作品を知る

雲の上に、人が座る——クロス・バロッチ・龔賢ほか九点

水彩第三十一番、雲のある風景
アレン・タッカー《水彩第三十一番、雲のある風景》1930年頃。館の記録では、水彩。50.8×35.6センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。アレン・タッカー《水彩第三十一番、雲のある風景》スミソニアン協会蔵

花のような雲

パステルの一点は、まったく違う。

44.5×54.2センチ。

横長の画面である。

画面の中央に、舟が一艘ある。

黒い船体で、白い帆を上げている。

舟には、人が二人乗っている。

一人は舳先に立ち、一人は座っている。

いずれも輪郭だけで、顔は見えない。

その周りは、色の霧である。

橙、青、緑、桃色、紫。

色は互いに溶け合い、境目がない。

雲の形をしているようにも、花のようにも見える。

館の記録の題は《花咲く雲》という。

つまり、雲と花を重ねた題である。

館の記録の技法欄は、非常に細かい。

パステルに加え、ぼかし、掻き起こし、筆の跡がある。

紙は青灰色で、色の付いた繊維が混ざる。

そしてその紙が、褐色に変化している。

つまり、いま見えている色は、当初の色ではない。

館は、その変化まで記録している。

花咲く雲
オディロン・ルドン《花咲く雲》1903年頃。館の記録では、青灰色の網目紙にパステル、ぼかし、掻き起こし、筆。44.5×54.2センチ。番号は1990.165。シカゴ美術館蔵。オディロン・ルドン《花咲く雲》シカゴ美術館蔵

雲が、器の模様になる

九点のうち一点は、器である。

磁器の花瓶で、高さ26.7センチ。

口径は11.4センチ。

台を含めると、高さ29.8センチになる。

形は細長い筒である。

上のほうがわずかに広く、口は小さい。

全体が薄い緑の釉で覆われている。

胴の下のほうに、帯状の文様がある。

渦を巻いた形が、横に連なる。

雲を図案化したものである。

文様は型で押され、彫りが加えられている。

釉が溜まったところが濃く見える。

館の記述によれば、この形は中国の器に倣ったものである。

竹の太い節を思わせる形だという。

館の記録には、底に彫られた銘も写されている。

さらに、収める箱の蓋にも印があるという。

その印は、宮内の技芸員であることを示す。

雲帯文の筒形花瓶
三代清風与平《雲帯文の筒形花瓶》1893〜1914年。館の記録では、型押しと彫りの文様に緑釉を掛けた磁器。高さ26.7センチ。口径11.4センチ。番号は2022.225。クリーヴランド美術館蔵。三代清風与平《雲帯文の筒形花瓶》クリーヴランド美術館蔵

地名に、雲が入っていた

最後の一点は、語の外れである。

水彩とグワッシュで、紙は26.7×36.6センチ。

台紙まで含めると35.5×45.2センチになる。

画面の左右に、大きな木立がある。

葉は緑と黄と赤で、秋らしい。

中央は開けていて、奥へ坂が下る。

その先に、白い建物が小さく見える。

宮殿らしい。

手前の広場に、人が二十人ほど集まっている。

女性は大きく広がったスカートをはく。

子どもも数人いる。

空は淡い黄色で、雲はほとんどない。

館の記録の題には、ある公園の名が入っている。

その地名の後半が、英語の雲と同じ綴りである。

つまり、雲の語で引いたら、地名が引っかかった。

画面に、雲はほとんど描かれていない。

館の記録には、紙の裏の書き込みも写されている。

そこには、印刷の指定らしい語が並ぶ。

至急、寸法、比率、生成り、といった語である。

かつて複製に使われたのだろう。

サン=クルーの公園にて
コンスタン・トロワイヨン《サン=クルーの公園にて》十九世紀。館の記録では、水彩とグワッシュ。紙は26.7×36.6センチ。台紙は35.5×45.2センチ。番号は1978.132。クリーヴランド美術館蔵。コンスタン・トロワイヨン《サン=クルーの公園にて》クリーヴランド美術館蔵

雲の形は、三つに分かれる

雲が描かれた七点で、形を数えたい。

丸く盛り上がる形が、三点。

渦を巻く形が、二点。

横に伸びる帯の形が、二点である。

丸い形は、夏の空によく出る雲である。

下が平らで、上が盛り上がる。

三点とも、その特徴が描かれていた。

渦を巻く形は、版画の二点だった。

こちらは、実際の雲というより記号に近い。

線を渦にすると、雲らしく見える。

彫って表すには、渦がいちばん分かりやすい。

横に伸びる帯は、東アジアの二点である。

山の中腹を横切る白い帯として描かれる。

これも、記号に近い。

実際の霧は、もっと不定形である。

つまり七点のうち四点で、雲は記号として描かれている。

観察に基づくのは、三点だけである。

その三点は、いずれも十九世紀以降の作だった。

雲を観察して描くようになったのは、比較的新しい。

前に空を扱った回でも、同じ時期の変化に触れた。

屋外で描く習慣が、雲の描き方を変えている。

数え直す

九点を並べ直したい。

雲が描かれているのは、七点。

そのうち、白い雲が四点。

色の付いた雲が三点である。

雲の上に人がいるのは、二点。

雲が塗り残しで作られているのは、二点だった。

そして、雲が文様になっているのが一点ある。

この回で、いちばん大きな作品

今回の九点には、極端な大きさの差があった。

いちばん大きいのは、中国の掛幅である。

画面だけで325.1×112.4センチ。

表装を含めると、高さが四メートルを超える。

この連載でこれまで扱ったなかでも、最大である。

いちばん小さいのは、版画の一点だった。

紙が15.5×10.7センチしかない。

葉書ほどの大きさである。

面積で比べると、二百倍以上の差になる。

そして、大きいほうの雲は塗り残しだった。

小さいほうの雲は、渦を巻いた線である。

面積が広いほど、塗り残しの効果が出る。

四メートルの紙に白い帯が入ると、その白さが目に残る。

十五センチの紙では、白を残しても目立たない。

だから線で彫るしかない。

大きさが、雲の描き方を決めている。

そう考えると、寸法の欄は技法の欄でもある。

館の記録は、その二つを別の欄に書いている。

だが、読むときには合わせて読むほうがよい。

四メートルの掛幅と、十五センチの版画。

同じ雲の語で集まった二点が、両端にある。