作品を知る

赤は、面積の小ささで効く——コワペル・フラゴナール・ムンクほか九点

前垂れ一枚だけが、赤い

四点目は、役者絵である。

赤い前垂れだけをまとう男に扮する三代目大谷広次
勝川春章《赤い前垂れだけをまとう男に扮する三代目大谷広次》1770年ごろ。館の記録では、木版多色摺。画面は31.6×14センチ。番号はJP456。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《赤い前垂れだけをまとう男に扮する三代目大谷広次》メトロポリタン美術館蔵

細長い縦の版画である。

31.6×14センチしかない。

画面の左に、格子戸がある。

その前に、男がひとり立っている。

上半身は裸で、腹と胸が丸く描かれている。

腰から下に、赤い布を巻いている。

布は前で重なり、白い丸の紋が一つ入る。

脚は素足で、水の中に立っているらしい。

足もとに、波の線が横に走る。

顔は右を向き、口を結ぶ。

髪は乱れ、頭の上で結ばれている。

肩には、細い棒のようなものが幾本も刺さっている。

背後の壁は黄土色である。

赤は、腰の布にしか使われていない。

館の札は「刀」「男性」「役者」の三つである。

つまり館は、赤を札に入れていない。

しかし題には、赤い前垂れという語がある。

木版では、赤は一枚の版で刷られる。

その一枚の版が刷るのは、この布だけである。

つまり赤の版は、画面の一割ほどのために彫られている。

版木を一枚増やすには、彫る手間と摺る手間が増える。

それでも赤を入れるのは、その一割が画面を決めるからである。

裸の胴の肌色と、格子戸の黄土と、腰の赤。

三つの色だけで、この画面は成り立っている。

そして白い丸の紋が、赤の上に一つだけ抜かれている。

抜きの白は、摺らなかった部分である。

赤の版に穴を開けておけば、そこに紙の白が残る。

一色の中に、二つの働きが入っている。

緑の山に、赤い衣がひとつ

五点目は、横に長い巻子である。

仙人の山
陳汝言《仙人の山》1300年から1370年。館の記録では、巻子・絹本着色。画のみで33.4×97.3センチ。番号は1997.95。クリーヴランド美術館蔵。陳汝言《仙人の山》クリーヴランド美術館蔵

横長の絹である。

画のみで33.4×97.3センチある。

画面は深い緑を基調としている。

山が幾重にも重なり、谷が奥へ続く。

山肌には、細かい点が打たれている。

谷のあいだには、高い松が立つ。

松の下に、小さな人が数人いる。

そのそばに、鹿と鶴がいる。

どれも指の先ほどの大きさである。

そして画面の上のほう、空にあたる部分に、赤い点がある。

小さな人が、鳥に乗っている。

その衣が赤い。

館の記録では、この深い緑の風景は人里離れた谷を見せている。

古の人々が、鹿と鶴に囲まれ、高い松の下にいる。

そして空には、赤い衣の仙人が鶴を操って楽土へ向かうという。

館の記録は、そう説明している。

さらに、この画家の生きた時代についても書いている。

王朝の交替という激動のさなかに、この理想の情景は作られたらしい。

作者は反乱の指導者を支持し、1371年に処刑された。

館の記録は、そこまで書いている。

つまりこの赤い点は、緑の山の中でただ一つの強い色である。

そして楽土へ向かう方向を示している。

九点のうち、赤がもっとも小さいのは、この一点である。

そして深い緑という色も、材料の話である。

緑青や石緑は、砕いた鉱物からとる。

厚く塗れば、粒が残って深い色になる。

この巻子の山肌に細かい点が打たれているのも、その粒の質と関わる。

赤い一点は、その粒の海の上に置かれている。

粒の緑と、平らな赤。

質の違いが、距離の違いにも見えてくる。

ただし、それは記録に書かれていない。

赤い髪が、画面のほとんどを占める

六点目では、赤が広がる。

赤い髪と緑の目の女(罪)
エドヴァルド・ムンク《赤い髪と緑の目の女(罪)》1901年。館の記録では、多色石版。図は69.8×40.2センチ。番号は1983.185。クリーヴランド美術館蔵。エドヴァルド・ムンク《赤い髪と緑の目の女(罪)》クリーヴランド美術館蔵

縦長の大きな版画である。

図は69.8×40.2センチある。

画面の中央に、女性の姿がある。

正面を向き、肩から上と胸が描かれている。

顔は青白く、輪郭線が細い。

目は大きく開かれ、瞳が緑である。

そして髪が、頭の上から画面の下まで流れ落ちている。

髪の色は、濃い橙がかった赤である。

一本ずつではなく、太い束として描かれている。

束は左右へ広がり、画面の幅いっぱいに達する。

背景は白いままである。

つまり画面の色は、赤と緑と、わずかな黄だけである。

館の記録では、長い髪はこの画家の作でくり返される主題である。

そして館は、当時の広がりについても書いている。

この画家の絵と版画は、ある都で広く出回り、展覧会で示され、画商や仲間を通して手に入った。

館の記録は、そう説明している。

つまりこの赤い髪は、多くの人の目に触れた。

多色石版では、色ごとに石を用意する。

この一枚で使われている色は少ない。

少ない色で強い印象を作る作り方である。

そして髪の赤は、輪郭線を持たない。

束と束のあいだに、白い紙が残る。

その白い隙間が、髪の流れを作っている。

つまり赤い面と、白い隙間が、交互に並んでいる。

塗った赤より、塗らなかった白のほうが形を決めている。

顔の青白さも、ほとんど紙の色である。

多色石版では、刷らない部分が最も安い色になる。

館の記録は、そこまでは書いていない。

ここから、赤のない三点

七点目からは、赤は小さくなるか、消える。