壁は、絵と同じ形をしている——デューラー・アルトドルファー・トライプほか九点
壁そのものを、正面から写す
壁が主題になった写真が一点ある。
インドの大きな寺院の、本殿の壁面を撮った塩紙の印画である。
画面は27.4×36センチ、台紙まで含めると45.3×57.3センチ。
写っているのは、二層に積まれた石の壁である。
壁は左右へ長く続き、画面の外へ出ていく。
壁の面には、規則的にくぼみが並ぶ。
館の記述によれば、そのくぼみには神々の像が収められている。
さらに、この壁の内側には聖なる石が祀られていると書かれている。
つまり、見えているのは外側だけである。
館の記録には、技法についても細かい記述がある。
撮影者はガラスではなく蝋を引いた紙を陰画に使った。
重さと割れやすさを避けるためだったかもしれない、と館は書く。
印画は、食塩と硝酸銀を塗った紙に焼き付けたという。
台紙には、番号を刷った紙が貼られている。
さらに、撮影者の肩書を押した空押しの跡もある。
館は、その文言まで記録に写している。
写真の裏側の事情が、これだけ細かく残されている。

壁に掛けるもの、壁を覆うもの
壁は、描かれるだけでなく、使われる面でもある。
九点のうち二点は、壁に掛けるために作られていた。
一点目は、七宝の大皿である。
皿の直径は28.9センチ、枠まで含めると50.7×50.7センチになる。
中央の丸い面は、金色に光る。
そこに、細い枝が斜めに伸びる。
枝には赤紫と黄の葉が付き、二羽の小鳥が止まっている。
鳥の目は白く、丸く抜かれている。
周りの枠は、緑の地に金の唐草が渦を巻く。
館の記録は、制作にかかわった二人の名を併記している。
館の記述によれば、この時期の西欧の工芸には日本の意匠の影響があった。
草花を余白の多い画面に置く扱いが、それにあたるという。
題に付いた壁の語は、掛ける場所を示している。
描かれているものとは、関係がない。

二点目は、綴織である。
全体で416.4×563.6センチある。
高さが四メートル、幅が五メートル半を超える。
壁を覆うために作られた布である。
画面には、大勢の人が集まっている。
中央の女性が、右手を伸ばして何かを指している。
指す先には、大きな紙を広げた二人がいる。
一人は膝をついている。
館の記述によれば、その紙は都市の城壁の設計図である。
つまり、壁を覆う布の上で、壁の設計が示されている。
館の記述は、これが八点続きの一枚だとも書く。
八点で一つの物語を語る組物だった。
寄贈された当初は、甲冑の陳列室に掛けられたという。

壁になる予定だった絵
もう一点、壁と関係の深いものがある。
半円形の板紙に描かれた油彩である。
42.8×93.2センチで、上の縁が弧を描いている。
館の記録は、この形を半月形と書いている。
内容は、山と川のある風景らしい。
白く光る山が、中央の奥に立つ。
手前には、黄土色の斜面が広がる。
筆の跡は粗く、形は簡単にまとめられている。
館の記録では、これは壁画のための習作である。
東オレゴンの建物に描く予定だった、と書かれている。
半円形なのは、壁の上部の形に合わせたからだろう。
完成した壁画がどうなったかは、記録にない。
残っているのは、この習作だけである。
壁のための絵が、壁から離れて館にある。

壁が、通りの名になる
最後の一点は、語の外れである。
十九世紀のニューヨークを描いた、ごく小さな水彩。
6.8×8.9センチしかない。
名刺より小さい。
画面には、通りの両側に建物が並ぶ。
左の建物は三階建てで、窓が規則正しく並ぶ。
右には、屋根の急な建物がある。
道には、人が十人ほど描かれている。
犬らしい影も見える。
歩道の縁に、街灯が一本立つ。
題にある壁の語は、この通りの名である。
その名は、かつてそこにあった市の壁に由来する。
だが画面には、市壁は描かれていない。
十九世紀には、すでに取り払われていたからである。
残ったのは名前だけである。
そして、その名を題に持つ紙が、館に残っている。

壁の前に座るか、壁に寄りかかるか
人と壁の距離も、数えておきたい。
人物が描かれた五点で、壁との関係は三通りに分かれた。
壁の前に座るのが二点。
壁のくぼみの中に立つのが二点。
壁から離れて歩いているのが一点である。
最初の銅版画の女性は、壁のすぐ手前に座っている。
背中は壁に触れていないが、影の付き方から近さが分かる。
くぼみの中に立つ人物は、壁と一体になっている。
祭壇画の聖人たちは、動くことを想定されていない。
くぼみの幅が、そのまま人の幅になっている。
三通りのなかで、いちばん自由なのは通りを歩く人である。
ウォール街の水彩では、人は道の真ん中にいる。
建物の壁は左右にあり、後ろにはない。
壁が背景でなく、両側の枠になっている。
同じ壁でも、置く位置で働きが変わる。
後ろにあれば背景になり、両側にあれば通路になる。
上にあれば天井に近づき、下にあれば床になる。
面の向きだけで、呼び名が変わっているとも言える。