画家を知る

九点が、七通りの経路で入る——ギルバート・スチュアート

同じ画家の九点が、七つの別々の経路で一つの館に集まった。購入は一点もなく、寄贈と移管だけである。七十四年かけて届いた九点の行を並べると、館の収蔵品の成り立ちが見えてくる。未完成の一点も含まれている。六点は、同じ規格の布に描かれている。

スケートをする人。ウィリアム・グラントの肖像
ギルバート・スチュアート《スケートをする人。ウィリアム・グラントの肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点が、七通りの経路で入る

一人の画家の作品が、九点ある。

ギルバート・スチュアート。十八世紀末から十九世紀初めの肖像画家である。

その九点の出所の行を並べると、七通りに分かれる。

アンドルー・W・メロン・コレクションが三点。

チェスター・デイル・コレクションが一点。

ある夫人の寄贈が一点。

別の夫人の寄贈で、故人を記念したものが一点。

ある人物の寄贈で、両親を記念したものが一点。

一族の名による寄贈が一点。

そして、前の館からの移管が一点。

同じ画家の作品が、七つの別々の経路で一つの館に集まった。

経路が違えば、番号も違う

九点の番号を並べると、年が散らばる。

1940年、1942年が二点、1950年、1954年、1957年、1974年、2009年、2014年。

いちばん早い受入と、いちばん遅い受入で、七十四年ひらく。

七十四年かけて、九点が集まったことになる。

館が集めようとしたのか、集まってきたのか。

購入で入ったものは一点もない。

九点とも、寄贈か、収集の一部か、移管である。

つまり、館が買い足したのではない。

外から届いたものが積み重なった結果である。

スケートをする人。ウィリアム・グラントの肖像
ギルバート・スチュアート《スケートをする人。ウィリアム・グラントの肖像》1782年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦245.5センチ、横147.4センチとされる。番号は1950.18.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《スケートをする人。ウィリアム・グラントの肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点でいちばん大きい画面である。縦は二メートル四十五センチ。

黒い衣の男が、氷の上を滑る。

腕を胸の前で組み、体をやや左へ傾ける。

顔は横を向き、遠くを見る。

黒い上着に、膝までの脚衣。

白い襟布が、首もとで結ばれる。

つばの広い黒い帽をかぶる。

足には、金具のついた靴を履く。

氷は灰色で、うっすらと筋が入る。

背後には、細い木立と靄が広がる。

その奥に、小さな人影が何人も見える。

いずれも氷の上にいる。

空は白く、輪郭がない。

全身像でありながら、動きの途中を描いている。

ジョージ・ワシントン。ヴォーン・シンクレア本
ギルバート・スチュアート《ジョージ・ワシントン。ヴォーン・シンクレア本》1795年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦73.8センチ、横61.1センチとされる。番号は1940.1.6。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《ジョージ・ワシントン。ヴォーン・シンクレア本》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

年配の男が、上半身で描かれる。

白い髪が耳の上で膨らみ、後ろで束ねられる。

束ねた髪は、黒い紐で結ばれる。

顔はやや右を向き、目はこちらを見ない。

頬に赤みが差し、口もとが引き締まる。

黒い上着の下に、白い襟布が重なる。

襞のある布が、胸もとで折り返る。

背景は暗い赤褐色で、上部が明るい。

赤い布が、右から左へ広がるようにも見える。

顔と襟布だけが、はっきりと形を持つ。

題には、括弧つきで呼び名が添えられる。

同じ人物の同じ形式の肖像が多いため、区別が要る。

三点が、同じ収集から来る

九点のうち三点は、同じ出所の行を持つ。

アンドルー・W・メロン・コレクションである。

番号を見ると、1940.1.6、1942.8.16、1950.18.1。

受入の年が、十年にわたって分かれている。

同じ収集の名でありながら、三度に分けて入った。

一つの収集が、一度に館へ渡るとは限らない。

館の最初の受入については、番号の頭が、1937であるで扱った。

その受入の後にも、同じ行の作品が届いている。

出所の行は同じでも、番号の年は違う。

前にも書いたとおり、行は群を示し、番号は時間を示す。

二つを並べて読めば、届き方まで見えてくる。

記念という語が、二度出てくる

九点の行のうち二点に、記念の語が入る。

ある人を記念して、という句である。

一つは、ある人物の名を記念する。

もう一つは、寄贈者の両親を記念する。

寄贈は、贈る側の行為である。

その行為を、誰かの名に結びつけることができる。

自分の名ではなく、別の人の名を残す。

館は、その意思をそのまま行に書く。

行が長くなっても、省略しない。

こういう句は、贈った人と記念された人の関係を示す。

親子であったり、恩人であったり。

行を読めば、その関係の一端が見える。

ジョン・ビル・リケッツ
ギルバート・スチュアート《ジョン・ビル・リケッツ》1795年から1799年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦74.6センチ、横61.5センチとされる。出所の行は「ロバート・B・ノイズ夫人の寄贈、エリシャ・リッグズを記念して」。番号は1942.14.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ギルバート・スチュアート《ジョン・ビル・リケッツ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

未完成の画面である。

地の布が、そのまま広い面積で見えている。

中央より上に、男の顔が描かれる。

顔だけが完成しており、色が入る。

白い髪が両側で膨らむ。

首もとに白い布が巻かれる。

その周囲は、褐色の線だけで下描きが残る。

顔の右には、馬の頭が線で描かれる。

馬の目と鼻先だけが、わずかに塗られる。

左にも、別の線が交差する。

下部には、手書きの文字が二か所ある。

布の織り目が、絵具の下から見える。

顔から描き始め、周囲を後回しにしたことが分かる。

制作の順序が、そのまま残った一点である。

寸法が、六点でそろう

九点の寸法を見ると、六点がほぼ同じである。

縦73.6センチから74.6センチ。

横60.8センチから61.6センチ。

差は一センチ前後にとどまる。

これは、当時の画材屋で売られていた規格の布である。

胸から上を描く肖像に使われた大きさだ。

規格の布を使うことについては、九点とも、寸法が一ミリも違わないでも扱った。

同じ寸法でそろえれば、注文の受け方も定型になる。

値段も、額の手配も決めやすい。

残る三点は、この規格から外れる。

全身像が一点、四分の三身が一点、そして未完成の一点。

用途が違えば、布の大きさも変わる。