虎は、見ずに描かれてきた——牧谿・岸駒・フランツ・マルクほか九点

横長の小さな画面である。
20.3×38.1センチしかない。
地面は茶色く、奥に灰色の岩がある。
その手前に、虎が一頭横たわっている。
体は左を向き、前脚を前へ投げ出している。
頭は上げられ、顔がこちらを向く。
背から腰にかけて、黒い縞がはっきりと並ぶ。
腹は白く、脚の内側も白い。
後ろ脚は体の下に折りたたまれている。
尾は左へ長く伸び、先が上へ跳ねる。
耳は小さく、頭に張り付いている。
背景の空は灰色で、雲が低く垂れる。
館の記録は、題と材料と寸法だけを書いている。
見えるのは、体の作りが正確なことである。
肩の骨の位置、前脚の太さ、腹の落ち方。
先の屏風の虎と比べると、骨格の描き方がまるで違う。
同じ獣を描きながら、見た者と見ていない者では、脚の付け根の描き方が変わる。
画面の小ささも見ておきたい。
横38.1センチは、腕の長さの半分ほどである。
その中に、体を伸ばした虎が横向きに収まっている。
余白はほとんどない。
尾の先は画面の左端に触れ、鼻先は右へ寄る。
つまり虎の体が、画面の寸法をそのまま決めている。
対して屏風では、画面のほうが虎よりはるかに大きかった。
同じ獣でも、器のほうを合わせるか、獣のほうを合わせるかで作りが変わる。
虎は、木版で断片になる
五点目では、虎の形が壊れる。

白と黒だけの木版である。
画面は形の断片で埋まっている。
太い曲線、細い縞、丸い渦。
その中に、虎の顔がある。
左上に、開いた口と歯が並ぶ。
目は丸く、白く抜かれている。
体は右へ伸びるが、輪郭が途中で切れる。
縞は体に沿わず、画面全体に散っている。
背景と体の境目がはっきりしない。
右下には、別の生きものらしい形がうずくまる。
館の記録では、作者はミュンヘンの画家たちの仲間だった。
その人たちと同じように、動物を描くことに集中したという。
動物は、喜びに満ちた再生を象徴していた。
しかしこの虎は、跳ねる馬たちよりも喜びが少なく、脅かすようだと記録は書く。
歯を食いしばり、後ろで身をすくめる獣のほうへ目を向けている。
そして館は、作者の最期にも触れている。
進んで軍に入り、1916年3月4日に戦地で世を去った。
その死は、同じ土地の画家たちに深い影響を与えたという。
地上の楽園という彼らの構想は、急速に消えていった。
館の記録は、そう結んでいる。
木版という技法も、この壊れ方に関わっている。
板を彫って刷るので、線は太くなり、細かい階調は作れない。
黒か白かのどちらかしかない。
その二択の中で、縞という模様を扱うと、模様が形から離れていく。
黒い縞と黒い背景が、区別できなくなる。
つまりこの虎は、技法の性質によって断片になっている。
見て描いたか、見ずに描いたかとは、別の理由である。
虎は、追い立てられる
六点目は、狩りの図である。

赤い枠に囲まれた、ほぼ正方形の図である。
画面のほとんどが、緑と茶の丘で埋められている。
丘には木立が点々と生え、細い道が曲がりくねる。
その中に、人と獣が小さく散らばっている。
中央に、四角い囲いがある。
そこに人が数人座っている。
まわりから、獣が追い立てられてくる。
黒い獣、茶色の獣、角のある獣。
左のほうには、火花を散らす道具を持つ人がいる。
そして丘の上のほうに、縞のある獣が一頭いる。
虎である。
大きさは指の先ほどしかない。
館の記録では、狩りはこの地方の貴族の好んだ遊びだった。
ほかのインドの絵よりずっと大きく作られることが多く、狩りの華やぎを称えるものだったという。
裏には作者の名と、参加者の名が書かれている。
そして獣の種類も挙げられている。
虎、熊、猪、鹿、牡鹿、羚羊。
召使いたちが花火を鳴らして獣を追い、中央の射座へ向かわせる。
そこで王族が獲物を待っている。
館の記録は、そう説明している。
つまりこの図では、虎はほかの獣と並ぶ一種にすぎない。
九点のうち、虎がもっとも小さく描かれているのはこの一点である。
そして館は、裏の書き込みについても細かく記している。
作者の名が裏に署名されているのは、インドの絵ではまれなことだという。
名前は、ジーヴァの子ジュガルシと読める。
さらに、赤いインクの番号と、値段らしい数字も書かれている。
つまりこの一枚は、絵として売られたときの記録まで残している。
表には狩りの一行が、裏には作者の名と番号と値段がある。
虎はその表側の、丘の上の一点である。
虎は、獲物をくわえる
七点目は、ブロンズである。

黒く光る小さな塊である。
虎が腹ばいになり、前脚で何かを押さえている。
押さえられているのは、細長い獣である。
体は蛇のように長く、脚が短い。
口が細く前へ伸びている。
虎は頭を下げ、その体に噛みついている。
背中の筋肉が盛り上がり、肩の骨が浮く。
後ろ脚は畳まれ、尾が体の右へ回り込む。
台座は平らで、縁が波打っている。
全体で20.4センチ四方しかない。
館の記録では、この細長い獣は南アジアの大きな爬虫類である。
鰐に近く、姿もよく似ているという。
館の記録は、それだけを書いている。
九点のうち、虎が何かを食べている場面は、この一点だけである。
そして二頭の獣は、体の作りがまるで違う。
虎は毛の塊で、面が丸く、光を柔らかく返す。
爬虫類のほうは鱗で覆われ、稜が立ち、光が鋭く走る。
同じブロンズという材料で、二つの表面が作り分けられている。
台座を含めて20センチ四方だから、机の上に置ける大きさである。
近づいて、上から見下ろす形になる。
見下ろす位置から、獣が獣を襲う場面を眺めることになる。