作品を知る

黄は、地になりやすい色である——清風与平・北斎・モリスほか九点

三枚の版が、黄土色を作る

四点目は、木版である。

聖母子と聖人たち、寄進者(ジローラモ・ダ・トレヴィーゾの素描に倣う)
アンドレア・アンドレアーニ《聖母子と聖人たち、寄進者》1610年ごろ。館の記録では、キアロスクーロ木版。番号は1925.985。クリーヴランド美術館蔵。アンドレア・アンドレアーニ《聖母子と聖人たち、寄進者(ジローラモ・ダ・トレヴィーゾの素描に倣う)》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

色は、黄土と褐色の二系統しかない。

画面の中央に、女性が座っている。

膝に幼子を抱えている。

その左右に、人物が立ち並ぶ。

手前には、ひざまずく人がいる。

背後には、太い柱と、階段のある壇がある。

明るい部分は、紙の色に近い黄土である。

暗い部分は、褐色の面で塗られている。

輪郭の線は、細く黒い。

三つの階調が、はっきりと分かれている。

館の記録では、この木版は三枚の版から、黄土と褐色で刷られた。

そして、ある画家が祭壇画のために作った単色の下絵にもとづくらしいという。

館の記録は、そう推測している。

つまりここでの黄土色は、明るさを担当する版の色である。

線を刷る版、中間を刷る版、暗い面を刷る版。

その三枚のうち、いちばん明るい一枚が黄土色を置いている。

色そのものを見せるためではなく、階調を作るための黄である。

そして刷り込まれた文字が、この一枚の作り手を分けている。

玉座の段には、彫った人の名が記されている。

下の中央には、刷った人の組み合わせ文字と、町の名と、年がある。

つまり下絵を描いた人、板を彫った人、刷った人の三者がいる。

館の記録は、彫った人について乾いた一行を添えている。

十六世紀のある証書では、その人は数学者と呼ばれている。

つまり版画は本業ではなく、素人として手がけていたらしいという。

三枚の版を重ねる仕事を、素人が引き受けている。

技法欄に、黄が四番目に並ぶ

五点目は、素描である。

塚の上に立つ馬
コルネリス・ザフトレーフェン《塚の上に立つ馬》1655年。館の記録では、黒鉛と赤チョークの上に黒・褐・黄・灰の水彩。図は14.1×17センチ。番号は2019.12。クリーヴランド美術館蔵。コルネリス・ザフトレーフェン《塚の上に立つ馬》クリーヴランド美術館蔵

横長の小さな紙である。

14.1×17センチしかない。

中央に、馬が一頭立っている。

後ろから見た姿である。

尻がこちらを向き、尾が垂れる。

首は右へ曲がり、顔が横向きに見える。

口には手綱がかかる。

体は灰色がかった褐色である。

たてがみと尾は、明るい黄土色である。

背中の一部にも、同じ色が差されている。

足もとは低い塚で、草がまばらに生える。

草にも黄が使われている。

背景は紙のままである。

下の中央に、組み合わせ文字と年が記されている。

館の記録では、この素描は売るために作られた。

頭文字と年が入っていること、そして仕上がりの丁寧さがそれを示すという。

そして館は、材料を並べている。

黄色の水彩と赤チョークを含む、幾つもの画材を組み合わせている。

館の記録は、そう説明している。

つまり黄色は、五つの画材のうちの一つとして数えられている。

さらに館は、姿勢についても書いている。

不格好で英雄的でない姿勢が、日常の情景と自然さへの好みを示すという。

そして紙には、透かしが入っている。

館の記録は、それがある町の紋章だと書いている。

紙を光にかざすと、その形が現れる。

つまりこの一枚には、見えない印がもう一つある。

黄色は紙の上にあり、透かしは紙の中にある。

素描を買う人は、そこまで確かめただろうか。

館の記録は、そこまでは書いていない。

織物の中で、黄は緯糸の一色である

六点目は、織物である。

スミレとオダマキ
ウィリアム・モリス《スミレとオダマキ》1883年。館の記録では、羊毛とモヘア、ジャカード織機による緯糸の綾織、二重織。全体は73.7×101センチ。番号は1934.329。クリーヴランド美術館蔵。ウィリアム・モリス《スミレとオダマキ》クリーヴランド美術館蔵

濃い藍色を地とする布である。

73.7×101センチある。

その地の上に、花と葉の模様が密に並ぶ。

葉は黄土色で、縁が波打つ。

葉脈は細い線で示される。

花は赤と桃色で、幾重にも花びらが重なる。

模様は上下左右にくり返される。

下の端には、房のような糸が残っている。

そこだけ、地の色が水色と緑に変わる。

館の記録では、作者はこうした織物が重い襞をつくって掛かることを思い描いていた。

豊かな色と流れる文様が、庭の壁を思わせるという。

そして館は、染料について詳しく書いている。

作者は、当時の英国で標準になっていた派手な化学染料ではなく、自然の染料を試すことを強く好んだ。

有機の染料は高価で手に入りにくく、染め手に古い方法を復活させることを求めた。

しかし光や洗いによって褪せにくく、より微妙な階調を生むことができた。

館の記録は、そう説明している。

さらに、裏側を見れば手織りの過程が分かるとも書いている。

縦の糸は水色と緑で、下の端に見える。

横の糸は赤、桃、黄、青など数色で、こちらの面からよく見える。

つまり黄は、数えられる緯糸の一色である。

そして自然の染料の黄は、褪せやすい色でもある。

館の記録は、有機の染料が光や洗いに強いと書いている。

しかし色ごとに強さは違う。

藍は比較的よく残り、黄は先に薄くなることが多い。

いま見える黄土色の葉が、織られたときの色とは限らない。

ただし、それは記録に書かれていない。

書かれているのは、染料の選び方と、裏側から分かる織りの手順である。

塗膜が、時とともに黄ばむ

七点目では、黄は望まれない色である。