一点。
ある人物の寄贈で、両親を記念したものが一点。
一族の名による寄贈が一点。
そして、前の館からの移管が一点。
同じ画家の作品が、七つの別々の経路で一つの館に集まった。
経路が違えば、番号も違う
九点の番号を並べると、年が散らばる。
1940年、1942年が二点、1950年、1954年、1957年、1974年、2009年、2014年。
いちばん早い受入と、いちばん遅い受入で、七十四年ひらく。
七十四年かけて、九点が集まったことになる。
館が集めようとしたのか、集まってきたのか。
購入で入ったものは一点もない。
九点とも、寄贈か、収集の一部か、移管である。
つまり、館が買い足したのではない。
外から届いたものが積み重なった結果である。

九点でいちばん大きい画面である。縦は二メートル四十五センチ。
黒い衣の男が、氷の上を滑る。
腕を胸の前で組み、体をやや左へ傾ける。
顔は横を向き、遠くを見る。
黒い上着に、膝までの脚衣。
白い襟布が、首もとで結ばれる。
つばの広い黒い帽をかぶる。
足には、金具のついた靴を履く。
氷は灰色で、うっすらと筋が入る。
背後には、細い木立と靄が広がる。
その奥に、小さな人影が何人も見える。
いずれも氷の上にいる。
空は白く、輪郭がない。
全身像でありながら、動きの途中を描いている。

年配の男が、上半身で描かれる。
白い髪が耳の上で膨らみ、後ろで束ねられる。
束ねた髪は、黒い紐で結ばれる。
顔はやや右を向き、目はこちらを見ない。
頬に赤みが差し、口もとが引き締まる。
黒い上着の下に、白い襟布が重なる。
襞のある布が、胸もとで折り返る。
背景は暗い赤褐色で、上部が明るい。
赤い布が、右から左へ広がるようにも見える。
顔と襟布だけが、はっきりと形を持つ。
題には、括弧つきで呼び名が添えられる。
同じ人物の同じ形式の肖像が多いため、区別が要る。
三点が、同じ収集から来る
九点のうち三点は、同じ出所の行を持つ。
アンドルー・W・メロン・コレクションである。
番号を見ると、1940.1.6、1942.8.16、1950.18.1。
受入の年が、十年にわたって分かれている。
同じ収集の名でありながら、三度に分けて入った。
一つの収集が、一度に館へ渡るとは限らない。
館の最初の受入については、番号の頭が、1937であるで扱った。
その受入の後にも、同じ行の作品が届いている。
出所の行は同じでも、番号の年は違う。
前にも書いたとおり、行は群を示し、番号は時間を示す。
二つを並べて読めば、届き方まで見えてくる。
記念という語が、二度出てくる
九点の行のうち二点に、記念の語が入る。
ある人を記念して、という句である。
一つは、ある人物の名を記念する。
もう一つは、寄贈者の両親を記念する。
寄贈は、贈る側の行為である。
その行為を、誰かの名に結びつけることができる。
自分の名ではなく、別の人の名を残す。
館は、その意思をそのまま行に書く。
行が長くなっても、省略しない。
こういう句は、贈った人と記念された人の関係を示す。
親子であったり、恩人であったり。
行を読めば、その関係の一端が見える。

未完成の画面である。
地の布が、そのまま広い面積で見えている。
中央より上に、男の顔が描かれる。
顔だけが完成しており、色が入る。
白い髪が両側で膨らむ。
首もとに白い布が巻かれる。
その周囲は、褐色の線だけで下描きが残る。
顔の右には、馬の頭が線で描かれる。
馬の目と鼻先だけが、わずかに塗られる。
左にも、別の線が交差する。
下部には、手書きの文字が二か所ある。
布の織り目が、絵具の下から見える。
顔から描き始め、周囲を後回しにしたことが分かる。
制作の順序が、そのまま残った一点である。
寸法が、六点でそろう
九点の寸法を見ると、六点がほぼ同じである。
縦73.6センチから74.6センチ。
横60.8センチから61.6センチ。
差は一センチ前後にとどまる。
これは、当時の画材屋で売られていた規格の布である。
胸から上を描く肖像に使われた大きさだ。
規格の布を使うことについては、九点とも、寸法が一ミリも違わないでも扱った。
同じ寸法でそろえれば、注文の受け方も定型になる。
値段も、額の手配も決めやすい。
残る三点は、この規格から外れる。
全身像が一点、四分の三身が一点、そして未完成の一点。
用途が違えば、布の大きさも変わる。