美術史・技法

老いは、輪郭に出る——ブルーマールト・フィスハー・スーティンほか九点

老いを、笑いに使う

老人と老女
ダフィット・テニールス《老人と老女》18世紀の作とみられる。館の記録では、板に油彩。13.8×12センチ。番号は1918.865。クリーヴランド美術館蔵。ダフィット・テニールス《老人と老女》クリーヴランド美術館蔵

板の寸法は13.8×12センチ。

ほぼ正方形に近い。

九点のうち、正方形に近い形はこの一点だけである。

小さな板絵は、家の中に掛けるために作られた。

大きな壁を必要としないからである。

小さな板絵である。

縦13.8センチ、横12センチ。

二人の人物が、画面いっぱいに入る。

左の男は、赤い帽子をかぶる。

口を開けて笑っている。

歯が見える。

右の女は、白い頭巾を頭に巻く。

目を細め、こちらを見ている。

二人のあいだに、丸い器がある。

男が両手で持ち、女も手を添える。

酒か水を分け合っている場面らしい。

背景は暗く、何も描かれていない。

館の記録は、この一点を十八世紀の作とみている。

作者の名は十七世紀の画家だが、制作は後の時代らしい、という書き方である。

つまり、帰属に留保が付いている。

第十四回で、作者の欄の修飾語を扱った。

「とみられる」「の様式で」といった語が、記録には多い。

この一点も、その一つである。

老いた顔に、色を与える

老女
シャイム・スーティン《老女》1923年から24年ごろ。館の記録では、布に油彩。65×54センチ。額を含めて88.9×78.7×8.6センチ。番号は1988.94。クリーヴランド美術館蔵。シャイム・スーティン《老女》クリーヴランド美術館蔵

館の記録は、額を含む寸法も書いている。

88.9×78.7×8.6センチである。

絵そのものより、縦横それぞれ二十センチ以上大きい。

厚みは8.6センチある。

九点のうち、いちばん厚い額である。

これまでの八点と、まったく色が違う。

背景は赤茶色である。

椅子は緑。

女性の服も、暗い緑である。

顔は、黄と緑と赤で塗り分けられる。

眉のあたりに、緑の線が引かれる。

顎が尖り、頬が長い。

手は膝の上で組まれている。

その手が、体に比べて大きい。

指が太く、節が目立つ。

館の記録は、この作者の肖像の作り方を書いている。

二百点近い肖像を描いたという。

いずれも一人で、名前の分からない相手で、正面を向く。

手は腰か膝に置かれる。

そして、体の形が歪められる。

これは館の見解である。

こちらで確かめられるのは、手が大きい、という事実までだ。

老いの示し方として、この一点は例外的である。

皺を細かく描いていない。

首の皮膚も、はっきりとは描かれない。

代わりに、顔の色が変えられている。

そして、手が大きく作られている。

手の大きさで、年齢を示す方法もある、ということになる。

老人が、役を持つとき

ここまでの六点は、顔そのものが主題だった。

残る三点は違う。

老人が、物語の中で役を持っている。

立つ老人
アントニオ・マリア・ザネッティ(一世)《立つ老人》1725年。館の記録では、明暗を分けた多色刷りの木版画。番号は1945.236。クリーヴランド美術館蔵。アントニオ・マリア・ザネッティ(一世)《立つ老人》クリーヴランド美術館蔵

明暗を分けた多色刷りとは、こういう方法である。

まず、地の色の版を刷る。

次に、中間の色の版を重ねる。

最後に、暗い線の版を刷る。

明るい部分は、いずれの版でも彫り落としておく。

すると、そこだけ紙の白が出る。

この一点でも、衣の折り目の頂きが白く抜けている。

三枚か四枚の版を重ねた結果である。

緑がかった地の上に、白と黒で人物が刷られている。

老人が立ち、大きな本を肩に担ぐ。

長い髭が胸まで届く。

厚い布をまとい、脚が膝から下で出る。

裸足に近い。

顔は上を向き、口を開けている。

何かを叫んでいるようにも見える。

右下に、小さな印がある。

この姿は、聖人か預言者を表す型である。

大きな本を持ち、髭を長く伸ばし、粗末な衣を着る。

そういう型が、長く使われてきた。

館の記録によれば、この作者は版画家であり、収集家でもあった。

そして、別の画家の素描をもとに版を作ったという。

館の記録は、そう説明している。

つまり、この老人の姿も、誰かの下絵に由来する可能性がある。

老いた顔は、ここでは知恵の印として使われている。

老人が、めでたい姿になる

寿老人
狩野探信(守道)《寿老人》19世紀初め。館の記録では、掛幅。絹に墨。画面92.7×38.1センチ。表装を含めて180.3×50.8センチ。番号は1975.268.54。メトロポリタン美術館蔵。狩野探信(守道)《寿老人》メトロポリタン美術館蔵

絹に墨で描かれている。

絹は紙より目が粗く、墨が滲みやすい。

だから、細い線を引くには技術が要る。

この一点でも、衣の輪郭線は太さが一定である。

一息で引かれた線に見える。

縦長の掛軸である。

老人が一人立つ。

頭が異様に長い。

上へ向かって、細く伸びている。

白い髭が胸まで垂れる。

手に、節のある杖を持つ。

杖の先に、巻物のようなものが結ばれている。

そして、右手に鹿がいる。

顔をこちらへ向けている。

墨だけで描かれ、衣の輪郭は細い線である。

体の面はほとんど塗られていない。

この姿は、福をもたらす神の一人である。

長い頭は、長寿を示す形として描かれてきた。

つまり、ここでは老いが良いものとして扱われている。

皺も、白髪も、めでたさの印になる。

先の八点とは、扱いが逆である。

館の記録は、表装を含む寸法を書いている。

画面が92.7センチ、表装まで含めると180.3センチ。

倍近くになる。

軸の端を含めた幅も、別に書かれている。

掛軸の記録は、寸法の欄が三つある。

老人が、死ぬ役をする