板から、カンヴァスへ移す——ラファエロ《アルバの聖母》ほか

縦長の画面に、岩と木が並ぶ。
左には、細い十字架が立つ。
十字架には、小さな人物が架けられる。
その根もとに、太い枝が横に伸びる。
右下に、老人が跪く。
上半身は裸で、腰に青い布を巻く。
手を胸に当て、十字架を見上げる。
その前に、石が積まれる。
中景には、緑の草地と水が広がる。
奥には、青い山が二つ重なる。
空は淡く、雲が薄い。
右上には、岩の壁が斜めに立つ。
細部が非常に細かく、線が硬い。
一点だけ、合板が使われる
館の公開データを見ると、移し先に合板を使った例もある。
合板は、薄い板を何枚も貼り合わせた材料である。
一枚の板より反りにくい。
板絵の問題を、板で解決しようという発想だ。
もっとも、合板が普及したのは二十世紀に入ってからである。
つまり、その処置は比較的新しいことになる。
移し替えの記録から、処置の時期を推し量ることができる。
カンヴァスへ移されたものは、十九世紀の処置かもしれない。
合板へ移されたものは、二十世紀の処置だろう。
材料の名が、時代の手がかりになる。
技法の欄は、材料を書くことで時代も書いている。
書いた人が意図したかどうかは分からない。
しかし、読めばそう読める。
移し替えが、多い理由
九点のうち六点は、同じ収集から来ている。
サミュエル・H・クレス・コレクションである。
残る三点は、別の二つの収集から来ている。
なぜ一つの収集に集中するのか。
その収集は、十五世紀から十六世紀のイタリア絵画を多く含む。
この時期のイタリアでは、板絵が主だった。
そして、板絵は移し替えの対象になりやすい。
つまり、集めた時代と地域が、処置の履歴を決めている。
九点の偏りは、収集の性格の反映である。
館の公開データで数えると、移し替えの記録を持つ作品は四十点を超える。
その多くが、同じ時期のイタリア絵画である。

男が、半身で描かれる。
体は左を向き、顔はこちらへ戻す。
頭には、黒い帽をかぶる。
帽には、金色の小さな飾りが付く。
肩には、褐色の毛皮の襟が掛かる。
その下は、黒と金の縞の衣である。
胸もとには、白い布が細かく襞を作る。
両手を体の前で組む。
左には、赤い幕が上から垂れる。
右奥には、窓のように景色が開ける。
緑の草地と、白い建物が見える。
小さく、動物らしい形もある。
赤い幕と黒い衣の対比が強い。

縦長の画面に、聖母が座る。
体は左を向き、顔は下へ向く。
両手で、開いた本を持つ。
本の頁が、白く光る。
衣は赤で、袖は橙色である。
膝から下には、青い布が広がる。
腰かけているのは、石の縁のようだ。
その縁には、模様のある布が掛かる。
背後には、低い塀がある。
塀の向こうは、青い水面である。
さらに奥に、緑の岸と建物が見える。
左右には、細い木が立つ。
木は葉を落としかけている。

聖母が半身で描かれ、膝に子を抱く。
聖母の後光は、金色の円板である。
その縁には、放射状の線が刻まれる。
衣は暗い赤で、金の縁飾りが入る。
頭には、白い薄布が掛かる。
膝の上の子は裸で、体をひねる。
子の後光も、金色の円板である。
背後には、金色の草花の文様が広がる。
その一部が剥がれ、下の層が見える。
右下には、渦を巻いた形がある。
椅子の肘掛のように見える。
技法の欄には、テンペラと書かれる。
九点の中で、テンペラは二点だけである。

横長の画面である。縦の二倍以上の幅がある。
草地に、人物と動物が散らばる。
中央右に、裸の人物が座る。
手に楽器を持ち、演奏する姿勢をとる。
その左に、赤い衣の人物が横たわる。
さらに左には、二人が絡み合う。
右下には、水鳥が数羽いる。
中央下には、細長い水面がある。
奥には、木立が横に並ぶ。
木は細く、葉が上部に集まる。
空は淡い青で、雲がない。
横に長い形は、家具の一部に使われたことを示す。
円と、横長と、縦長
九点の形を見ると、三種類ある。
円が一点。
横長が一点。
残る七点は、いずれも縦長である。
縦長の七点は、聖母子か、肖像である。
人物を収めるための形だ。
横長の一点は、家具の一部だったと考えられる。
円の一点は、当時のイタリアでよく作られた形である。
丸い板に絵を描き、部屋に掛ける。
形が違えば、用途も違う。
そして、用途が違えば、板の作り方も違う。
移し替えの難しさも、形によって変わっただろう。
館の記録は、そこまでは書かない。
書かれるのは、寸法と、移した先の材料だけである。